第30話 聞き間違い?
「……あの、
「…………」
その日の、放課後のこと。
空き教室にて、古びた机に頬杖を突きムスッとした様子の斎宮さん。……えっと、なにかしたかな? 僕。
……うーん、原因があるとすれば……やはり、あの昼休みだろうか。どうしてか、
……ただ、それでも理由はやはり皆目不明で。称賛を伝えにいかなかったから……うん、違うな。僕なんかが言わずとも、既に数多の生徒から受け取っていたわけだし……そもそも、彼女はそういう人じゃない。
それなら、僕なんかが1位を取ったことに不満を……うん、違うな。繰り返しになるけど、彼女はそういう人でもない。……でも、だとしたらいったい――
「……ほんと、随分とモテるんだね。
「…………へ?」
すると、頬杖を突いたままポツリと呟く斎宮さん。……ん、僕の聞き間違いかな? ……でも、確かにはっきりと聞き取れたはずだし……だとすると――
【……あの、斎宮さん。このようなことを申し上げるのは、僕としても大変心が痛むのですが……その、もし宜しければ良い眼科を紹介し――】
「いや結構だよ!! というか自分で言ってて虚しくならない!?」
大変心苦しくもそんな申し出をするも、書き終えぬ内に心外とばかりに鋭くツッコミを入れる斎宮さん。どうやら、彼女の中では至って正常のようで。……うーん、僕としては頗る心配なんだけど……とは言え、無理強いするわけにもいかない。なので――
【……その、大変心配ではあるのですが……それでも、斎宮さんご自身がそのように仰るのであれば致し方ありません。ですが、ご自身の感覚に些かでも違和感を覚えたらいつでも仰ってくだ――】
「どんだけ疑われてんのあたし!?」
「……でも、感じ悪かったよねあたし。ごめんね、
「……あ、いえそんな……」
「……でも、それはそれとして……実際、人気あるんだよ、新里。クラスの子達も結構、貴方のことそういう目で見てたりするし」
「……そう、なのですか……?」
その後、ややあって何処か浮かない表情で話す斎宮さん。……えっと、見られてたの? 僕が? それに……そういう目って、そういう目ってことだよね? ……うん、自分でも何言ってるのか分からないけど……ともあれ、僕に限ってそんな――
……あっ、でも一度だけあったかも。斎宮さんと
……でも、あれはあの時――それも、あの帰り道のみの期間限定新里フォルムであり、当然ながら学校では一切披露していない。そもそも、斎宮さんに駄目と言われるまでもなく、僕一人であんなふうにお洒落になれるはずもないわけだし。まあ、寝癖のボッサボサも披露してないけど。
「……えっと、何て言うのかな。前にも言ったと思うけど、もともと素材は良いの、新里は。でも……うん、こう言ったら悪いなとは思うんだけど……ほら、周りの子達から見れば、新里って根暗で全然喋らない印象が強かったと思うの」
「……えっと、その……申し訳ありません」
「……いや、なんで貴方が謝るの」
すると、僕の謝罪に呆れたように答える斎宮さん。……うん、自分でもなんでかなとは思う。ただ、なんか申し訳ないなぁって。
「……でも、最近はそうじゃなくなったの。きっと、自分では気付いてないだろうけど……以前より随分と明るくなったんだよ、新里は」
「……斎宮さん」
そう、柔らかな微笑を浮かべ告げる斎宮さん。そんな彼女の言葉に……今度は、否定できなかった。とは言え、他の人達の目にも明らかなほどに明るくなれたとはまだ思えない。
……それでも、あの頃から――具体的には、一ヶ月くらい前から……それまでの自分より、少しずつでも前向きになってきたことは、流石に自覚しないわけにはいかないから。……そして、それが誰のお陰かなんて……うん、それこそ言うまでもないよね。
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