第22話 それはそれで複雑?

「……えっと、どうしたのにい……あっ」


 そう、先ほどまで以上の困惑をありありと浮かべ尋ねる斎宮さいみやさん。だけど、間もなくハッと表情が変わり言葉を止める。……良かった、僕の意図に気付いてくれたみたいだ。



『……えっと、受け付けで希望を伝えれば用意してくれますよ?』


 つい、数分前のこと。

 駆け足で去っていく少女の背中に、どうにか絞り出した声を届けとどめる。すると有り難いことに、不思議そうな表情を浮かべながらもこちらへ戻って来てくれた。たいそう可愛らしい、魔法少女の姿で。


 もしや……そう思い、その衣装を何処で手に入れたのかを尋ねてみた。……いや、口頭で伝えるのほんと大変でした。随分と緊張してたせいか、部屋を出る際何も持たずに来ちゃったんだよね。


 それでも、これまた有り難いことに、僕のたどたどしい質問といをどうにか理解してくれて――果たして、上記のように答えてくれた。それから、彼女に謝意を告げ受け付けへと……あっ、でもその前にいったん部屋に戻りました。やっぱり、メモとペンは僕にとっては必需ひ……うん、要らないよねこの説明。


 ともあれ、無事受け付けへと到着――例のごとく筆記にて、店員さんへ衣装レンタルの希望を伝える。……恥ずかしながら、女性用衣装を。それにしても、聞いたことはあったけど……ほんとにあるんだ、こういう制度システム


 すると、男性からのそういう希望もさほど珍しくないのか、驚いた様子もなく笑顔で応対してくれる店員さん。そして、魔法少女の衣装のみ貸し出し可能とのことで……うん、どうして魔法少女のみなのかは是非お伺いしてみたいところではあるけれど、今はそれどころじゃなく。ひとまず、今は女装さえ出来ればいい。


 ……いえ、趣味というわけじゃないですよ? もちろん、女装そういう趣味を否定するつもりなんて毛頭ない。ないけど……それでも、僕の趣味でないことは一応ここに申しておきます。


 それでは、いったい何のためかというと――他校の、そして同性の友人として、斎宮さんの下へ馳せ参ずるため。前提として、僕だとバレてしまうわけにはいかないので変装は必須――そして、なるべく同性の方が望ましいと思われるため。もちろん、異性と二人で遊びに来ることに何ら問題があるわけではない。それでも……相手が他校の生徒とはいえ、そういう類の噂が流れたりしてしまうのは、やはり彼女の望むところではないだろうから。



 その後、慌ただしく魔法少女へと変身、駆け足で彼女の下へと向かい――そして、今に至る。



「……えっと、その子が夏乃かのの友達?」


 僕の方へちらと視線を移した後、茫然とした様子で斎宮さんへ問い掛ける三河みかわさん。……さて、ここからが正念場だ。お二人をどうにかこうにかごまかして、なるべく早くこの場を離れる必要があるわけだけど……もちろん、そう容易くないことは分かってる。自身の女装姿すがたを確認した結果、恐らくは家族など近しい人以外には気付かれない程度には扮せていると思う。

 もちろん、似合っているなんて微塵も思わない。だけど、そこは問題じゃない。とにかく、バレなければいい。それに……仮にだけど、びっくりするくらい似合ってるなんて言われてしまえば、それはそれで複雑な気もするし。

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