第十六話 NTRは好きですか?BSSは好きですか?

 好きな人が、他の人と手をつないだり、キスをしたり。

 そんな場面を見たことはあるだろうか。

 世間一般では、そのような出来事をNTRと言い、された側の嫉妬や復讐をBSSというらしい。

 僕は、そんなところを見たことがある。

 ……それは、大学一年生の新歓の声掛けのうちだった。


「ねえ、窒素研究部とか興味ない?」


「ないです」


「え、いや。話だけでも」


 それを無視して、前に進む。

 数回、数十回。

 明らかに死んだ人間に声をかけて、その結果が無視だったら、それを見た人間はもれなく悪印象を抱くだろう。

 次第に、声掛けは止み、僕の進むものを阻むものはなくなった。

 下を俯く僕。天気すら分からない。

 その時、周りの言語の中で、唯一耳に入る台詞セリフがあった。


「え~? そこまで言われるなら……行こうかなっ」


 少しだけ、頭を上げて、足取りを遅くする。


「よし、じゃあ君はもうテニス部のマネージャーとして見ておくから、ちょっと見学とか、飲みにでも行こうよ」


 木の下で、長い髪を風にたなびかす彼女と、金髪の彼。

 当日の印象はそれだけだったからか、覚えてしまった。

 以降、彼女の思い出には、金髪の男が毎時出てくる。

 家が近いからか、何度も見てしまう。

 車から、金髪の男と共に帰ってくる彼女。

 大学の帰りに、バスの中で手をつないでいる彼女。

 深夜のコンビニでコンドームを買っている、彼と彼女。

 そのすべての工程は、ほとんど半年の間の出来事だった。


「ああ、やっぱり彼女は僕をだましていただけだったんだ」


 悔しくはない。世間一般の内、フラれた男が諦めてしまえば、トラウマを植え付けられてしまえば、BSSは発生しないという認識だったからだ。

 ……いや、それは紛れもなくそれだったのかもしれない。

 ただ、僕は少なくとも復讐やら嫉妬やら失望などはしなかった。

 では、僕はどこでを見たことがあったのだろう。

 答えは、現在の彼女だ。


「あのヤリサーマジヤバいよ。だって、最近の女子加入率少なすぎて、一人一彼女六か月までっていうルールがあるって。倫理的にどうなん?っていう話じゃない?」


 この言葉は翔から聞いたものだ。

 だから、分かっている。わかった。

 彼女は、それならぬ。WSSだ。


 ”私が、先に好きだった”


 恐らく、金髪が別の彼女と歩いている姿を見た彼女は、そんなシチュエーションのままに失望して、自暴自棄になったのだろう。

 その裏付けに、彼女のラインはもうブロックしているはずが、メッセージが来たことがある。


 それも、だいぶ病んでいて…破廉恥なメッセージだ。

 固定化されてるメッセージ。相手による金額。幼馴染割引。

 すぐに消した。気持ち悪かった。スカッとした。

 騙された相手だ。不幸になるのは気持ちがいい。

 でも、彼女の最近の動向は、嫌でも目に付く。


 行きつけのコンビニのコンドームは売れ行きが最近よく、なんでもそれを買うのは毎回同じ女の子だとか。

 コンビニのアルバイトに、最近聞いたことだけど。


 間違いなく、沢田。だと、僕はこじつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る