S級美少女は俺の〇〇が欲しいみたいです〜好きになるまで離さない。手段を選ばない美少女たちは俺を逃がしてくれません。
タルタルハムスター
第1話 S級美少女
———これは、おそらく学園内で一番目立たない空気なボクが人生最大のモテ期を体験する最高に幸せな物語だ。
◇◆◇
俺が通う学校にはS級美少女と崇められるマドンナがいる。大森鈴鹿さんと白鳥愛莉さんの二人だ。彼女たちが教室にいるだけで女子は取り巻きの一員となり、男子はワンチャン狙って二人を囲っている。
他クラスや学年を超えて絶大な人気を誇り、付き合いたいランキングや◯ッチしたいランキング同率一位など男性の理想を忠実に再現した存在が彼女たちだ。
そんな高嶺の花である二人と、恋愛経験なし女性の友人もいない俺と接点があるわけがなく。今後一生関わることなんてないだろうと、
昨日までの自分なら胸を張って断言できていた。目の前の光景を見るまでは。
何故か彼女たちはボクの席を囲んで討論を交わしている。気になる内容はこの俺、吉田奏多の取り合いだった。
こんな光景を見せられて、どうして俺と接点がないなんて言えるだろうか。間違いなく他の男子が聞いたら煽りにしか受け取ってくれない。
もういっそこの教室から逃げ出してしまおうか。そんな考えが頭に過ぎった時、S級の名を冠する一人の少女が力強く両手で机を叩きつけた。
「いい加減にして鈴鹿!なかっちは私と代わってくれるって話だったの!話してる最中に横割って来ないでくれる?」
誰とでも分け隔てなく接し友人関係に壁を作らないまさしく絵に描いたような陽キャ。自分のことよりも他人のことを優先してしまう優しい心を持った愛莉さんが、聞いたことのない荒げた声を発している。
その向かう矛先は同じく美少女として肩を並べてる鈴鹿さんだ。彼女の性格は愛莉さんとは正反対とまでは言わないが、それでも育ちの良さを感じる凛とした佇まいや一つ一つの所作の美しさと言ったらまさに大和撫子。この学園で日本を代表する美少女は誰?と聞かれたら活発的で元気な愛莉さんよりお淑やかな彼女のことを浮かべてしまう人は多いのではないだろうか。
「別に白鳥さんじゃなくてもいいのではないのかしら。その相手が私でも何も問題はないはずよ」
「だから最初に提案したのは私であって!」
「それも些細なことよね。貴方が名乗りを上げる前に私も同じことを考えていたわけだし。先に出るか後に出るかの話よ。もし私が先に提案していたら貴方も私と同じように行動を起こしたのではなくて?」
「ぐぬぬ‥‥」
隙を見せない彼女の正論パンチに愛莉さんはなす術もなく唸り声を上げた。流石に学年主席、中間試験一位を相手にして討論で勝てるほど甘い相手ではない。
それと先に言っておくが、彼女たちが火花を散らして争っている理由は単なる席替えが原因である。決して今生の何かを決めるといった重大な話ではないことをここに報告しておく。
揉めた発端は俺の隣に誰が座るかというしょうもない話だった。
たまたま視力の悪いクラスメイトが運悪く一番後ろの席、俺の隣を引いてしまい誰かと変わってくれないかという話になったところ、教壇の前を引いた愛莉さんが名乗りをあげたことが火蓋を切らすきっかけとなった。少なくともここで鈴鹿さんまでもが最前列という奇跡が起きていなかったら話は拗らせていなかったはず。
まさか学園を代表する二人の美少女が冴えない男子生徒の隣を取り合うなど誰も想像していなかったため、クラスにいる誰もが口を開けて彼女たちの討論を呆然と眺めていた。
「仕方ないわね。もう公平にじゃんけんで決めましょ。それが一番平和的な解決じゃないかしら」
「じゃんけん‥‥じゃんけんね。わかったわ、それでいきましょう」
何やら歯切れの悪い反応を愛莉さんが見せると、気のせいか鈴鹿さんの口角が少しばかり上がったよう視界に映った。それが何を意味していたのか俺にはわからないまま、二人は腕を振り上げそれぞれ決まった手の形を出すと勝負は一回で決まった。
勝者は大森鈴鹿。今日から中間試験までの2ヶ月間、俺は誰よりも近い距離で彼女と学校生活を共にすることが決定した。
◇◆◇
