第54話 矛盾
「――はっ!」
「……くっ」
「……ふふん、これで四勝三敗。再びあたしのリードだね」
【……流石ですね、
「うん、もちろん新技だよ? いや〜あれは習得に随分と時間が掛かったよ――三年くらい」
「満を持しての解禁!?」
翌日、放課後にて。
空き教室にて、少し息を整えつつそんなやり取りを交わす僕ら。さて、いったい何をしていたのかと言……いや、言うまでもないかな。はい、例によって卓球です。
「さあ、
――ガラガラガラ。
すると、斎宮さんの言葉を遮る形で徐に扉が開く。そして――
「……ほんと、いっつも遊んでんなお前ら」
そう、少し呆れたような表情で口にするマッシュヘアの美少年。そんな彼に対し、さっとペンを走らせ――
【――こんにちは、
「……まあ、別に良いけど」
少し駆け足で近づきそう尋ねると、少し顔を逸らしつつも承諾してくれる日坂くん。そして、彼を招き入れるつつ
「――ご機嫌よう、先輩方。突然の来訪、どうぞお許しください」
すると、ふと背中に届く凛とした声。一日に二人の来訪という、恐らくは初めての事態に少し驚きつつ振り返ると、そこには――
「……えっと、ご機嫌よう……
ひとまず、挨拶を返す。……さて、ここからどうしよう。いや、聞くべきことは決まってるんだけ――
「――それで、何の用かな? 織部さん」
「……あっ」
すると、単刀直入にそう問い掛ける斎宮さん。まあ、僕も聞こうと思ったことなので助かったのだけど……うん、なんか鋭くない? 口調も視線も。
だけど、そんな斎宮さんに全く怯む様子もなく――むしろ、何処か不敵に微笑む織部さん。そして、
「ええ、そのことなのですが――少々、お時間頂けますか?
【……えっと、どうなさいましたか? 織部さん】
それから、数分経て。
空き教室から最も近い階段の踊り場へ移動した後、戸惑いつつそう尋ねてみる。きっと、他の人のいるところでは話しづらいことなのだろうけど……でも、僕なんかにいったい何の――
「――とっても仲が良さそうですよね、あのお二人。聞くところによると、以前はお付き合いなさっていたとか」
「……へっ? あ、はい……」
そんな疑問の
……ただ、それはそうと……いったい、どうして今あのお二人のことを――
「――そこで、私からの提案です。あのお二人――斎宮先輩と日坂先輩を、私達により復縁させるというのは如何でしょう?」
「……えっと、復縁……ですか?」
「はい。是非、私達がその後押しをしようと」
予想だにしない織部さんの提案に、ポカンと口を開き確認を取る僕。……えっと、どうして突然そんなことを――
「――まあ、理由など何でも良いではありませんか。それよりも、朝陽先輩のお気持ちが重要かと。と言うのも――あのお二人が再び結ばれることを誰より願っているのは、他ならぬ貴方ではないでしょうか?」
「……っ!?」
すると、
…………だけど――
【……了承しました、織部さん。是非、微力ながら協力させて頂けたらと】
「…………ふぅ」
その日の、宵の頃。
リビングにて、世界史の勉強を一通り終え背凭れに身体を預ける。うーん、やっぱり複雑だなぁ。19世紀のフランス史は。
「……これで、良かったのかな」
ふと、ポツリと呟く。何のお話かと言うと……もちろん、今日のあの件で。
協力する、なんて言ったけど……そもそも、斎宮さんが好きなのは
……いや、でもそれ以前に……うん、矛盾も甚だしいよね。斎宮さんの想いを――郁島先輩への
……だけど……うん、これで良い。あの二人なら、いつかきっと幸せに――
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