第4話「永劫のふたり、宇宙を抱きしめて」(宇宙百合)約1,700字

 暗闇の中に、光が生まれた。ビッグバンから始まる無限の膨張。宇宙が生まれたその瞬間、彼女たちは「そこ」にいた。


 名もなき存在として。言葉も形もない、ただ純粋な意識の輝きとして――彼女たちは目覚めた。ひとつの光がもうひとつの光に気づいたとき、すべては始まった。


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 **放射優勢期――光の海を泳ぐ二人**


 宇宙が始まってからわずか10万年。それは光が宇宙全体を埋め尽くしていた時代――「放射優勢期」。

 その頃の宇宙は、今と比べるとどこか稚拙な幼子のようだった。全ては熱く、全ては光で満たされ、物質はまるで粉雪のように漂っているだけ。まだ星もなく、銀河もなく、ただ光だけが支配する大海原。


 彼女たちはその光の海の中を漂いながら、宇宙の成長を見守っていた。


「見て、リラ。あの光たちが語り合っているわ。ぶつかり合いながら、どこかで新しい形を探している」


 アストラが指し示す先には、原初の光子たちが縦横無尽に飛び交っていた。まるで乱雑な旋律のようだが、どこか調和があるようにも見える。


 リラはそっと頷き、アストラの手を握った。その手は、形を持たない光の糸のような存在だったが、そこには確かな温もりがあった。


「これが、宇宙の始まり……こんなにも幼いのね。けれど、いつかここに星が生まれ、生命が生まれる。すべての始まりをこうして見られるなんて……あなたと一緒でよかった」


 その言葉に、アストラは微笑む。彼女たちは言葉を交わしながら、この大きな光の絨毯が冷えていくのを静かに見守った。


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 **物質優勢期――闇が光を追い越すとき**


 37万年が過ぎたとき、宇宙は一つの転機を迎えた。


 光が拡散し、物質が主導権を握り始めたのだ。光子たちは自由に飛び回るのをやめ、物質の影に隠れるようになった。闇が増し、宇宙全体が静寂を取り戻していく――まるで幼子が初めて眠りにつくように。


 リラとアストラは、初めて訪れた暗闇の美しさに息を呑んだ。


 「アストラ、見て。この深い闇の中に、初めて形が生まれ始めているわ」


 物質が凝集し、最初の星々が命の鼓動を始めようとしていた。闇が光を隠し、光は闇を突き破る。静けさと躍動がせめぎ合うその瞬間、宇宙には新しいリズムが生まれていた。


 「リラ、この闇は不安定だわ。けれど、この不安定さが宇宙に命を与えるのね……美しいわ」


 二人はその場に漂いながら、闇と光が交錯する宇宙の大絵巻を見守った。光がやがて星となり、銀河を織りなし、宇宙全体に新たな秩序が生まれた瞬間、二人はそっと手を握り合った。


 「これは、始まりなのね」


 「ええ、私たちはきっと、この先もずっと見届けるのね――宇宙がどこへ向かうのかを」


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 **真空エネルギー優勢期――永遠を包む静寂**


 時間はさらに進み、宇宙が生まれてから100億年以上が過ぎた。星々は銀河を作り、生命が生まれ、消えていく。その全てを彼女たちは見守ってきた。


 そして再び、宇宙は新たな転機を迎える。重力が弱まり、真空のエネルギーが主導権を握り始めたのだ。膨張は加速し、星と星の間には取り返しのつかない孤独が広がっていく。


 「アストラ、星たちが遠くなっていくわ。これ以上近づけないくらい……まるで、宇宙が私たちに静寂を贈っているようね」


 リラの言葉にはどこか寂しさがあったが、それ以上に穏やかな響きがあった。


 「リラ、これが宇宙の選んだ未来なのね。どんなに遠くなっても、私たちはこうして一緒にいられる。だから大丈夫」


 真空エネルギーが支配する宇宙は、限りなく静かだった。けれど、その静寂の中には二人の愛が宿っていた。


 「アストラ、こうして宇宙を見守ってきたけれど……結局、私にとっての宇宙はあなたそのものだったのかもしれない」


 その言葉に、アストラは優しく微笑む。そして、リラをそっと抱きしめた。


 「リラ、私も同じよ。私たちは永遠に宇宙を見守る存在……でも、永遠の中で私が一番愛しているのは、あなた」


 その言葉を最後に、二人は宇宙を照らす最後の光となるように、そっと唇を重ねた。


 光は消え、闇が全てを包む。その闇の中にも、彼女たちの愛だけは、確かにそこにあった――永遠に。


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