異世界無双の召喚者 ~無限に使える召喚術はぶっ壊れレベルで最強でした~

風来山

第1話「アキト、異世界召喚される」


 砂川すなかわアキトの眼の前に、いかにも王様という風体の豪華絢爛なオジサンと、いかにも姫という美少女が兵士を引き連れて立っていた。

 二人とも、金髪碧眼。まばゆいばかりの美形である。


 アキトが周りを見回すと、中世のお城といった様子だ。

 その周りには、騎士やら魔術師やらファンタジーっぽい人がいっぱいいる。


「おお、勇者よ。よくぞ呼びかけに応えてやってきてくれた」

「はぁ……」


 いかにもなセリフに、映画の撮影かとも思ったが、そうだとするとアキトの立ち位置は主役だ。

 そもそもアキトは俳優ではない。


 くたびれた背広にビジネスバックを背負った、二十九歳の生活に疲れたサラリーマンである。


「お父様、いきなりそう言っても困惑されるばかりですわ。まず、ご説明して差し上げないと」

「おお、そうであった」


 早速、お互いに自己紹介から初めての説明タイム。

 もしかしたらそんなことじゃないかなと思ってたら、やっぱりそうだったらしい。


 アキトは、剣と魔法の中世風ファンタジーの世界に勇者召喚されたのだ。

 ベタにも程がある展開なので、アキトも理解が早かった。


「もしかして、魔王を倒せとかいう展開じゃないですか」

「おお、さすがアキト殿は勇者だ。話が早い」


 いや、勇者じゃないと思うんだけど。

 度重なる勤労疲労で、今にも倒れそうなサラリーマンを喚び出して、魔王討伐とか無理すぎないか?


「でも、アキト様は自ら望まれて来たはずですわ。運命の導きに応えてくださったのですから。あなたがこそが、この世界を救う勇者なんです!」


 ソフィアと名乗った姫様(見た目通り本当にこの国の姫だった、姫であり聖女でもあるらしい。姫聖女って属性盛り過ぎだろ)の説明によると、喚ばれる側が望まない召喚はできないらしい。

 そう言われれば心当たりはある。


 ここの所、会社からずっと家に帰れず、もうこのままだと限界は近いと思っていたところだった。

 どこでもいいから、どこか遠くに逃げたいと思ってたことは確かだ。


「だからといって、魔王を倒せって言われてもね」

「すぐ倒せというわけではありません。姫であり聖女でもある私と一緒に冒険していただいて、ゆっくりこの世界に馴染みつつレベルアップしてくださればいいのです」


 なんでも、伝説によると異世界人は召喚時に特別なスキルを授かるらしく、成長すればおそらく魔王を倒せる存在になるというのだ。

 おそらくという希望的観測が、なんともいい加減である。


「そもそも、俺って本当に勇者なんですか?」

「それなんですが……」


 鑑定の水晶を持って姫聖女が微苦笑している。

 王様が、うーむと腕を組みながら言った。


「アキト殿の職業は、召喚術師だ。本当はもっと戦闘向きの人材が欲しかったのだが」

「お父様! そんなことはありません。アキト様はただの召喚術師ではありません。『全召喚』という未知の希少スキルがありますわ!」


 鑑定の水晶という物を見せてもらうと、確かにアキトのステータスには、異世界人の標準装備である『鑑定』『言語理解』『空間収納』『心身強化』のスキルに加えて『全召喚』というスキルがあった。


「この『全召喚』というのは珍しいんですか?」

「ええ、見たことないですわ」


「どんなスキルなんですか」

「見たことも聞いたこともないのでわかりません。でもきっと、世界を救う凄いスキルです。聖女である私にはわかるんです!」


 満面の笑みで、両手を組んで何の根拠もないことを言う姫聖女。

 ちょっと……いや、かなり駄目なタイプの姫様だなと、察したアキト。


 どうもアキトは巻き込まれ体質というか……。

 こういう思い込みの強い女性に振り回されて、嫌な思いをした経験ならたくさんある。


 普通の男なら、金髪碧眼で超美麗でおっぱいもお尻も大きい高貴な女の子と旅をするとか嬉しいんだろうけど。

 このときのアキトは、ほとほと疲れ切っていてそういう欲求がわかなかった。


 この高貴なる私と旅できて嬉しいでしょう的な笑顔で、むんむんとお尻を振って媚を売っている押し付けがましい姫様と魔王退治とか、とても疲れそうで嫌だった。

 生活に疲れ果てていたアキトは、確かに異世界行きを望んでいたと思う。


 だからこそ、異世界では自由に生きてみたい。

 せっかく社畜人生から解放されたのに、なんでわけのわからない王国のために戦わなきゃならないのか。


 こういうときに取れる方策はたった一つ。

 それは、身代わりを立てることだ。


 今のアキトには、どうやらその力があると腕に光る魔法の輝きが囁いている。


「俺は召喚術師みたいなので、代わりの異世界勇者を召喚するってことでお役御免してもらえませんか?」

「アキト殿。それは、難しいのではないか……」


 ラウールと名乗る王様が言うには、なんでも異世界勇者を召喚するのに、国中の聖職者や召喚術師が集まって総出で十年ぐらいかけて召喚したらしい。

 それぐらいの高度な召喚術と、複雑な魔法陣が必要なので無理だというのだ。


 確かに、床にかなり複雑な術式の魔法陣が描かれているのはわかる。

 でも、これそのまま使えばいいんじゃないかな?


「あの、多分ですけど、俺できますよ勇者召喚」

「なんだと?」


 自分の職業を召喚術師だと自覚した時から、さっき自分が召喚される時に受けた召喚魔術を思い出して、そのまま再現できると感じたのだ。

 どうやら、『全召喚』とはそういうスキルらしい。


「何はともあれ、やってみますね」

「それはできるなら、やって欲しいものだが……」


 論より証拠だ。

 アキトは、さっき自分が受けた異世界召喚魔術を再現してみることにした。

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