ようこそ!子ぎつね亭へ 2


「こちらにどうぞ!お部屋の準備は出来ています!」


 こんこん、こんろろと狐のお宿。

 悟は手を引かれるまま宿の中に入りました。


 手を引かれながら、ついつい行くのは少女の姿。

 桜色の着物に身を包み、楽しそうに前を歩く小雪の姿です。


 もっと詳しく言えば、彼女の頭の上の狐耳。ふわふわ尻尾。


「さぁ。こちらがお客様のお部屋となります」


 あれは本物か?なんて思っていると小雪は一つの部屋の前で止まりました。


 中をのぞき込めば、6畳ほどの和室。

 隅々まで綺麗に掃除され、ピカピカの和式机が目に入ります。

 改めて悟はあたりを見渡します。

 長い廊下。大きな窓。外には雪の積もった小さな庭。

 まるで、まさに、そこは綺麗な旅館そのもの。


 少しして悟は目の前の少女に「ここはどこか」と尋ねました。

 ようやく頭が追い付いてきた所です。少女は微笑みます。


「ここは、狐のお宿。異世界に行くお客様が時たまに迷い込む迷い宿。これから巻き込まれる大変な行く末の前に、ほっと一休みの為のお宿です!」


 少女の言葉に悟は考えました。

 長く長く、考えて。彼女の耳と尻尾を再び見つめて。

 恐る恐ると口を開いたのは数十秒後――。


 ――つまりは異世界…?



 はい。正解。


 ここは狐のお宿。

 様々な理由から異世界へと呼ばれた者たちが

 何の因果か迷い込む異世界のお宿。


 呼ばれた世界に行きつく前の。

 たった一日だけの、一休みの為の異世界のお宿。

 小雪はその宿屋の女主人なのです。


 愕然とする悟に小雪は頭を下げます。


「驚くことはございましょうが。私に出来る事があれば何なりと!お食事まではまだまだ時間はかかりますが、冷えた身体を温めるなら温泉はどうでしょう!」


 なんて。笑顔を浮かべて、小雪は楽しそうに尻尾を揺らすのです。

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