その2 ただ流されるまま適応した世界
20XX年4月1日。大接近した小惑星が地球と衝突するのはギリギリで回避された。
人類がなにか対策をしたわけではない。ただ単に運よくその小惑星の軌道が地球の公転軌道ギリギリ簿妙な位置をかすめて遠ざかってくれただけだった。隕石落下も、地震も津波も火山噴火も、気候の激変も起こらなかった。
地球は滅亡を免れて、人類は生き延びたのだ。
全世界の人々が手を取り合って歓喜した。
ところが予期せぬ問題が起きた。なんと、地球の自転が遅くなって1日の長さが24時間と1分に伸びてしまったのだ。
天文学者たちは言った。
「うんとわかりやすく言うと、なにも対策をしないで現在の『時刻』を使い続けると、1年後には日の出や日の入りが6時間も遅れることになり、2年たつと日の出や日の入りは12時間遅れて昼夜が完全に逆転することになります」
なんだそれだけのことか。世界人類はほっとした。そして各国政府も誰もなんの対策も全くとらなかった。
そんなことよりもっと大きな問題をそれぞれ抱えていたから仕方がない。
だから人類は今まで通りの時計で、今まで通りの時刻を使い続けていた。
日が経つにつれ、時刻と実際に昼夜のずれはどんどん大きくなって見過ごせないほどになった。
小惑星大接近の4か月後になると、新しい朝が来ているはずの時間午前6時30分はまだ日の出前だった。夏休みが進めば進むほど日の出は遅く暗くなった。涼しくていいと言えばいいけれど真っ暗な中でのラジオ体操というのも何か怪しい儀式みたいで不気味だし、照明を用意しなければならないのも大変だ、子供たちが真っ暗な中をやってくるのも物騒だと不満が出ていた。結局、夏休みのラジオ体操は生放送ではなく、録音を使って日の出後の適当な時間でやるように各地域で調整された。
夏休み中に、夕日を眺めて海に沈む夕日を眺めてデートなんてロマンチックなことを考えていた学生カップルも8月頭の日の入りが午後9時ごろという具合では、門限に間に合わないため断念せざるを得なかった。
また、夏祭りの花火大会はさすがに暗くならないとできないので、遅い時間に始まった。花火を見るため夜更かしした子供たちは翌日きまって寝坊した。
2学期が始まる9月になると、朝寝坊で遅刻する学生生徒が続出した。朝が暗いのでまだ眠いのだ。体内時計はまだ夜のままだから起きるのがつらいのだ。
早朝に草野球をしている人たちも困り始めた。朝がなかなかこないので暗くて試合ができないのだ。ナイター設備があるところも限られている上に、あっても当然余計な費用が掛かってしまう。かといって明るくなるまで待っていたら遅くなるので仕事やなんやらに差し支えてしまう。早朝の草野球は当分行われないことになった。
10月頃にはプロ野球のナイターもまだ明るいので前半はデーゲームと変わらくなった。電気代の節約となった。
更に仕事帰りにちょっと飲もうと思っていた人たちも、ちょっと風俗のお店で遊ぼうなどと思っていた人たちも、まだ陽が高く明るいうちから飲むことやそ言ったお店に行くことに抵抗を感じてためらうようになり、売り上げが明らかに減少した。
また、水商売のヒトも夜用のけばいメイクでカバーしていた分が白日の下にさらされて、商売に差し支えるようになった。おかげで明るい時間に見ても、自然に見えかつしわも隠せる厚化粧の紹介動画が100万を超える記録的な再生数となった。
クリスマスイブでは4時刻と昼夜の時差が8時間と12分のほどだった。日の入りが9時ごろとなり、子供たちはその明るさもあってなかなか寝付いてくれなかった。
ちなみに新年の初日の出を拝もうとすれば午前11時近くまで待たなければならなかった。
ということで、今までの昼休みと呼ばれていた時間帯はもはや昼ではないので朝休みと呼ばれるようになり、昼ごはんが朝ごはんとよばれるようになった。晩ごはんは時間によって昼ごはんまたは夕ごはんになり、目覚めて最初にとる食事がまだ夜中なので晩ごはんと呼ばれるようになった。
夜なかなか暗くならないので子供たちは夜更かしする癖がついてしまい、朝はなかなか明るくならないので、3学期になると体内時計のせいで遅刻する学生生徒は更に激増していた。
