ようこそ!子ぎつね亭へ 4


 悟はしんしんと空から降り注ぐ雪を見つめます。


 温泉から上がって、部屋に戻る途中の事です。

 悟からして、雪なんてめったに見られないものでした。


 季節は冬も終わり桜の咲く季節であったからです。


 ですが、その光景は特別な物には見えませんでした。

 異世界と言いますが、悟の世界と変わらない風景。


「お客様?如何なさいました?」


 ふと、隣から声がします。小雪です。

 大きな青い瞳がぱちくりと悟を見つめています。


「お腹がすきましたか?軽食でもお持ちましょうか?」


 そんな小雪に、悟は困ってしまいました。

 お腹は別にすいてはいません。

 ただ。彼女を見ると。そう、なんだか胸が締め付けられるのです。


 でも、それがどうしてか分かりません。

 笑顔を浮かべて親身に接してくれる小雪を邪険に扱う訳にもいかず。


 悟の様子を見て、小雪はやっぱり頭を下げました。


「そうですか」


 彼女が頭を下げて数十秒。悟は首をかしげました。


 中々小雪が頭を上げないのです。

 ただ手をもじもじさせて、まるで何かを悟に言いたいような。まさにそんな感じ。


 不思議そうに彼女を見つめ、少しの間。

「どうかしたの」と問いかけようとした時でございます。


 小雪が勢いよく顔を上げたのは。

 あまりの勢いに悟とぶつかりそうに成る程。

 驚く悟に小雪は言ったのです。



「あ、あの!何かありましたら、なんでも私に言いつけてくださいね!力及ばないかもしれませんが!私も精一杯精進させて頂きますから!少しでも力になりたいのです!」


 眉をキリっとあげて、顔を真っ赤にして、それはもう精一杯と言う様子で。


 悟はそんな小雪を見てクスリと笑ってしまいました。

 何せ彼女があまりにも一生懸命で、あまりにも愛らしかったので。


 笑う悟を小雪はキョトンと見つめます。

 何か笑われるようなことをしてしまったのだろうか。彼女は気づいておりません。


 何か顔に泥でも付いていただろうか。思わず袖で顔を拭います。

 そんな様子も愛らしく、普通の少女みたいで、悟は声を上げて笑うのです。


「お客様……?」


 少しして、不安そうに小雪が悟を見上げました。

 そんな少女を見て、悟は謝りながら目にたまる涙を拭うと。

 「ごめんごめん」と謝りながら彼女に一つの頼みごとをするのです。


 ――なんでも聞いてくれるのなら、俺と少し話をしてほしい……っと。

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