第123話 記憶の忘却
まさか…… こんなことでミレーユ・デストロイヤーの攻撃を受けるとは、僕としたことが油断をしてしまった。
「なんの事かな? 僕、わかんない」
ミレーユの言う通り、僕は完全スルーを決め込む。
『チッ』
ミレーユは舌打ちをしながら、お茶の準備を始めた。
◇
今回は丸テーブルを準備した。テーブルの上には、どら焼、いちご大福をはじめ、和菓子を中心に取り揃え、飲み物も特別に日本人の心の聖水でもあるポンジュ〇ス。それに、緑茶、玄米茶、昆布茶、炭酸飲料など準備した。
「じゃあ、そろそろお茶会を始めましょうか。マリア、乾杯の音頭お願い」
ルナールの声に従い、飲み物を準備する。
「今日はアレク様を囲んでの最後のお茶会ね。日本に帰る人、こっちの世界に残る人にとって良い思い出になりますように…… 乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
『チーン チーン ガチッ』
各々のコップを掲げ乾杯をした。
『モグモグ モグモグ』
即行で、いちご大福と桜餅を両手に持ち、口には柏餅をかぶり付くクリス。それとは逆に上品にガリガリと音を立てながら口に落雁を運ぶフローラ。話を聞くとフローラは落雁に目がないらしい。最終的には僕に落雁のお土産をおねだりをしてきた。心優しい僕は大量の落雁を持たせることにした。その事を伝えると涙を流し感謝していた。
「みんな。僕の話を聞いてくれないか?」
「何ですか急に?」
マリアはこの楽しい時間に水を差なよ。と言わんばかりに僕を睨みつけた。
「この場では言いにくい事なんだが……」
「じゃあ、止めれば良いじゃない?」
ミレーユがこの場で、そのツッコミを入れるのかと戸惑ったが、どうしても伝えなければと思いミレーユをガン無視を決め込み、話を続けた。
「
「アレク様、どんな問題なんですか?」
ルナールが僕の言葉に反応した。そして、僕は答える。
「ルナール達を日本に返すのは問題が無いのだけど…… メアリーとクリスが日本では存在しない事になるんだ。それとルナール達の記憶からメアリーとクリスの記憶が消えてしまう。そして、こちらの世界の事も忘れてしまうんだ」
「「――!?」」
ルナールとマリアの二人は僕の言葉に絶句をした。
「それじゃあ、メアリーやクリスの記憶だけじゃなくて、紫音の記憶も私達から消えて無くなるってこと?」
マリアは戸惑いながら僕とメアリーを交互に見ながら言った。
「残念だけど…… そう言うことになるかな」
「「そんな……」」
ルナールとマリアは同時に声を上げた。前世からの付合いで、その関係を全て忘れてしまうなんて、それは酷な話だとは思うが、僕にはどうしようもないことなのだ。
「日本に帰るまで、家族と友達との時間を大事にして欲しい」
僕は彼女達にとって辛い事を言っている自覚はある。それでも残された時間を大事にして欲しいという気持ちもある。
「イヤだ! 紫音を忘れるなんて嫌だ!」
マリアは涙を目に浮かべながら叫んだ。
「私もイヤ! ねぇ、紫音。一緒に日本に帰ろう?」
ルナールも涙を浮かべ、メアリーに問いかけていた。
「私もみんなの事を忘れるなんて出来ない! そんなの辛すぎるわよ!」
フローラもみんなの顔を見渡しながら言った。
「私もいつまでも一緒に居たい。忘れるなんて出来ない!」
ミレーユが大声で叫んだ!
――!? あのミレーユ・デストロイヤーが空気を読んでいるだと!? やれば出来る子だったのか? まさか、
「ありがとう。みんな…… そう言ってくれて本当にありがとう。でもクリスを一人だけにして私は帰れない。それに日本に帰っても、私の帰りを待ってくれる家族は居ないの。それに今の家族も大事にしたいの…… みんな分かってちょうだい」
メアリーもまた、涙を堪えながら震えた声で答える。
「ヒック。みんなごめんなさい。私が帰らないって、言ったばかりに…… 本当にごめんなさい」
クリスは泣きながらみんなに謝罪をしていた。
バスの事故の原因は前世のクリスが両親から虐待と学校でのイジメを苦にしてのバスへの飛び込んだとは聞いていたが、それ程、かえりたくないとは前世では余程の事だったのだろう。しかし、この世界では王家がクリスの身元引受人となる。どうかクリスには幸せになって欲しいと願うばかりである。
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