森のドア
左藤 謙吾
第1話
「ミズキ、明日引っ越しだからね」
食卓を囲む三人家族の母親は、娘に言った。
「この家とお別れするの寂しいね」
娘が言った。
「そうだな。でも、新しい家も素敵だぞ」
父親は言った。
ご飯を食べ終えると、娘は部屋へ帰った。
「明日引っ越しか。結局あのドア開けずじまいだなー」
娘には、この家で開けたことのないドアがあった。そのドアは、母親に開けてはいけないと言われていたからだ。しかし、引っ越すのなら開けてみようという気になった。そして、部屋を抜け出して、こっそりドアの前に行った。
「おし。大丈夫」
娘の想像では、ドアの向こうには宝物が隠してあって、それを取られないようにしているのだろうなんてことを思っていた。
ガチャ
ドアを開けると、なんとそこには森が広がっていた。
「えっ?」
娘は、一瞬怖気付いた。しかし、好奇心が勝り、一歩足を踏み出した。
「すごい、、」
そして、もう一歩踏み出すと、ドアは閉まった。
「ちょっと探検してみよう」
そして、娘は森を歩き始めた。森の時間は、昼間みたいだ。涼しい風が吹いている。
「あら、人間だわ」
隣から声が聞こえた。隣を見ると、リスがいた。
「こんにちは」
娘は挨拶をした。
「こんにちは。クルミを探してるんだけど、知らない?」
「え? 知らないわ」
すると、リスは言った。
「そっか。一緒に探しに行かない?」
娘は、少し楽しそうだと思い言った。
「え? 分かった。いいわよ」
「やったー!」
こうして、娘はリスとクルミを探しに出かけた。
しばらく歩くと、リスが言った。
「あっ、あれ多分クルミの木だわ」
そう言って、木を登った。
「やっぱりそうよ! 見つけたわ!」
そう言って、クルミを咥えて降りてきた。
「ねえ、シチュー食べたくない?」
リスは言った。
「食べたい!」
娘は言った。
「じゃあ、今から作るわね」
そう言って、リスは窪んだ石にクルミを入れた。そして、葉っぱのカバンを持ち近くの川へ向かった。そして、水を汲んで帰ってきた。リスは、その水を石の中に入れた。
「ぐつぐつぐつぐつ」
リスは口で「ぐつぐつ」と言いながら、かき混ぜた。
「出来たわ」
完成したシチューは、クルミの入った水だった。しかし、文句は言えまい。
「美味しそ〜」
娘はお世辞を言った。
「さあ、食べて」
「いただきます」
娘はクルミをかじった。味は、普通のクルミだ。
「美味しいね」
「やったー!」
リスは喜んだ。
すると、そこへフクロウが飛んできた。
「あら、人間さん? こんにちは」
「こんにちは」
すると、フクロウが深刻そうに言った。
「実は今、私の息子を探してるの」
「そうなんですか」
「一緒に探してくれない?」
「いいですよ」
森に来てこんなにも頼み事をされるとは思わなかったが、どうせやることもないので、付き合うことにしたのだ。
「じゃあ行きましょう」
フクロウは、ゆっくりと飛び始めた。しばらく探すと、フクロウの息子が見つかった。巣穴の下に落ちていたのだ。
「見つかったね」
娘は言った。
「ええ、ありがとう」
そして、フクロウは言った。
「記念に息子に名前をつけてくれない?」
「名前?」
「そうよ」
「分かったわ」
娘は考えた。そして、昔飼ってた犬の名前を言った。
「ポチとかどう?」
すると、フクロウは言った。
「犬みたいじゃない?」
「確かに」
娘はまた考えた。
「じゃあ、、」
そして、娘は言った。
「幸福の福に太郎の郎で、福郎とかどう?」
しかし、フクロウは言った。
「漢字伝わらないでしょ」
「そっか、、」
娘はまた悩んだ。
「じゃあ、、」
そして言った。
「私の名前をあげようか?」
「え?」
「私の名前、ミズキって言うの。ミズキだったら、男の子でも大丈夫でしょ?」
「ほんとにくれるの?」
「うん。あげる」
そして、フクロウは、自分の息子に向かって言った。
「あんたは今日からミズキよ。よろしくね」
すると、娘は洞窟を見つけた。
「あの洞窟なに?」
フクロウに聞いた。
「あれか。あれは、たぬきの洞窟だよ」
「行ってもいい?」
しかし、フクロウは言った。
「やめときな。危険だから」
そう言って、フクロウはどこかへ飛んで行った。
娘は、どうしても洞窟が気になった。なので、こっそり洞窟に入ることにした。洞窟の前へ行き。一歩一歩歩き出す。中へ入ると、壁には、ランプがついていた。なので、少し明るかった。徐々に奥へと進んでいく。すると、前の方に人影が見えた。
「こんにちは」
娘は言った。そして、その人影が振り返るとその顔は、娘の顔と同じ顔だった。
「え? わたし?」
しかし、よく見ると尻尾がついていた。
「たぬきね?」
すると、たぬきは言った。
「君の人生もらうよ」
「え?」
次の瞬間、コウモリが飛んできて娘の首を噛んだ。
「いてっ」
すると、娘は眠たくなってきて、その場で眠った。
目が覚めると、たぬきはいなくなっていた。
「帰らなきゃ」
娘は、洞窟を出た。そして、そこにいたフクロウに頼んだ。
「帰りたいから送ってくれる?」
「いいわよ」
フクロウは言った。
フクロウは、空を飛んで道を示してくれる。
「こっちだよ」
フクロウについていくと、遠くにドアが見えた。
「ドアだ」
しかし、今まさに自分に化けているたぬきがドアから家へと入っていくところだった。
「待って」
たぬきは、ドアを開けて家へ入った。娘は、後から追いつきドアノブに手をやった。
「あれ? 開かない」
どうやら、家の中から鍵を閉められたようだ。
「そんな、、」
娘はもう二度と、帰ることはできなくなったのだった。
引っ越しの朝。車の中に父親と母親とたぬきがいた。
「おし、出発するぞ」
「うん」
たぬきは返事をした。
すると、父親は言った。
「シートベルト閉めろよ」
しかし、たぬきはシートベルトがわからなかった。
「どれ?」
「これだよ」
そう言って、父親は背中に手をやった。すると、手に柔らかい感触がふれた。
「ん? お前、尻尾がついてるぞ」
「え? いや、これは、、」
「まあいい。出発するぞ」
たぬきはほっとした。
「尻尾はバレないように仕舞っておけよ」
父親はたぬきに言った。
「え?」
たぬきは驚いて、父親を見た。
そして、母親も言った。
「そうよ。バレたら大変よ」
「え?」
そう言う父親と母親のお尻にはたぬきと同じように、、、、
森のドア 左藤 謙吾 @sken555
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます