スーパーロボット団地・ロボ団地2

「ふぅ。これでどうにか、ロボ団地を元の団地に戻せそうじゃぞ」


「博士って、やっぱすげぇや!」


 宇宙からのミサイル襲撃をスーパーロボット団地・ロボ団地が見事に防いだ直後。博士がロボ団地を発進させていた機械に、どこからか謎の声が届いた。


「よくやってくれたね。博士」


「はっ! どうにか上手くいきました」


「博士ー? この人だれ?」


「日本政府じゃよ。わしらは実は繋がっておったんじゃ」


「えぇ!?」


「それだけじゃなく、実は宇宙政府とも繋がっておったんじゃ」


「えぇ!?」


「すべては、地球におる人間の、環境意識をさらに高めるためじゃ。これから日本政府は、宇宙政府がミサイルを撃った理由を説明する」


「うん」


「それは宇宙からの、人間が地球をもっと大事にしなさいというメッセージじゃと」


「はぁ」


「要は、宇宙人が地球を滅ぼそうとする人類をターゲットにしているので、我々人類はもっと地球環境を大事にしようというメッセージじゃと」


「えぇ……」


 サトルくんは突然の話に混乱した。しかしそこで冷静に頭を切り替えて、博士に問いただした。


「あ、てか、宇宙人は本当にそういう目的でミサイルを撃ったの?」


「宇宙人といっても、元人類じゃ。要はわしらの協力者。つまり、すべてが環境をより良くするためのデモンストレーションなんじゃよ」


「ええ!? そんな、そのためにこの団地をロボットに改造したの!? なんかツッコミどころ合ってるのかわからないけど!」


 ここで、これまで黙って博士とサトルくんのやりとりを聞いていた、日本政府が口を挟んだ。


「博士。同居人とはいえ、ちょっと民間人にしゃべりすぎではないか。まだこちらも、世間に情報発信は進めていない」


「いいんじゃ、いいんじゃ。サトルくんにはもう隠せん。それなら、話をして納得してもらうしかない」


 博士のその言葉に、突然目を大きく開き、眼光鋭く、博士を睨んだサトルくん。


「博士。今までぼくは、博士のことをやっぱすげぇやと言っておだててきました。しかし、今回は言わせてもらいます。なんかちげぇや! って」


「ほう。サトルくん、何が違うのかね」


「ぼくはまだ、上手いことは言えません。今も頭の中を上手く整理できません。ただ、感じるんです、なんかちげぇやって」


「ふむぅ。それはサトルくんが、まだ子どもだからではないかの。大人になれば、こういうこともわかるかと」


「いや。そうではないんです、博士。なんかちげぇやっていうのは、心の底から湧き出るような、なんかちげぇやなんです!」


「それはつまり、どういうことじゃ!」


「なんかちげぇやってことです! これが、子どもの感覚だって言うなら、それでもいいです。ただ博士。あなたがこの団地をロボ団地にしたのは、ロボ団地でミサイルを撃ち返したのは、地球のためですか? 政府のためですか? 人のためですか?」


「そ、それは……」


 サトルくんの謎の説得力に、博士がしばらく押し黙った。日本政府もすっかり丸め込まれたのか、それとも聞いていないのか黙っている。


 そして博士が重い口を開いた。


「もちろん、自分のためじゃ。わしはずっと、団地をロボットに改造することを夢見て来た。そのための資金を得られて、しかも人々のためになるというなら、やらない理由はなかった……」


「博士。ぼくもようやく、なんかちげぇやの意味がわかりました。やっぱり博士は、地球のことより人類のことより、自身の夢を追っていたんですね。でも、この過激なやり方は、たとえ必要性があったとしても、セオリーではなかった気がします。それは、色々と裏の思惑を隠しているからです」


「むぅ……」


「確かに、人々は色々と面倒なところがあります。正攻法がバカを見て破滅を招くこともあるでしょう。けれど、そんなことよりも、博士の夢を、別の大義名分に変えるのは違うと思うんです」


「では、どうすればよかったんじゃ。わしにはこうするしか、ロボ団地を作る方法がなかった」


「そうですね。では、このことを公表しましょう。宇宙というのはでっち上げで、博士の情熱は本物で、ミサイル撃退というのは環境を守るためのコマーシャルだったと」


 サトルくんがそこまで語ると、日本政府の焦ったような声が漏れ出てくる。


「そ、それはさすがに」


 日本政府の様子を感じた博士が、空気を察したのか、それともサトルくん側に立ち、追い込むためか、言葉を投げかける。


「では、こうしたらいかがでしょう。政府が発表しないなら、わしらが公表する。それで誰が何を信じるかはわかりませんが」


 博士にそう告げられた政府は、大きなため息を一つ吐いてから、博士とサトルくんにこう告げる。


「わかった。だが少し、時間をくれ。今後の対応を検討する。田舎の出来事とはいえ、もう動画が出回り始めているかもしれないが、まだそれでわかる情報はいくつかに限られるだろう」


 そして通話が切れたようだった。博士はサトルくんの方に体をしっかり向け直し、畳は博士の細いカラダ分の音を鳴らす。


「サトルくん。君の言葉で少し目が覚めたよ。わしは大義名分を得られれば、何をしてもいいと思っていた。じゃが、本当の大義名分は、団地をロボットにしたい、その夢だけで良かったのじゃと」


 それに対してサトルくんは、こう言葉を返す。


「まぁそもそも、勝手に団地をロボに改造するのはどうかと思うけどね」


「うっ。そうじゃな。団地の改造は色々誤魔化しながら勝手に進めてしまった。そして、これから団地を元に戻さんと」


「そうだね。博士」


「うむ。じゃが、もう一仕事残っておるかもしれん」


「もう一仕事?」


 そのとき再び、最初にロボ団地がミサイルを撃ち返したときと同じ、光や音が鳴った。


「ふっ。これは宣戦布告のようなものじゃな。ロボ団地がどれほど強いか、あちらもわかっておらんわけじゃなかろう。サトルくん、これは新たなる戦いじゃ。きっと物理的な戦いではなく、地球や人類をどう方向づけるべきかという戦いなんじゃよ」


 サトルくんも、先ほどの話を受けた後の、この政府の対応や、博士のどこか迫力ある言葉に息を呑んだ。


「やっぱり人間は、愚かかもしれんのう。自身の思う正しさを武器にすることしかできんのか。サトルくんのように、物事を真っ直ぐ感じて、見失わずいられたらいいのに」


 なぜこうなったのかよくわからない、急にシリアスチックな展開に、サトルくんもちょっとビビりながらこう呟いた。


「博士って、やっぱすごいかも」


 おわり。

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スーパーロボット団地・ロボ団地1、2 浅倉 茉白 @asakura_mashiro

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