第127話 物理的ざまぁ

「アレク様。私、あまりダンスが得意な方じゃないので、粗相があった時はごめんなさい」


「ああ、僕も得意な方じゃないから安心して良いよ。だから楽しんだ者勝ちさ」


「そうですね。じゃ、よろしくお願いします」


「うん。よろしく」


曲に合わせ、マリアとダンスしていると何故かファンクラブの会員が2列に並び始めた。


マリアと踊りながら、何故並んでいるのか疑問に思っていると、マリアとのダンスが終わり、


「アレク様ありがとうございます」


マリアがカーテーシをすると僕も


「こちらこそありがとう。楽しいかったよ」


返事を返した瞬間、


「次は私の番ですね。よろしくお願いします」


懐かしのエリモーブが声をかけて来た。


「へっ!? 君も踊るの?」


僕が目を点にして返すと、


「それ以外に何かありますか?」


キョトンとした顔でエリモーブは返す。


「じゃあ、この列は…… まさか……」


「アレク様とダンスを踊りたいファンの皆さまです」


「ゲエッ!」


「アレク様、ゲエッ!って何ですか!」


エリモーブは頬を膨らませて僕に抗議をしてきた。


「すまない。僕1人で全員と踊るのかい?」


「当たり前田のクラッカーです。イヤだとか言わせませんよ」


「ん~分かったよ。踊れば良いんだろ? 僕も男だ! 踊ってやろうじゃないか」


「適当は許しませんよ。誠心誠意でみんなと踊って下さい!」


「分かりました。でも、さっき踊ったマリアが最後尾に並んでいるんだけど……」


「終了時間まで無限ループです。覚悟してください」


「は、はい……」


エリモーブはやっと納得してくれたみたいだ。エリモーブと踊り終り、エリモーブは最後尾に並び直していた。 



――なんなの? 物理的ざまぁなの? ヒロイン達からは精神的ざまぁを。ファンクラブのヤツらからは物理的ざまぁ……  ――ゆ、許さんぞ!!



3人程と踊り終わった頃だろうか、クリスが母上に耳打ちしている姿が見えた。そして、今度は母上から父上に耳打ちをしている。何か、得体の知れない第八感の毒母オカンを感じる。


父上が突然、会場の中央に立ち、


「愛しのクリス嬢から、我が愚息アレクとダンスをぎょうじたいと願っているようだ。私はその願いを叶えたいと思う…… 命令! 楽団員は休みなく演奏せよ。アレクも休みなく踊り続けよ!」 


「――!? えっ? マジで? マジで踊り続けるの? 無茶ぶりにもほどがあります。それだけは勘弁して下さい」


「ハァ!? 休みなく演奏? 無理、無理、マジで無理! 休憩なしの演奏をしろって、我々に過労死しろおっしゃるのですか? 無理です。マジで無理ですぅ~」


父上の命令一つで、僕をはじめ楽団員達も地獄行きへの片道切符を手にすることになった。


「お前達は何を言っている。当たり前のことを申すのものでは無い。愛くるしいクリス嬢が踊りたいと言っているのだ! 空気を読めよ。空気を!」 


「「「…………………………」」」


僕と楽団員達は父上の無情な一言に、空いた口が塞がらなかった。





そして、新たな曲と共に地獄のロードが開始されたのである。


目をランランと輝かせ興奮の渦に舞い上がるファンクラブのヤツら。それとは真逆に目から光を失っていく僕と楽団員達。


僕がサンペータ達に助けを求めようとした時……


「只今、混雑しております。2列になってお並び下さ~い」


「ダンスは、お一人2分までとなっておりまーす。終わり次第、次の方にお譲り下さい」


「ダンスを終えられた方は最後尾にお並びくださーい」


「は~い。最後尾はこちらになりま~す。こちらへどうぞ~」


サンペータ、ドール、マリック、ルブランはご丁寧に『2列でお願いします』『お一人様2分まで』『最後尾にお並び下さい』『最後尾はこちら』と書かれた立て札を持ち僕を裏切るかのようにファンクラブのヤツらに媚びを売っていた。


あの4人が僕に与えた裏切り行為は、地獄とはこんな身近にあったのかと衝撃を与えるほど酷いありさまだった。



――ファンクラブのヤツらから物理的ざまぁ…… 家族、側近からの精神的ざまぁ…… 僕は彼らに何か悪い事でもしたのだろうか? 前世のごうを今世で清算せよとの神からの啓示なのか? いや、前世は清廉潔白を座右の銘として生きて来た。もしかしたら先祖のやらかしを僕の代で贖えということか?



「アレク、私と踊っておいてなんなの? ずっと上の空で」


「メアリー…… ごめん、ごめん。ちょっと考え事してて……」


「ホント、失礼な王子様ね」


メアリーは頬を膨らませ、怒った表情をしていた。すっかりメアリーと踊っていたことを忘れていた。それ程、僕の心は地獄の底にあったのだ。


「いや~、メアリーがダンスに参加するとは思っていなかったよ」


「本当は恥ずかしくて踊りたくないけど、空気を悪くするのも悪いし…… みんなとの最後の思い出作りだと思ってくれて構わないわ」


メアリーは耳を赤くさせ、小さな声で呟いた。


「そっかぁ~……」


僕もメアリーもそれ以上の会話は続かなかった。

 


結局、休憩無しの最後の最後まで踊り続け、しかも、父上と母上はクリスだけを連れ僕を一人だけ学園に残し一目散に馬車で帰りやがった。サンペータ達は両親達と共に実家へと帰って行った。一人残された僕はトボトボと涙を流しながら、徒歩で帰路に着くことになってしまった。  ――どうしてこんなことに……(ガチ泣き)


恩を仇で返すなんて信じられん。お前達には人としての情は無いのか! とファンクラブのヤツらと身内に問いただしてやりたい。


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