貴方の涙を拾うため,人生巻き戻ってきました!
不破 海美ーふわ うみー
第1話 プロローグ~懐かしい景色~
ーはっ
パチリ,と私は目を開けた。
徐々に周りの騒がしさが耳に伝わってくる。
次に感じたのは,痛覚。
腕を固定され,髪をきつく引っ張られているような……
正しく,私は誰かに押さえ付けられて,顔を俯けていた。
目の前に広がる,アスファルト。
冷たい空気が鼻腔を抜けた。
つまりここは…
私はなんとか思考を働かせる。
私の生きたたった一つの世界である,島。
バームクーヘンのように3等分された地区の内,足場がアスファルトで構成されている場所はただ1つだけだ。
それが,東の土地と呼ばれるこの場所。
さらに,覚えのあるこの状況は
目の覚めるような,唐突で派手な誘拐後だろう。
私は逸る胸の高鳴りを感じながら,胴体を大きく反らして顔をあげた。
頭皮の引っ張られる痛みなんか,少しも気にならない。
私を捕らえている人が「うおっ」と声を上げて私の頭を離す。
驚かせてしまって申し訳ないとか,そんな状況じゃなくて。
ここは。
ここは,だって。
東の土地の,事実上の統治者,その組織の拠点。
紛れもない,
良かった……
安堵が喜びをつれてくる。
ほんとに。
ほんとに,戻って,来た。
今はそれだけ。
最初の最初,1よりも前の0からのスタートだ。
……ありがとう。
じんわりと現実として胸のうちに溶けていく。
蘭華のために,私は絶対死なない。
私はまっさらな青の空に,笑顔を向けた。
だけど……死なないために,自分から離れたりはしない。
これは絶対に譲れないこと。
私は1つ瞬く。
そして
次は…蘭華を泣かせない。
大きな決意を胸に。
もう一度,私は大きく口角をあげた。
周りの巨漢達が怪訝そうにしている。
「ここは,蘭華率いる組織の拠点であってる?」
確信欲しさに,尋ねずにはいられない。
私は痛む肩に力を入れて,振り返った。
子供が一目散に逃げ出すような強面も,大人がほんのりと涙を浮かべるような怒声も,今となってはちっとも怖くない。
気圧されたのは,男の方。
「あ?! あ,あぁ。知ってんじゃねぇか。ジョーカーが望んだからお前はここにいる。あの人に目をつけられた以上,助けはこねぇと思え!」
ようやく落ち着いて顔を合わせることが出来た,私を取り押さえる男の表情。
じっと見つめれば,やっぱり見覚えのある男で,私は安心する。
その様子に,男達はまた眉をひそめた。
それにどのみち,ここまで来たのであれば私は帰ることも叶わない。
今生では帰りたいとも思わないけれど,私1人簡単に逃がすような組織なら,ここはとっくに他の組織に食い潰されている。
この島は,そういう場所だ。
「私は…どうして連れてこられたの? 何か特別なことをした覚えはないんだけど」
普通の女だと,すんと澄まして尋ねてみる。
「それはジョーカー,蘭華さんに聞きな。今から会える」
私が怖がるとでも思ったのか,その人は悪戯に笑った。
つるんとした頭を可愛いと思う余裕すらあるくらいだというのに。
「そう」
今さら怖がったふりなんて出来なくて,私は俯いて誤魔化す。
あぁ,何もかも,一緒。
その下では,泣きそうな程幸せを噛み締めている,私がいた。
強引に立たされて,広く大きな和風のお屋敷に,私は足を踏み入れる。
しがないお花屋さんだった私は,1回目。
ビクビクと半泣きでこの門をくぐった。
この場所のどの人にも敬語で,様子を窺って。
私が,死んでしまわないようにと振る舞うので精一杯だった。
でも,そんなことじゃ間に合わない。
最初で最後のはずの1度目の人生で私が死んだのは,最も罪深く蘭華を泣かせてしまったのは。
今からたった1年後の,白い雪の降る日のことだったのだから。
____________________
雪をバックに,私の顔へと降る大粒の雨。
目を瞑れば,まだそれにさらされているような気持ちにすらなる。
あれは,冷たくて寂しい,ゆき。
だから。
待っててね。
私は覚悟を決めて目を開けた。
その前に,1人の若い男がいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます