天ノ川綺麗と天ノ川雄大の姉弟はとどまるところを知らない!
阿弥陀乃トンマージ
姉弟の宣言
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「いたか、鈴木⁉」
七三分けの男子がおかっぱ頭の女子に問う。
「いいえ、佐藤は見つけたの⁉」
鈴木と呼ばれたおかっぱ頭が問い返す。
「いや……」
佐藤と呼ばれた七三分けが首を振る。
「一体どこに……」
鈴木が腕を組む。
「天ノ川グループが経営する『天ノ川学院』の入学式に、グループの跡継ぎ二人がいなくてはマズい!」
「ええ……」
「お付きの俺たちの責任問題だ……!」
「分かっているわよ!」
鈴木が声を上げる。二人が睨み合う。佐藤がため息をつく。
「……やめだ、ここで揉めてもしょうがない……」
「そうね……」
「しかし、どこに行ったんだ?」
「車はあったわ。運転手さんも見てないって」
「校門に行ったが、警備員さんたちも見ていないそうだ……帰ったわけではない」
「いえ……」
「えっ?」
鈴木が右手の人差し指で空を、左手の人差し指で地面を指差す。
「空か地下から脱出した可能性が残っている……!」
「ば、馬鹿な……」
「ありえない話ではないわ! 私はヘリポートに向かうから佐藤は下水道を!」
「い、嫌だよ! 汚い方を押し付けるな!」
「こうしている間にも脱出しているかもしれないのよ!」
「お、おい、引っ張るな!」
「早く!」
「ええ……」
「ええ……じゃない!」
「……何を騒いでいらっしゃるの?」
金髪のロングヘアの美人が声をかける。
「! き、綺麗お嬢様……!」
「花子、校内でお嬢様はやめてと言っているでしょう」
綺麗と呼ばれた金髪ロングヘアが鈴木を注意する。
「も、申し訳ごさいません……」
鈴木が頭を下げる。
「敬語も禁止」
「ご、ごめん……」
「それで? 何を騒いでいらっしゃったの? 中学生気分は卒業なさい。入学式の最中よ」
「あ、あなたたちが入学式を抜け出すから探しに来たのよ!」
「そう……」
「そう……じゃないわよ! どこに行ってたの?」
「これから向かうところだ……」
「! 雄大坊ちゃま!」
佐藤が声を上げる。視線の先には無造作風のヘアスタイルをした少し長い銀髪のハンサムな男子が立っていた。男子が佐藤を睨む。
「太郎……坊ちゃまはやめろと言ってるだろう」
「も、申し訳ございません……」
「敬語もだ」
「す、すまん……」
「ったく……」
銀髪の男子は髪をかき上げる。佐藤はムッとする。
「ったくじゃねえ! お前も何をしていやがる!」
「……姉さん」
銀髪の男子が金髪の女子に視線を向ける。金髪の女子が頷いて話し出す。
「……わたくしたちは高校卒業後、本格的に家業の手伝いに入ることとなります」
「は、はあ……」
鈴木が間の抜けた反応をする。
「無論、大学にもきちんと通う予定です。学業と仕事の両立……多忙なスケジュールになるでしょうね……」
「へ、へあ……」
佐藤がさらに間の抜けた反応をする。
「……つまり!」
「「!」」
金髪の女子の声に鈴木と佐藤がビクッとなる。金髪の女子は笑みを浮かべながら、右手の三本の指をたてる。
「わたくしたち姉弟に残された自由な時間はこの高校で過ごす三年間のみなのです……!」
「……それが何故に入学式を抜け出すということに?」
鈴木が問う。
「幼稚舎からのエスカレーター式の学院……その高等部の入学式など時間の無駄です」
「無駄って……」
金髪の女子の答えに佐藤が苦笑する。
「……わたくしたちは話し合って決めたのです」
「……なにを?」
鈴木が重ねて問う。金髪の女子が銀髪の男子に目配せする。二人が声を揃えて宣言する。
「「高校生活を極める!」」
「「⁉」」
「……というわけで、部活動のチラシも受け取ってきた」
銀髪の男子が何十枚もの紙の束を見せる。佐藤が戸惑う。
「う、受け取りに行ったのかよ、普通は待ち構えられてるもんだが……」
「これから入部してくる」
「えっ⁉ も、もう決めたのか⁉」
「ああ」
「な、何部だ?」
「卓球部だ」
「わたくしもですわ」
「ええっ、綺麗も入るの?」
鈴木が驚く。
「ええ」
「な、なんで?」
「卓球には混合ダブルスというものがあります」
「! ま、まさか!」
「そう、姉弟でそれに臨みますわ……!」
「そ、そんな……」
「えっと……」
言葉を失う鈴木の横で、佐藤が側頭部をポリポリと搔く。
「花子、太郎、お二人はわたくしたちお付きということではありますが……どうぞご自由になさっていただいて構いません」
「あ、は、はい……」
「行ってくる……!」
銀髪の男子と金髪の女子が並んで卓球場の方に颯爽と向かう。
「い、行ってしまった……」
「……私たちも卓球部に入部するわよ」
「えっ⁉ 自由にしていいって……」
「だからこそよ。私たちも自由意志で卓球部に入部するの」
「え、ええ……」
「ええ……じゃない。忘れたの? 子どもの頃の決意を?」
「! い、いいや、忘れていないぜ……!」
「私たちはあの
「
鈴木と佐藤は顔を見合わせて頷き合い、天ノ川姉弟の後を追いかける。
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