そんなかんだで小惑星大接近の1年後、6時間も昼夜がずれまくった世界では日の出が午前11時半過ぎ、日の入りが翌日の午前0時過ぎというわけのわからない状態になっていた。昼と夜がお互いがお互いを侵略していた。
体内時計のずれのため不眠症患者が激増していた。夜中の12時まで明るいのだから、そんな明るい時間に入眠し熟睡するのは困難で当たり前だ。
早朝野球をしていた人たちはいつのまにか仕事が終わった午後7時か8時ごろに集まって野球をするようになっていた。日差しが高くまさに真昼間だ。
塾や予備校は明るい午後遅い時間に授業時間をシフトしていた。
また人々が宵っ張りになったため、深夜アニメの枠がゴールデンタイムとなって国民的アニメはこの時間に、ちょっとセクシーだったり良い子に見せられない怪しいアニメは午前5時台の真っ暗な早朝枠に移動していた。
風俗産業も出入りする姿が目立ちすぎるということで、営業時間を午前中の日没後の暗い時間から始めるようにシフトしていた。出社時間前の時間にに利用するパターンが増えた。
一方午前中は人々が活動を始める時間帯であるにもかかわらず、暗くて危険な時間帯となっていた。犯罪者が最も活動的になるのが午前中だと言われるようになった。変質者も午前中の登校や出勤時のまだ暗い時間を狙ってなにかを見せたり、わいせつ行為に及ぶようになった。さすがに真昼間の帰宅時に現れる勇気はないのだった。
小惑星大接近から1年と4か月過ぎて、夏休みがはじまって8月になるころ、時刻と実際の昼夜の時差は8時間となっていた。日の出が午後1時で日の入りが翌日の午前2時の世界でラジオ体操は何時にすべきなのか。やはりまだ暑くない時間ということで午後2時30分と例年より8時間遅れですることになり、生放送時間もこの時間にシフトされていた。
花火大会は午後は1時以降ずっと昼間なので午後の開催は事実上不可能となった。夜明け前の正午過ぎに行えば働いている人も休憩時間に鑑賞できるだろうがあわただしすぎる。結局、まだ暗い午前中に開催したところが多かった。
ちなみにプロ野球ではダブルヘッダーも含めて全試合が完全にデーゲームとなっていたが、高校野球夏の甲子園大会では午前中の全試合がナイターとなった。高校野球の試合の方が経費がかかる。
日付は一気にすすんで12月。時差は10時間となった。
学校の授業の開始時間午前8時頃はまだ真っ暗な真夜中である。また日の出が午後5時ごろだ。だからこの頃小学生は授業時間中太陽の姿を見ることはない。帰宅してからようやく夜が明けてくる。完全に夜学で気の毒である。登下校時はまだ暗いので保護者の方たちは特に心配であろう。中高生は部活がなければ夜明け直後の時間に帰宅という状態なので、帰宅時に太陽を拝むことはなんとか可能だ。
いずれにしろ小中高問わず学生は体内時計上は夜中に無理やり起きて勉強させられて、まだ明るい真昼間に眠らなければならないのだ。これで頭や体にいいわけない。授業中にもうつらうつらと居眠りする学生や生徒が続出していると。学力や運動能力の低下が著しいのも本能に逆らったことなので仕方がない。
社会人も言わずもがな。9時から5時までの勤務なら夜明け直前までの夜勤と同じなのだ。眠気で業務効率が軒並み下がってしまった。逆に深夜零時から午前8時までのシフトの時間帯で勤務している人は明るい時間から仕事をして日没後2時間半ほどで勤務が明けるという比較的明るく健康的な時間帯で効率的に勤務できているので、この時間帯への勤務時間帯のシフト変更の希望者が多い。
こんな具合で、時刻と 実際に感じる昼夜の感覚はこの先もどんどんずれていき、小惑星大接近の2年後の4月1日にはちょうど12時間ずれることになる。
そこで各国政府はその日を
それ以降はもう少し細かく時刻の微調整を行うべきとの意見もあり、うるう
報告者 ተሻጋሪ ታዛቢ ክፍል ๒
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