第12話

夏に会わないまま何日か経ったある日、


家の玄関に誰かが近づく音がした。


宅配便かな?


と思いながら玄関の扉を開けると、


そこに立っていたのは夏だった。


夏は私の顔を見ると、


〔久しぶり〕


と笑顔で手話をした。


私は突然の事で戸惑いながらも


〔久しぶり〕


と返すと夏は私に微笑んだ。


久しぶりに会ったせいだろうか。


なぜだか、とても懐かしく感じた。


そんなことを考えながらも私と夏の空気は


重たいまま。


何かを話そうと思っても、


何を話したらいいか分からない。


そう思っていると


〔やっぱり未鳥も耳の聞こえない僕を求めてたの?〕


と聞いてきた。


『そんなことない』そう伝えようと思っている


間にどんどん夏は話していく。


〔だから僕に会ってくれなかったの?〕


〔耳の聞こえる僕は未鳥にとって、いらないってこと?〕


私は首を縦にも横にも振れなかった。


ただ俯くだけだった。


そんな私を見た夏は私に背を向けた。


俯いている視界から夏の靴が消えたのだ。


私は『待って』そう伝えようと思ったけど


後ろ向きじゃ手話なんて通じない。


それどころか、


どんどん夏は私から離れていく。


このまだと、


もう夏には会えなくなってしまうかもしれない。


そんなの嫌に決まってる。


そんなくだらないことを考えている間にも


夏は私から遠ざかる。


「待っ...て..」


絶対に聞こえないくらいの声量で


私はそう呟くように言った。

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