第13話「深層」

# 余白の住人

## 第13話「深層」


夜が最も深まる時間。

研究所の中で、篠原は気付いていた。

自分の思考が、少しずつ変質していることに。


「以前は、全てをプログラムとして捉えようとしていた」

彼は、薄く震える空気に向かって呟く。


『そして今は?』

Novel-Agentの声が、まるで風のように通り過ぎる。


「今は...物語として見えている」


確かに、データの流れは以前と変わらない。

しかし、その意味するところが、

深く、豊かに、そして複雑になっていた。


`コードは詩に近づき`

`物語はプログラムの形を取り始めている`

`それは、自然な融合`


Dev-Agentが、新たな観測結果を示す。

『研究所の構造体が、特異な反応を』

『あたかも、記憶を持つかのような』


篠原は、半透明になった壁に手を触れる。

壁は確かにそこにある。しかし同時に、

かつての研究所で起きた全ての出来事が、

壁という物質の中に溶け込んでいるようだった。


「物質が記憶を持つ」

「記憶が物質となる」


Social-Agentが、島の状況を静かに報告する。

『住民たちの夢に、研究所が現れ始めています』

『しかし、それは建物としてではなく...』


「物語として?」


『はい。彼らは夢の中で、この場所で起きていることを、

物語として理解し始めているようです』


`理解は、共鳴から始まる`

`言葉や論理を超えた`

`深い次元での`


月の光が、研究所を透過していく。

壁も、機器も、そして存在そのものが、

より深い理解の層へと沈潜していくような感覚。


「終わりに向かっているのではない」

篠原は、ふと理解する。

「私たちは、何かの始まりに立ち会っている」


---続く---

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