私立筑波山高校は総生徒数1400人を抱える超マンモス校だ。全国各地から学力に秀でた者、未来のスポーツ選手として期待される者、または芸能事をしている有名人など多くのタレントが集まり国内でも話題性の高い高校として注目されている。
将来の日本を背負う金の卵たちが通うここでは、他の私立公立校と違って特殊な教育環境が提供されている。それは優秀な才能と才能が切磋琢磨し、より精錬された才能を活かすため設置された教育制度の名はバディ制度。
この学校では優れた才能同士が干渉しあい、化学反応を生み出す事を期待している。だからこそ今の俺の状況を学校サイドは面白いとは思わないだろう。
現総理大臣、茅場重蔵の一人娘にして学校創立以来初のフルスコアを叩き出した才女が何の才能も取り柄もない凡才の俺と絡んでいるなんて歓迎されるはずがない。
少なくとも彼女と共に廊下を歩くこの時間を祝福する者はどこを見渡してもゼロだった。そんな醜悪な空気を浄化するご機嫌な彼女の存在をカウントしなければ。
「どうかしたのかしら吉田君。やけに落ち着きがないけれど」
視線を右往左往動かしていた俺に彼女が上目遣いで尋ねてきた。こんなの雄の性を授かっている者なら例外なく全員ノックアウトだろう。それに加えて、今の俺は黒髪ロング美少女JKと腕を組んだ状態。豊満な胸が押しつけられ、心臓が左肘に転移したのかと錯覚するほどに脈打っている。
神様、俺は明日死ぬのでしょうか。
幸せと恐怖の狭間に立たされ青ざめている俺の様子を伺うと、彼女は一度くすりと笑って話しかけてきた。
「話と違って思ったよりウブなのね吉田君。もしかして恋愛したことない?」
「えっ?」
「うふふ。その反応を見て安心したわ。私もそうだから人のこと笑えないわね」
男子が聞いたら学園中でニュースになるほどの発言を俺だけに聞こえるように呟いた。彼女の発言一つ一つに注視している周りの生徒は何を言ったかその場で議論をし始める。当然それを耳にした俺は驚きを隠さずに彼女へ質問を投げかけた。
「本当に?それって都市伝説じゃなくて?」
「ん?なにそれ」
流石の彼女も知らないらしい。学園内で男子のみで噂されている都市伝説、S級美少女処女説を
よかったなお前ら。その伝説は確かに目の前にあるぞ。
俺が何でもないと口にすると、彼女は小首を傾げて疑問を浮かべるも、対して気にならなかったのかすぐに別の話題へと移った。
「いきなりだけどごめんなさいね。歩きながらでいいから私と位置を交代してくれない?」
「交代って?」
「そのままの意味よ。左腕に頼りすぎるのも悪いから右腕に変えたいの。貴方の腕が痺れさせて申し訳ないもの」
できれば絡みつかないで普通に歩いてくれると嬉しいんだけどな。けどこの言葉を言ったところで無駄なのはわかってる。さっき一度だけ交渉したけど結局彼女の都合のいいように話が進んでこうなった。多分俺の力じゃ何を言ったところで無駄なんだろう。
言われるがまま俺は鈴鹿さんの反対側に移動すると再び彼女は腕を絡めてきた。今日の天気は雨、廊下の窓からは冷風が漏れることが多く、先ほどまで彼女がいた窓側は少しだけ体を冷たくさせる。
もしかしたら肌寒むかったから場所を変えたのかと、女の子らしい可愛い一面もあるのだなと少しだけ緊張の糸が解れたその時だった。
目先にある廊下の曲がり角からとてつもないスピードで黒い影が突っ込んでくる。それは先ほどまで俺が歩いていた場所、すなわち鈴鹿さんがいるところに襲いかかると黒い影は彼女の懐に飛び込んだ。
「だ、大丈夫!?鈴鹿さん!!」
至近距離による衝突、間違いなく人間同士による事故が目の前で起きた。それも学園随一の美少女を襲うという犯人が死刑になりかねない大惨事。俺は倒れた彼女を庇おうと手を差し伸べたその時、ぶつかってきた犯人の痛がる声が同時に耳に入った。しかもその声はどこか聞き覚えのある、というか先ほど討論していたため聞き馴染みしかない声だった。
「し、白鳥さん?」
差し伸べた手を静止させたまま、ゆっくりと声の主の方に首を動かすと、そこには頭に思い浮かんだ通りの美少女が苦痛な表情を浮かべて尻餅をついていた。
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