第9話
〔あ、雨止んだんじゃない?〕
そう言いながら夏は窓を指さした。
本当だ。
いつの間に止んだんだろう。
〔僕、もう帰るね〕
〔うん、またね〕
〔また明日!!〕
また明日?
明日もあの場所に居るってことだろうか。
もしかしたら、
この気持ちは夏も同じなのかもしれない。
遠くで夏が手を振っている。
私も振り返すと、
嬉しそうな顔をしながら帰って行った。
その日からずっと夏と私は遊んだ。
時には音を楽しみ、時には香りを楽しんだ。
夏と出会ってから結構経ったある日、
〔未鳥、僕、ついに補聴器を買ったんだ!〕
幸せそうに夏はそう言った。
〔実は少し前から買って付けようと思ってたんだ〕
〔喋る練習もしたよ〕
〔だから明日つけてくるね〕
そう私に微笑みながら言う夏。
明日、つけてくるってことは、
もう手話で話せないってこと?
夏の耳が聞こえないから私は自分の声を出さず、
手話を使って会話をすることが出来た。
だけど、夏の耳が聞こえるようになったら、
手話で会話するのではなく、
『声』での会話になるってこと?
そんなの嫌だ。
𓈒 𓏸𓈒 𓂃
夏side
僕は幼い頃、
目が覚めたら耳が聞こえなくなっていた。
昨日までは聞こえていたのに、
今は無音で怖さまで感じる。
僕のおじいちゃんも小さい頃、
急に聞こえなくなったらしい。
だからきっと、
僕はおじいちゃんと同じ道を辿ってしまったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます