超モテる奴が親友なので、俺には損な役回りしか来ないのですが?

啄木鳥

第1話 俺の親友、超モテるんだが?

 「あ、あのっ、田中君!ちょっといい?」


 「あっ、うん、何?」


 (って、誰?この小さい人)


 俺、田中樹は、部室に行こうとしていたところを、見覚えのない小柄な女子に話しかけられていた。


 「あの、ここじゃなんだから......ちょっとこっち来て」


 「ああ、うん」


 そうして、俺はその女子に人気ひとけのない校舎裏まで連れていかれる。


 この時点で、勘の良い人は「告白か!?」なんて想像をしてしまうかもしれないが、俺にはわかる。これは告白なんかじゃない、断言できる。


 その小柄な女子は俺の前で顔を赤らめ、もじもじとしている。しばらくそんな居心地の悪い時間が過ぎていく。


 「やっぱ告白じゃん」とか思ったかもしれないが、絶対に違う。百パー違う......うん、違う、と思う。


 「あっ、あのっ!」


 小柄な女子が勇気を振り絞ったように声を出す。少し声が上ずっていた。も、もしかして?


 「あのっ、斎藤君って、その、どんな女の子が好き、っていうか、好きな女の子のタイプとかって、知らないかな?」


 ......やっぱりかー。少しでも期待していた俺が馬鹿だったよ。


 斎藤、斎藤優希は俺の親友だ。小中高と一緒の学校で、幼馴染ってやつだな。


 そしてこいつ、まあモテるわモテるわ。顔良し、性格良し、頭良し、運動神経良しの欠点なしの四拍子。


 バレンタインには袋いっぱいのチョコをもらい、バレンタインやら夏休み前やらクリスマスやらの告白シーズンには何人の女子たちに告白されていたことか。


 今だって、俺たちまだこの高校に入って二か月しか経っていないのに、もうすでに五人の女子から恋愛相談のようなものをされている。


 そして、この小柄な女子で六人目か。若干面倒くさくなってきたんだが。


 「あ、あの、聞いてる?」


 「あっ、ああ、ごめんごめん。優希の好きなタイプだったよね」


 「そ、そう!知ってたらで良いんだけど......」


 優希の好きなタイプか......もう何十回と聞いて来た質問だな。


 昔は優希に直接聞いたりしていたんだが、優希の奴、何回聞いてもそんなのないって言うんだよな。だから、俺はそのままありのままを伝えている。


 「優希には好きな女子のタイプとかはないよ」


 「そ、そうだったんだ......」


 がっくりと肩を落とす小柄な女子。まるで俺に聞いたことが間違いだったと体で表現しているように......


 「あ、あの、大丈夫?」


 「あ、うん。ごめんね、いきなりこんなこと聞いて......ありがとう」


 そう言い残して小柄な女子は去っていった。


 (それで、結局誰なの?)


 結局あれが誰なのかはわからず、俺は部室に行った。


 

 「あれ、樹、遅かったな」


 「まあ、ちょっとあってな」


 俺は、俺が所属している部活、『アニメ研究部』の部室へと入っていった。


 去年にできたばかりのこのアニメ研究部、所属しているのは、一年は俺と優希、あと女子一人。二年は男子が一人、以上!いやー、部員数少ないな!まあ、去年に作られたばかりの部活らしいから、仕方ないのかもな。


 そして何を隠そう、実はあのモテ男こと斎藤優希もこの部活に入っているのだ。


 アニメ、それは俺が優希と友達になったきっかけだった。


 あれは小学校三年生だったときのこと......長くなりそうなので端折るが、俺がスマホでとあるアニメを見ていたとき、当時からモテていた優希が話しかけたのが、俺たちが親友になるまでになった最初のきっかけだった。


