【毎日更新百合ショートストーリー II 】

藍埜佑(あいのたすく)

第1話「月と赤い大地の間で」(大地の百合)約1,300字

 オーストラリアの乾いた大地に降り注ぐ太陽は、今日も容赦なく熱を放っている。その中を、二人の少女が歩いていた。


 一人は、茶色の瞳に輝きを宿した活発な少女、**ナラ**。部族の中でも俊敏さと勇敢さで知られる15歳だ。もう一人は、黒髪を長く伸ばした静かな少女、**ミリカ**。物静かで、部族の伝統的な歌や神話に詳しい賢い子として、年配者からも信頼されている。


 ナラとミリカは幼い頃からの友人だったが、成長するにつれて互いの存在が少しずつ特別なものへと変わり始めていた。それは彼女たち自身でも、まだうまく言葉にできない感情だった。


 今日は、二人で「バナイム」と呼ばれる儀式の準備をしていた。満月の夜に部族全員で集まり、祖先の魂に祈りを捧げる伝統的な行事だ。ナラは儀式に使う木の枝や葉を集めるため、乾いたブッシュの中を軽快に走っていった。


 「ナラ、そんなに急がなくてもいいのよ。」


 少し離れた後ろからミリカが声をかけた。その声は穏やかで、耳に心地よく響く。


 「だって、太陽が沈む前に終わらせないと!」


 ナラは振り返って笑った。笑顔の眩しさに、ミリカは思わず目をそらした。心臓が少しだけ早く脈を打つのを感じる。


 その後も二人で草を編んだり、儀式用の彩り豊かな塗料を岩から削り取ったりしながら、静かな時間が流れていった。やがて夕暮れが訪れる頃、二人は丘の上で少し休むことにした。


 「ねえ、ナラ。」


 ミリカが空を見上げながら言った。


 「どうしたの?」


 「満月の夜に、祖先の魂が私たちを見守ってくれるって言うけど……本当にそう思う?」


 ナラは少し考えてから答えた。


 「わからない。でも、私はいつもミリカがそばにいてくれるから怖くない。」


 その言葉に、ミリカの頬がほんのりと赤く染まった。


 「……ナラって、本当に時々ずるいことを言うわね。」


 「え、なんで? 本当のことだよ。」


 ナラが無邪気な顔で言う。その純粋さに、ミリカの胸が温かくなる。


 丘の上で、二人はしばらく沈む夕日を見つめていた。大地が赤く染まり、空は黄金色に輝いている。遠くでカカドゥの鳥たちの鳴き声が聞こえる中、ナラがそっと手を伸ばした。


 「ミリカ。」


 その声にミリカが振り向くと、ナラの茶色の瞳が真剣に自分を見つめているのがわかった。


 「私、ミリカが大好きだよ。いつもそばにいてほしい。」


 唐突な告白に、ミリカは驚きのあまり言葉を失った。しかし、その瞬間、自分の中にある感情がはっきりと形を持った。これは友達としての「好き」なんかじゃない。


 「私も……ナラが大好き。」


 気がつくと、ミリカはそう呟いていた。ナラの手が優しく自分の手に触れ、二人の間にいつもより近い距離が生まれた。


 遠くに見える地平線に、月が顔を出し始める。満月の光が二人を優しく包み込む中、ナラとミリカは微笑み合った。言葉を交わさなくても、その場にある全てが、二人の新しい関係を祝福しているようだった。

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