第13話 美少年爆誕?

 ――それから、およそ二時間が経過して。



「……いやー、それにしても何と言うか……ほんと、想像以上だよ。すっごく良い感じだよ、新里にいざと

「……あ、ありがとうございます斎宮さいみやさん」


 すっかり黄金色に染まった空の下。

 帰り道にて、驚いたような――それでいて、本当に嬉しそうな笑顔で褒めてくれる斎宮さん。僕なんかにはもったいない過分なお言葉で、何とも申し訳なく面映ゆい心地ではあるけれど……それでも、やっぱりすごく嬉しくて。


 ただ……今でこそこんなにも暖かな心地に浸っていられるものの……うん、ほんとさっきまではほとんど生きた心地がしなかった。……いや、流石に言い過ぎかな?


 ともあれ、その理由はというと――施術開始から数十分、斎宮さんからの冷え冷えとした視線がほぼずっと僕に注がれていたから。カット中、春川はるかわさんが『……なんか、ごめんね?』と苦笑いを浮かべつつ言ってくれたのがむしろ申し訳ない。だって……うん、言うまでもなく彼女のご機嫌斜めの原因は僕にあるのだろうし。


 ……まあ、よくよく考えたら……いや、よくよく考えなくてもそうだよね。事もあろうに、僕みたいなコミュ障の陰キャラぼっちに、まるで恋愛対象外のような発言をされてしまったら……それこそ、彼女にとって甚だ不名誉であり、酷く不快になってしまうのもごく自然な反応で……うん、ほんとにごめんなさい。


 だけども……幸いと言って良いのか、施術が進むにつれ斎宮さんの視線は徐々に驚愕へと変わっていき、更には透き通ったその瞳にある種の輝きが宿っていくようにも見受けられて――ともあれ、終わった頃にはすっかりご機嫌になっていたのが見て取れたので、思わずほっと安堵の息を洩らした。


 この流れで、さっきの謝罪を……そう思ったものの、つい引っ込めてしまって。その、言い訳に過ぎないのは重々承知なのだけど……どうにも、そこには触れない方が良いような気がしたので。なので、


【……その、斎宮さん。今日は……本当に、ありがとうございます】


 代わりに――というわけでもないけれど、精一杯の感謝を伝える。すると、クスッと少し可笑しそうに声を洩らす斎宮さん。そして、どういたしましてと柔らかな微笑で答えてくれた。



 ――ところで、それはそれとして。


【……あの、斎宮さん。心做しか、先ほどから幾度も視線を感じる気がするのですが……やはり、僕の思い上がりでしょうか?】


 そう、些か躊躇いを覚えつつも尋ねてみる。……うん、自分でも自意識過剰とは思うのだけど……それでも、普段とは何処か違うような――


「うん、思い上がりじゃないよ新里。あたしも気付いてたし。三友みゆを出てからここまで、結構な数の子達が貴方のこと見てたと思うよ。とりわけ、女の子が」

「……そう、ですよね」


 ……いや、そうですよねって返答もどうかと思うけども。自分で言ってて甚く痛々しいとは思うけども……それでも、斎宮さんが気付いていたというのなら間違いないだろうし……それに、今しがたの発言こそ、先ほどから僕が感じていたことそのままなのだから。


 ちなみに、斎宮さんはというと――言わずもがなかもしれないけど、今日に限らずだいたいいつも多くの視線を集めている。尤も、その際に僕も視線を感じることはあるのだけど……それは、まあ……あれですよ。どうしてこの類稀なる美少女の隣にいるのがこんな地味男なのかと、そういった類の視線であるからして……うん、なんかごめんなさい。


 だけど……それが、今日はまるで事情が違った。何と説明すれば良いものか、上手く言葉が見つからないのだけど……それでも――


「……ん?」

「ん? どしたの新里」

「あっ、いえ……」


 不意にポツリと声を洩らす僕に、少し首を傾げ尋ねる斎宮さん。そんな彼女に曖昧な返事をした後、さっと辺りを見渡す。……気のせい、だったのかな?


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