第2話「アキト、身代わりの勇者を召喚する」

 異世界勇者召喚の魔法陣がピカッと光り輝き、その中央にいかにも異世界勇者になりそうなイケメンな若者が登場した。

 学生服だから、おそらく高校生だろう。


 召喚する側から見るとこんな感じになるのかと、アキトも興味深く観察した。

 ハリウッド映画さながらのスペクタクルな演出である。


 同時にアキトは魔法陣とのつながりを自分から、高校生の若者へとすり替える。


「ほら、できましたよ」


 姫聖女ソフィアが、唖然とした顔でつぶやく。


「まさか、こんなことができるなんて信じられませんわ!」


 召喚されたウルフヘアのちょっとやんちゃそうなイケメン高校生は、姫聖女ソフィアを見てウィンクを決める。

 こんな場所にいきなり召喚されてきて、なかなかに豪胆な男の子である。


 鑑定の水晶を高校生に向けた王様が叫んだ。


「凄いぞ! 本当の勇者だ!」


 アキトも姫聖女や王様が持ってる鑑定の水晶をそっと覗き込んで見ると、ウルフヘアの高校生は職業がすでに勇者だった。

 スキルも、アキトも持っている異世界人の標準装備、『言語理解』『鑑定』『空間収納』『心身強化』に加えて、『神聖剣術』『上級格闘術』『火魔法』『水魔法』『土魔法』『風魔法』『雷魔法』『毒耐性』『麻痺耐性』『睡眠耐性』『気絶耐性』『対魔法耐性』などなど、水晶に表示しきれないくらい使えそうなスキルがたくさん並んでいる。


 こりゃ本物の勇者だと、一目でわかる。

 自分で使ってみてわかったのだが、召喚魔術は望んでない人間は喚び出せないようになっている。


 喚び出したアキトの感覚だと、この高校生は凄く勇者になりたがってるはずだ。

 しかし、万が一にも間違いということがあってはいけないので、一応本人に確認してみよう。


 すげーほんとの城だとか、すげーほんとの姫だとかつぶやきながら、感動の面持ちで周りをキョロキョロ見回している高校生に、アキトは話しかける。


「あのちょっといいかな」

「なんだいおっさん。今忙しいんだけど」


「すぐ終わるから、君は今の状況は理解してるかい?」

「ああ、これってもしかしなくとも異世界召喚だろ。あれ、おっさんも日本人……だよな? 俺と一緒に召喚されたの?」


 最近の高校生って凄いなとアキトは感心する。

 何も聞かないうちからこのファンタジーな状況が理解できてるとは、さすが勇者に適性のあるやつだ。


「俺のことはどうでもいいよ。君は、魔王を倒す勇者として喚び出されたんだけど、オーケーかな?」

「オーケーに決まってるだろ。こんな熱い展開を、俺は待ってたんだ!」


 はい、勇者君の許可は取れました。

 王様も、「おお勇者殿、なんと頼もしい!」と喜んでいるようだし、これなら大丈夫そうだ。


 苦難に立ち向かう主人公なんかは、やりたいやつにやらせておけばいい。

 アキトは、ゆっくりと異世界を満喫できる脇役モブで十分満足だった。


「それじゃあ、俺は勇者じゃないみたいなんで、ここから出ていってもいいでしょうか」


 アキトがそう言うと、王様が一瞬じっと見つめて考え込んだが……。

 うむうむと、満面の笑みで応えた。


「もちろん約束は守る。アキト殿、勇者召喚ご苦労であった。これは少ないが、礼として持っていってくれ」


 なんと王様は、中にたっぷり金貨の詰まった革袋を渡してくれた。

 やった、これで当面の生活費はなんとかなる。


「ありがとうございます。それでは、私はこれで失礼します」

「え、ちょっと待ってください。アキト様!?」


 姫聖女ソフィアがなんか引き留めようとしてきたけど、この場で一番偉い王様の許可は取ったのだ。

 アキトは、面倒ごとに巻き込まれる前に、その手を振り払ってダッシュで城から逃げ出すことに成功した。

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