 それからというもの、俺は優希の親友として、女子たちから優希の好みだとかいう情報を提供する役割を与えられたのだ。


 正直非常に面倒くさいが、優希はとてもいい奴なので、優希の親友をやめるつもりはない。


 「樹、俺のおすすめのアニメ、見てくれたか?」


 「ああ、あれな、面白かったよ。最初正直意味わからなかったけど、あとからまさかの新事実が......!的な展開で面白かった」


 「そう!多分一話目で見るのやめる人多いと思うんだけど、正直もったいないんだよな!一話見ただけじゃあのアニメの良さはわからないって」


 優希は腕を組んで深く何度も頷く。


 この会話を聞いてみてわかったと思ったのだが、優希はかなりのアニオタだ。


 俺が見たことがあるような有名なアニメは全部網羅しており、それ以外にも色々と俺が知らないようなアニメも見ている。


 本当に好きなアニメは何周も見ていて、セリフとかも全部言える。信じていなかったのだが、前に実際に試してみて真実だということが分かった。


 「あれ、そういえば青木部長と琴音は?」


 「え?確か青木部長はさっきまでそこに......」


 「......入ってくるときは、ノックしてくれ。び、びっくりする」


 「「うわっ!」」


 机の下から声がしたと思ったら、ガタイの良いいかつい顔の男、青木淳也部長が机の下から顔をのぞかせていた。


 青木部長、正直見た目はバリバリの体育会系なのだが、実際はシャイなただのアニオタだ。


 いや、アニオタではなく、物語オタなのかな?ちゃんと伝わるかどうかはわからんが。


 つまり、アニメだけではなく、小説や漫画などを全部ひっくるめた、物語が好きな人っていうことだ。


 「......青木部長、何でそんなところにいるんですか?」


 「えっ?いや、い、いきなり部室に誰かが入ってくるから......田中君だったけど」


 本当にビビりだな、青木先輩。見た目と中身のギャップがすごい。


 「それで?琴音はどこだ?」


 「さあ、今日はまだ部室には来てないぞ」


 琴音、赤岸琴音はアニ研に所属しており、中学からの付き合いで、俺たちと同じアニオタだ。


 俺や優希がしているようなアニメ鑑賞だけではなく、アニメのキャラグッズ集めやら、コラボカフェやら、整地巡礼など、俺が想像していたTHEオタクって感じの趣味をしている。


 眼鏡を掛けていて、髪はポニーテール。学級委員長って感じの見た目をしている。実際は全然学級委員長していないが。


 「なんかあったのか?あいつは大体一番に部室に来るのにな」


 「さあ、クラス違うからあんま知らないけど......」


 コンコン


 そんなことを優希と話していると、部室の扉がノックされる。


 (琴音か?)


 俺がそう思っていると、静かに扉が開かれた。


 「あ、あの、見学、いいですか?」


 (あっ、さっきの小さい人だ)


 扉を開き現れたのは、さっき優希の好きなタイプを聞いて来た小柄な女子だった。


 「ああ、どうぞ」


 「えっ、?な、何で斎藤君が、ここに?」


 優希が声を掛けると、小柄な女子は驚く。まあ、そうだよな。好きな人が予想外の場所にいたらそりゃ驚くよな。


 「け、見学?いいよ、色々見てってね」


 そのあと青木部長が声をかける。


 「ひ、ひぃぃぃ!し、失礼しました!」


 青木部長のいかつい顔を見た途端、小柄な女子は顔が真っ青になって慌てて逃げだしていく。


 「......ね、ねえ、あの子、なんで僕の顔を見て逃げ出したのかな?」


 「あとで鏡を見てください、そこに答えがあります」


 「......そっかぁ」


 落ち込む青木部長。


 「あの子は、確か......」


 「ん?知り合いだったか?」


 「いや、名前は知らないけど、前にプリントを落としていたときに拾ってあげたんだよ。その時お礼言ってくれた子かも」


 こいつ、無自覚で女子を惚れさせてやがる。これが天然人たらしってやつか。


 この方法でいったい何人の女子を惚れさせ、そして泣かせたのか......罪な奴。


 「優希、お前少しは自分の行動に責任を持てよな」


 「?いきなり何言ってんだ?」


 「......いや、何でもない」


 

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