巨悪の魔法少女
唱対夢
正義の魔法少女、参上!
私は走った。
ただひたすらに走った。
こうしている今も大切な友達が傷ついているかと思うと、居てもたってもいられなかった。
彼女がいじめられているなどと、本当はクラスに居場所がないなどと、私は少しも知らなかったし、気付いてあげられなかった。
私と彼女は共に正義を背負って戦う魔法少女だ。
ステッキを握ったその日から戦いの毎日。いつしか私たちの居場所は子供らしい学校や公園よりも、戦場になっていた。
それを理解してくれる人など少ないし、私たちは多くの悲しみも見てきた。
魔法少女とはいってもはたから見ればただのコスプレ。胡乱に扱われる事もあるし、蔑視される事もある。
それでも、確かに自分たちの手で人を助けているという実感が私たちの背中を押してくれている。少なくとも、私にとってはそうだった。もしかしたら、彼女にとっては違ったのかもしれない。
けれども、私をこの世界に誘ってくれたのは紛れもなく彼女だ。その優しさも、強さもよく知っている。
私は彼女と違い正義のために命をかけているわけでもないし、困っているすべての人を救いたい、笑顔にしたいといった綺麗な思いを本心で抱けているわけでもない。それが今でも私のコンプレックスであり、私が彼女を心から尊敬している理由でもあった。
だから走った。彼女の事だ、きっと一方的にいじめられているに違いない。そしてまた心配させまいとして、元気な笑顔を向けてくれるのだろう。
彼女は強い。誰かのためならどんな強大な敵にも一人で立ち向かってしまうような、強い人。しかし、反対に他人の悪意には驚くほど脆い。
もちろん、誰にも見せようとはしないのだけれど、その不器用な笑顔を見ればすぐにわかる。きっとまた一人で抱え込んで、一人で涙を流している。そう思うと自分が許せなかった。
彼女はいつだって私を助けてくれた。見返りも求めず、自分の傷を隠しては笑って安心させてくれた。
ずっと一人だった私に、本当は寂しかった私に初めて手を差し伸べてくれた人。
たった一人の、私の親友。
学校についた。上履きに履き替えもせず、走って教室に向かった。
そうだ。
今度は私の番だ。
今度は私が彼女を守るんだ。
しかし、駆けつけた教室には守るべきものなどなく。
誰よりも優しい親友など何処にもおらず。
ただ、倒すべき悪が一人、いただけであった。
それが一方的な鏖殺であった事など、一目瞭然だった。
当然だ。
魔法少女の力を使えば、たかが人を三十数人殺す事などわけないのだから。
もしも、命をかけても守りたい人がいたとして。
もしも、倒さなければならない悪がいたとして。
それが同じ人であったなら、どうすればいい?
君が教えてくれなきゃ、私にはわからないよ。
「さぁ、悪はここにいるぞ。巨悪はここにいる。私はもう、そこには立てない」
まるで心の問いに答えるように彼女は言う。
「さぁ、こいよ。正義の魔法少女」
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