クズ野郎日記
財前創平
カクヨムを辞めた話 - プラットフォームの光と影について
カクヨムを辞めた。正確に言えばアカウントは既存の読者の方のために一応作り直しているが、しばらくは「哲学格闘伝説」だけに絞る。
理由は単純だ。警告が来たのだ。結論から言えば私の理解が完全に間違っていた。
カクヨムというプラットフォームについて、私は根本的な誤解をしていた。noteやXとは異なり、より文学に特化したプラットフォームであることは知っていた。しかし、その本質的な意味を理解していなかった。
作品を読んでもらうためには、まず人の作品を読む必要がある—。そう聞いた私は、作品を投稿しつつ他の作品をひたすらに読んだ。速読で。言い訳ではないが、速読は得意だ。そして、投稿という行為への敬意を込めて、内容に関わらず★★★レビューを付けていた。一日に数十作品を読み、形式的な評価を繰り返した。今思えば、異常な行動だった。
私の誤りは明確だ。第一に、カクヨムの評価システムをSNSの延長として捉えてしまった。第二に、「読む」という行為を軽視してしまった。
カクヨムの評価システムは、文学プラットフォームとしての質を担保するためのものだ。★は単なる「いいね」ではない。作品をじっくりと読み、理解し、評価した証らしい。
警告は当然の帰結だった。「作品を妥当に読んでいないのにレビューをしている」という指摘は、正鵠を射ていた。妥当という言葉に議論の余地はあるが。「さらに、利用停止を避けるためにはレビューした全ての作品をもう一度読み直せ」とのこと。
しかし、速読とはいえ一度読んだ作品だ。もう一度、更に時間をかけて読み直すのは流石にきつい。
そこで、私はカクヨムを辞めることにした。
調べてみると、私のような事例は少なくないという。速読と形式的な評価の組み合わせが、カクヨムというプラットフォームの健全性を損なっているのだ。
しかし、この経験を通じて、より本質的な課題も見えてきた。
まず、「読まれるためには読むことが必要」というシステム。相互評価による質の担保は理解できる。しかし、これは創作者に二重の負担を強いているのではないか。
書き手は無償でコンテンツを提供し、その上で他者の作品を真摯に読み、評価することが求められる。これは、明らかに二重の搾取だ。
そして、その先には商業化という夢が提示される。確かにサクセスストーリーは存在するが、その確率は極めて低い。
この構造自体に問題があるとすれば、以下のような改善の余地があるのではないか:
評価システムの明確化
・評価数の制限設定と明確化
・作品の長さに応じた最低読書時間の設定
・新人や埋もれた作品への配慮
テクノロジーの活用
・AIによる形式的評価の検出
・同様に、内容に基づく作品推薦システム
・読書時間の適切な計測
編集機能の強化
・編集者による定期的なピックアップ
・プロの目による作品発掘
・相互評価に依存しない露出機会の創出
特にカクヨムコンについては、読者選考という仕組みが「評価稼ぎ」を助長している面は否めない。投稿作品は数万にも及ぶという。これは編集者が真摯に読むには明らかに多すぎる数字だ。
そのため、まず読者評価で「選別」するという建前になっているが、これは本末転倒ではないか?より深刻なのは、この仕組みが文学の質そのものを歪めている点だ。
本来、作品の発掘と評価は編集者の専門性に基づくべきではないだろうか。数が多過ぎて評価が困難だと言うのなら、コンテストなどやめたほうが良い。
また、フォロワー数に制限をかけているように、評価にも明確な制限を設けることで、より健全な運営が可能になるはずだ。この意味ではnoteの制限の方がよっぽど好感を持てる。
結局のところ、私たちは皆、「誰かに読んでもらいたい」という純粋な願いを持っている。その願いを、より健全な形で実現できる場が必要なのだ。
いずれにしても今回の件は、私自身への大きな教訓となった。安易な行動が、プラットフォームの質を損ない、他の創作者の努力を軽視することになってしまった。
カクヨムユーザーの皆様、申し訳ありません。私はクズ野郎です。しかし、この反省を通じて、より良いプラットフォームの在り方について、共に考えるきっかけになればと思います。
皮肉なことに、この出来事は現代のデジタルプラットフォームが抱える本質的な課題を照らし出している。創作の価値、評価の在り方、そして夢と現実のバランス—。これらの問題に、私たちはどう向き合っていくべきなのだろうか。
クズ野郎日記 財前創平 @soheizaizen
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