太極の神子 ~ Lost archive ~
無銘
第1章 阿州の鬼小町
第1話 残念な美少女
職員室から怒号が鳴り響いたのは、昼休みに入ってすぐの事だった。
「月岡アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッ‼︎」
麗らかな午後の
陽気に弾む生徒達の音声は実に騒がしいものだが、不思議と校内に於いては、穏やかに聴こえる。例えるのなら、早朝に奏でられる小鳥の
言わずもがな、とある生徒が教員の説教を受けている真っ只中。だが、その生徒こそが問題なのだ。
結論から言うと、彼女は美少女なのだ。とんでもなく美少女なのだ。
胸元まで伸びた銀色の髪をハーフアップに束ねており、頭上には編み込んだ髪でカチューシャを飾るなど極めて愛らしい。その毛色と言えば、美しいなんてことは言うまでもなく当然であり、透き通るような
端麗な顔立ちは、
総体的に俯瞰した時、その風貌は
「——お前は、学校を何だと思ってるんだァッ‼︎ 毎日毎日平然と遅刻早退を繰り返し、あろうことか講義中は夢の中へとフルダイブ‼︎ 放課後になれば他校の生徒と喧嘩三昧‼︎ 昭和か——ッ‼︎ お前は昭和のヤンキーか——ッ‼︎ あらゆるデジタル化が進み、今ではソーシャルゲームが解決してくれる人の不念を、この令和二二年の時代に未だアナログを
人差し指で耳穴を塞ぎ、教頭の怒声を拒絶する美少女——
溜め込んだストレスを一通り出し切り、荒ぶる呼吸に整理をつける教頭。その汗ばんだ鬼の面に、愛鐘ははにかむように微笑み、——煽った。
「もぉ〜。そんなに怒ると頭皮がより鮮明になっちゃうよ?」
「——————ッ‼︎ ふざけるなアアァァ————ッッ‼︎
「電話で頭下げてどうするのよ……」
「黙れッ‼︎ 先日も——『お宅の生徒さんが、
「——ウソっ⁈ ま、まさか——ッ‼︎」
何やら虚を突かれた様子の愛鐘。驚愕の相貌をあらわにし、衝撃のあまり一歩退いた。
「——教頭先生が、こんなにもモノマネが上手だっただなんて——っ‼︎ 知らなかったわ」
わざとらしく芝居じみた驚きを見せつけ、果てには興味深そうに
そろそろ叫び疲れたのか、そんな愛鐘の様子に、教頭が再度咆哮することはなく、まだわずかに荒ぶる息の中、彼は愛鐘に
「〝
目前の
「とりあえず今日はもう良い。相変わらず反省の色は見えないようだしな。帰りたければもう帰れ。やる気のない奴に時間を
その言葉を最後に、愛鐘は職員室から追い出された。
「………………」
——阿州の鬼小町。愛鐘がそう呼ばれるようになったのは、彼女がまだ十歳の頃だ。
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