【カクヨムコン10短編 お題】 神になるための試験

すずと

この試験を乗り越えれば……きっと……

 とうとうこの時が来てしまったか。


 いくつもの鍛錬を乗り越えて辿り着いた神の領域。


 僕は今日、神になる。


「よぉ。どうだい調子は」


 神候補の一人である男が隣の席に座り、フレンドリーに絡んで来た。


 彼の顔色は悪く、酒臭い。この大事な時にこの神は酒を飲んでいたのだろう。


「僕の方は自信しかないね。神の眼を昨日作ったからさ」


「その左目……そうかい、あんたはそれで行くのか」


「きみはどうするんだ?」


「俺かい? 俺はストレートでいかせてもらう」


「本当にそれで神になれるのか?」


「なれる。先人達の多くもストレートで行き、散って逝った」


「散ったらだめなのでは?」


「良いんだ。俺の人生は真っ直ぐストレートしかないんだ」


「矛盾していると思うが、お互い頑張って神になろう」


「ああ」


 そして逆隣に座ったもう一人の神候補は女性だ。


「調子はどう?」


「俺には神の眼があるから大丈夫」


「神の眼……あー、それ」


 彼女は俺の左眼を見て頷いた。


「キミはどの戦法でいくんだい?」


「私はセクシー谷間よ」


「なるほど、お色気勝負か。男にはできない戦法だね」


「ふふ。女の強みを存分に発揮してあげるわ」


 なるほど。これは強敵である。


 前の席に座る男性の神候補が後ろを向いて答えてくれる。


「俺は神の手で行く」


「それもまた王道だな」


 斜め前に座る女性の神候補も教えてくれる。


「私は脇よ」


「それはまた変化球だ。頑張ろう」


 後ろに座る、眼鏡をかけた知的な女性の神候補にも聞いてみよう。


「きみはどうするの?」


「うるさいわよ」


「なるほど、手の内は晒さないと。賢い選択だ」


 彼女の口調は厳しいが、彼女の戦法が一番だろう。


「はい、みなさん。カンニングは一発アウトですからね。それでは前期試験を開始してください」


 教卓に立つ大学の先生から放たれた言葉で、一斉に紙をめくる音が教室内に響き渡った。


 カリカリカリとペンの走る音が教室内に響き渡り、気持ちが焦ってしまう。


 試験の問題に目をやると、なぁんにもわかんない。


 臆するな、僕。


 今日までやって来たことを思い出せ。


 そう、この日のために僕は眼帯を左眼に巻き、その内側にカンニングペーパーを仕組んだ。


 全て単位を取って夏休みを謳歌するになるためだ。


 みんなも同じだろう。


「あ……」


 し、しまった。


 眼帯の裏にカンニングペーパーを仕組んだが、全く見えない。


 くそぉ……大学のカンニング防止策が強過ぎる。


「はーい、きみ、カンニングでアウト」


「なっ!?」


 隣の神候補が速攻で捕まった。


 ま、股にカンニングペーパーを仕組むなんてバレバレだわな。


「俺の股間じゃ力不足だったか」


 神候補が一人脱落。ふっ、単位を落として夏休みがパァになってしまったね。


「はい、きみもカンニングでアウト」


「な!?」


 逆隣の谷間にカンニングペーパーを仕組んでいた子もバレた。


 ま、本質は股に挟んでいるのと変わらないからね。


「私のセクシーが効かないなんて」


 試験に必要なのはお色気じゃなくて知識だったね。


「くそっ。手汗で文字が濡れて見えない」


「やばい。脇汗で文字が濡れて見えないわ」


 前の神候補もバカだな。


 つうか女子大生の脇汗カンニングペーパーって、なんか如何わしいな。売れるんじゃなかろうか。


 とか思っている場合じゃない。


 どうする。このままじゃ回答できない。


 考え込んでいると、僕の頭に衝撃が走る。


 そうだ! 閃いたぞ!


 土壇場の閃き。この局面で僕が編み出した究極技。


眼帯をめっちゃ高速にパチパチアクセレード・レペテーション


 僕は超スピードで眼帯をパチパチさせた。


 み、見える。見えるぞ! 解答が見える!!


 パチパチパチパチパチパチパチパチ!


「きみ、なに、してんの?」


「へ?」


 先生に変な目で見られた。


「えっと、これは……」


「んー? その眼帯見せて」


「こ、これはだめです! 神の眼が……」


 強制的に没収されてしまい、先生が笑った。


「眼帯にカンニングペーパーを仕込んだのはきみが初めてだよ」


「えへへー。初めてってことで見逃してくれるとか?」


「アウト」


「ですよねー」


 終わった。


 僕らの戦いが終わった。


 もう、戻らない夏。神になれなかった。夏。


 努力は実らない。


「その努力を普通に勉強に活かせば良いのに」


 後ろの眼鏡美人に言われてしまった。


「確かに」


 ※カンニング行為は絶対にやめましょう! 約束だぞ。

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