となりのニエミネンさん

Hugo Kirara3500

ボーイッシュな彼女と仲良くなって……

「こんにちは。僕は今日からこのプロジェクトにジョインすることになりました、ヨンナ・ニエミネンと申します。よろしくお願いします。(Hello, I'm Jonna Nieminen and joined the project. Nice to meet you.)」


 私達のプロジェクトに新たに加わるためにやってきた金髪マッシュルームカットの女性の自己紹介を聴いたあと、私はそんな彼女の先輩として社内グループウェアやギットの使い方から教えた。


 それからいろいろなことがあったけど、私はそんなボーイッシュな彼女を先輩として育成しているうちに次第に萌えていった。他にマシな表現があるのかもしれないけどとりあえずそう表現したいところ。私は一緒に仕事して顔を見合わせるたびに透き通ったサファイアのような瞳に吸い込まれそうになった。


 そんなある日の終業後、彼女と一緒にオフィスビルの一階にあるセルフサービスカフェに行った。私が彼女に「何飲む?」と聞いたら「僕はもうオーダーして受け取ったよ」と言って皿に乗った大きなコインみたいなアルミの塊を見せた。しばらくしたら彼女はそれを口の中に放り込んだあとボトムズのポケットからおもむろに長めのUSBケーブルを取り出して片方をテーブル中央にある端子に挿したあともう片方をショートパンツの内側に通しました。私はそれを驚きで呆然と目を見開きながら見続けました。


 そういえば彼女がデスクでコーヒーを飲んだり、社員食堂に行くところを見たことは一度もなくて他のメンバーに聞いても、「そういえばそうね」という答えが帰ってくるだけでした。そんな事があってもしかしたら?と思ってはいたのですが……


「そう、僕は機械の体でできたアンドロイドだよ。電気って味がしないからねぇ、だから口がさびしい時は金属で保護された特殊な電流が出る回路をキャンディのように口に入れて、舌に触れると味と食感が疑似体験できるんだよ。そして『食べ』たり『飲み』終わったら返却するんだ。そもそも僕達はだ液というものがないから濡れないし、別に汚くはないし、うっかり噛み砕きそうになっても大丈夫なように金属で覆ってあるんだよ」

「で、どんな味をオーダーしたの?」

「僕が大好きな抹茶クリームフラペチーノ。渋味はもちろんシャリシャリ感もたまらないね。家では中にジェルを仕込んで重さをつけたダミーのカップを手に持ってストローを口に当てるともっと『飲んだ』感じがするんだけど、外では面倒だからやらない。あと、家で『飲んだ』後返して保証金をもらう前にデータコピーすれば以降はずっとタダと思ったでしょ? ちゃんとプロテクトかかっていて無理」


彼女の話は続いた。

「僕のもともとの名前はヤニ・ニエミネンだよ。機械の体が出来たおかげで九十年ぶりにこの世に戻ってこれたんだ。工場で目覚めてから数日後に言ったんだ。身体を女性型にしてくれって。また何年かたったら徴兵に行かなければならないからそれはもう嫌だって。ちょうど予備の体があったんですんなり行ったみたいだけど。僕の事情が事情だったから。結局、海を超えてここに来たからその意味を失ってはいるけど、女性としての生活も悪くはないなぁ、と思ってる」


「で、どんな事情なの?九十年ぶりってどういうこと?」


「第二次大戦の戦場について撃ち合いに嫌気が差して適当にやってたら即決裁判で銃殺されて適当に埋められたのさ。何が名誉の戦死だよ。ちゃんちゃらおかしいわ。強烈なトラウマで何も考えないで即決で女にしてもらったけど、今が、女二人で一緒にどこかに行ける時代で良かった。」


「そうね、私もあんたと会えて、一緒にいれてうれしい」


私達の話はつきませんでした。明日も仕事があるんだけどね。

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