こんこんこんろろ狐のお宿

海鳴ねこ

ようこそ!子ぎつね亭へ


 ここは雪が深く積もる雪の世界。

 音も無く、色も無い。寂しい世界に少年が立っておりました。


 少年の目の前には雪が積もった大きな建物が一つあるだけです。

 彼は悟。何の変哲もないごく普通の少年でございます。


 悟は一人この白銀世界に立っていて、首をかしげていました。

 と言うのも、彼はつい先ほどまで自宅にいたからでございます。

 学校へ行く筈でした。

 そんな彼がどうしてこんな白銀の世界に立っているか?


 最後に思い浮かぶのは家の前。何かに当たった記憶。

 驚いて目を閉じて、気が付けばこの通り。見たこともない場所。


 悟はあたりを見渡します。

 目に入るのは雪の積もった枯れ木の森。なんとも寂しい場所です。


 上を見上げれば、大きな古い建物がポツリ。

 他には何も見当たりません。


 取り敢えず、寒くてたまらず。

 助けを求めて、大きな扉を叩いてみようかと思い始めた頃でございます。


 ――ぎぃ……。


 と、目の前の扉が音を立てて開き始めたのは。

 悟は大いに驚きました。


 そして。

 微かに開いた扉から、ぴょこん。と飛びだしてきたのは、


 なんとまぁ、大きな可愛らしい狐の耳。


 同時に扉の隙間から白い細い手が伸びてきて。

 大きな扉を「よいしょよいしょ」と開けたのでございます。


 中から出て来たのは一人の少女。

 夕焼け色の髪に夕焼け色の大きな狐の耳をぴょこんと立てて、ふわふわのしっぽを揺らめかしながら、悟に深々とお辞儀を一つ。


 驚く悟に、少女は頭を垂れたまま口を開きました。


「ようこそ!宿屋『子ぎつね亭』へ。私、女将の小雪と申します。たった一日の短い時間ですが、これから異世界に向かう貴方の為に精神真心で名一杯、頑張らせて頂きます!」


 そう言って、上げた顔は太陽の様な笑顔が浮かんでいたのです。


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