第7話 生贄の種馬はイイコトされたい
「歩きながら行こう。私たちの里を案内してあげる」
ティセラの提案に無言で頷き、三人が並んで歩き出す。
時々すれ違うエルフ達が物珍しそうに
中にはあからさまに不快そうな表情で目を逸らす者も。
故郷でも散々同じような顔を向けられており、イブは慣れっこになっていた。
しかしこの国の景色は、イブが想像していたよりもずっと人間の国に近い。
素材こそ木やレンガや石造りだが、アパートや雑居ビルのような建物もある。
派手な電飾看板はないものの、電気も上下水道などのインフラもしっかり整備されている。
道路はきちんと舗装され馬車にはゴムタイヤが着いている。その挙動を見るに、故郷で走っている車と同じようなサスペンションやダンパーも備わっているようだ。
思い返せば、病院の設備も故郷と変わらなかった。
「すげーな……エルフって森の中で動物たちと暮らしてるイメージだった」
「一体いつの話をしているのです」
「す~~っ……ごい大昔はそんな暮らしだったみたいだよ」
「ゲームや漫画の知識しかねぇから」
「随分偏った知識なのです。差別になるから気をつけるのです」
むしろ、人間が使っている技術や資源はほとんどがエルフや獣人の国から輸出しているものだと、エネシアが忠告する。
ただし、
ティセラが、出店で買ってきたアイスクリームをひとつイブに手渡す。その味はイブが食べ慣れたバニラアイスそのものだ。
電気や水道もあるのに車やバイクは走ってない。そのアンバランスさが、異国にいることをイブに実感させる。
ティセラとエネシアに挟まれ歩きながら、イブはフェイザとの会話を思い出していた。
「先生、ナマニエってなんすか?」
「何も聞いてないの?」
「ただの留学生なんで」
「まぁ、表向きはそう言わないとねぇ」
「表向き?」
「あなたは
「だから、ナマニエって何なんすか?」
イブは若干キレ気味に女医に詰め寄る。
「文字通り、生きたまま貢ぎ物にされるのよ」
「生きたまま貢ぎ物……怪物に喰われるとか?」
フェイザは急に嗜虐的な笑みを浮かべ、イブの体に密着して耳元で囁く。
「そう。
捕食者に睨まれたような感覚と共に、イブの背筋に冷たい汗が流れる。
「最後にいい思いができるんだから」
そう言いながら、フェイザがイブの耳にフッと息を吹きかける。
「ひゃい!?」
「あなたに選択肢はないんだけど……」
そのままベッドに押し倒され、イブは馬乗りになったフェイザにホールドされる。
「その前に、先生とイイコトしよ♡」
フェイザがイブの服をゆっくり剥ぎ取っていく。
「せ、先生、何を?」
「分かってるくせに……」
妙に色っぽい口調。
とろんとした目つき。
触れるか触れないか絶妙な感じで、首筋からみぞおちまで指先を滑らせる。
さっきからイブの十六歳の性欲がギンギンに自己主張している。
「わたしはあなたのお医者さんだから……ね?」
この状況、むしろお医者さんごっこでは?
「先に言っとくけど、わたしあんまり上手くないから」
「だ、大丈夫っす……俺も初めてなんで」
イブは緊張しすぎて、自分でも何を言ってるのかよく分からなくなっていた。
「見られてると恥ずかしいから。目を閉じて……」
意外に可愛いとこあるな、と思いながらイブはゆっくり目を閉じる。
「それじゃあ……」
チクッ、チクッ
「?」
「上手く入んないな……」
「先生? なにを……」
「動かない! もうちょいだから」
なんだか腕がチクチクする。イブがうっすら目を開けると、フェイザが鬼の形相で注射針を刺そうとしている。
「注射かよ!」
はち切れんばかりの期待と性欲を返せ。
「うるさい! 集中してるんだから話しかけない!」
「あ、はいスミマセン」
医者なのに注射下手ってどうなん?
「人間に注射なんて生まれて初めてなんだから。協力しなさい」
イブの腕に、ためらい傷よろしく注射のアザが増えていく。
「……そこ……もっと……」
「先生、俺……もう……無理」
「ダメよ……もっと……」
さすがにちょっとヒドすぎる。これでよく医師免許が取れたものだ。
十回目のチャレンジでようやく静脈にヒットする。
「ああ、もうダメ……入れちゃうよ」
「先生、俺……うっ……」
痛みと安堵で声にならないうめき声しか出ない。たかが注射でこんな汗だくになる?
「……ブ、イブ」
「ん?」
「イブ、またエロいこと考えてるでしょ?」
「ななな何のことかな!?」
「人間は隙あらばエロいこと考えてるってホントなんだね」
ティセラがちょっとむくれながらプイっとそっぽを向く。
ティセラの鋭い指摘にイブの鼓動が早鐘のように鳴る。
「だからいいのです!
エネシアちゃん残念なフォローありがとう。
でもね、十六歳の性欲なんて種族を超えてこんなもんだと思うよ?
「てかティセラもエネシアも似たようなもんだったじゃん?」
さっきの病室での表情、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
瞬時に顔を紅潮させた二人の頭頂部からボフッと煙が立ち上る。
「なぁ、これからどこに行くんだ?」
「
まだ顔の赤みが取れないエネシアが素っ気なく告げ、ティセラが微妙な表情で続ける。
「あ~……え、と、パパに会ってもらうの」
「は? パパ?」
「儀式みたいなもんだよね」
「みたい、じゃなくて儀式の一環なのです」
ティセラの脳天気な言葉をエネシアがたしなめる。
気乗りしなさそうなティセラに代わり、エネシアがティセラの
父の名は『ラーズ・マルボア』。
元は
そんな
――そう、
イブは突然女医の言葉を思い出し、割とグロテスクなシーンを想像する。
(俺、もしかして
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