~三度の空間(すきま)~『夢時代』より冒頭抜粋
天川裕司
~三度の空間(すきま)~『夢時代』より冒頭抜粋
~三度の空間(すきま)~
所構わぬ無法を照らせる宙の人工照(あかり)が俺と他(ひと)との思惑(こここ)に現れ土俵に失(き)えて、通りに咲かない無臭の竜胆(はな)には蒼味(あおみ)が抜け去り俺の心地は文士を目指して闊歩して居た。何時(いつ)か誰かと二人で?一人で?通(とお)って覗いた寺院の境内(うち)など、砂利を滑って可笑味(おかしみ)など観て、孤高に割けない未熟な妖気は陽気を違(たが)えて真逆にふら立ち、明日(あす)の行方を今か今かと、懸命ながらに喚いて尻尾を振った。現行(いま)の女性(おんな)は何に付けても相手に成らずに透って在って、活き活きして生く俺の生気に相当せず儘、ゆっくり、むっそり、経過(とき)の狭間に表情(かお)を観せ突け、一向動かぬ慟哭(さけび)の許容(うち)へと邁還(まいかん)して生く。淋しい空には何にも抜けない天井(ボウル)が転がり、青い瞳(め)をした少女が翔(と)び発ち無機を着飾り、〝何んでも無い〟のに遠くへ置き遣る身分の相違を俺まで伝えてゆっくりと微笑(わら)い、相手の出方を今か今かと待ち侘び始める、夢想の粋にて孤独を識(し)った。青い空には秋の風吹く白雲(くも)の流れが、所狭しに〝君(きみ)〟を待ち侘び、びっしり詰った〝孤独〟を牛耳る舶来(よそ)の音頭は、俺の元から一向外れて〝文士の卵〟を照らして在った。宙(そら)へと続ける空の碧さは個人(ひと)の孤独を自然に押し売り、初めてであった気運の晴嵐(あらし)は、濃奴に解(と)け得ぬ自活の保身を自由を振り撒き得る代物(もの)なのだと、何(なん)にも言えずの俺の白壁(かべ)まで両手を延ばしてそろそろ近付き、名月(つき)の冴えない夜月(よづき)の宙(そら)へとすんなり還って俺へ懐けた。白い人煙(けむり)が寺院の麓(そば)からのっそり湧き立ち湧水(みず)を差し出し、何にも呑めない人間(ひと)の無機へと小首を振るって盲進(もうしん)して行く人の孤独は地に足着かずに、何処(どこ)からともなく薄ら聴える夜の帳の大宴会だ、徒競争(マラソン)して居る人間(ひと)の頭上(うえ)まで、ゆら、と辿った。
俺の心身(からだ)はこれまで成し得た記憶の懸橋(はしご)を順繰り寄せ付け端正(きれい)に辿れて、一番星(ほし)の観えない漆黒(くろ)い宙(そら)から満を持し得た陽(よう)の煌(ひかり)が麓(そば)に降る頃淡々独歩(ある)き、人間(ひと)の輪(わ)を成す無境(むきょう)の最中(なかば)へすんなり小躍(おど)って共動(きょうどう)して生く。純白(しろ)い狩衣(きもの)にその実(み)を包(くる)ませ、純真豊かにひっそり微笑む以前(むかし)の女生徒(おんな)は、自分の袖から他(ひと)には観得ない強靭(つよ)い麻など絹に見せ付け懐手に保(も)ち、動き易さに留まらない儘〝装飾(かざり)〟を立たせた現在(いま)の厚味をうっそり潜ませ、戸惑う最中(さなか)にうっとりし始め陶酔して行く快感(オルガ)の妖気に気取られながらに地道を愛し、俺に集える他(ほか)の男性(おとこ)を一網打尽に奮起させ得る強靭(つよ)さを具えた息吹を拭き掛け、各自が各自、自体(おのれ)の懐ける以前(むかし)の古巣を〝立場〟に備えて散歩をして行く。女性(おんな)から成る現行(いま)に活き得る活気の類(たぐい)は、男性(おとこ)から観て一向気取れぬ仄かな欠伸を噴散(ふんさん)しながら上気を認(したた)め波高(はこう)を馴らし、行方知れない稀有の独歩が現行(いま)に懐いて渡航に在るのを、人から生長(そだ)てた淡い死体安置(モルグ)にうっとり置き遣り微笑に絡ませ、次回(つぎ)に失(き)えない無効の無暗(やみ)から攫って凌げる淡い人気(ランプ)は、何にも解(と)けない脆(よわ)い根拠が自然から発ち鵜呑みにされ生き、女性(おんな)がここ迄、以前(むかし)を浚って現行(いま)に居着ける活力(ちから)を保(も)ち出し生命(いのち)を得たのは、現行(いま)の陽光(ひかり)に男性(おとこ)を葬る新種(あらて)の延命(いのち)にその実(み)を任せた悪魔(おんな)の主観(あるじ)の〝牛耳り〟に依る。自分の微笑が何処(どこ)に在るのか一向識(し)れない俺の心身(からだ)は、当面失(き)えない現行(いま)の苦悩を真横に従え瞬きしながら、何処(どこ)へ向かうも、「明日(あす)」へ活き切る努力の歩先(ほさき)を巧みに捉えて苦しみながらに、〝生き切る不毛とも識(し)る徒労の旅路〟をそれでも構えず続けて在った。活きる努力の水面(みなも)の揺れには女性(おんな)の芳香(におい)が何処(どこ)へも逃げない虚しい記憶を仕留めて居ながら、俺から始める桃(はで)な行為へ瞬く間にて現世(うつしょ)が翻(かえ)れる刹那の空虚を置き去りにして、過去を報せぬ他(ひと)の集いの綻び加減は常に宜しく常識(かたち)を着飾り俺を誘った。清閑(しずか)に暮れ行く寺院の陰から伸び得る岐路へは、俺と他(ひと)から延び生く吐息が孤狼(ころう)を呈して竜胆(はな)を積み上げ、宙(そら)の目下(ふもと)へちょこんと根付ける不毛の〝吐息〟をこそこそ仕上げて俺へと報せて、闊歩して行く厚味を増し得た過去の記憶は、俺の目下(もと)へと初秋(あき)の臭味(におい)を瞬く間にして身軽に仕上げて云とも鳴らず、他(ひと)の陰からひっそり始まる人間(ひと)の集会(うたげ)に呑まれて行った。栄光教会・中学校・大阪城など大きく小さく空間(すきま)に刻んだ経路を取り付け、人の上気が段々仕上がる大阪城での身軽の息には〝経路(みち)〟の幅など陽(よう)を通して屈託されない〝空路〟の態(てい)へもほとほと近付き、空間(すきま)の見得ない人間(ひと)へ懐ける〝経路(みち)〟の在り処は初秋(あき)の景色を堂々着飾る純白(しろ)い砂礫の上にてこっそり仕上がり、そうして成り立つ歩道の上では、これまで出会った俺に集まる知己を最初に親友(とも)から宿敵(とも)まで、他人の行儀を薄ら挟める無欲の木霊が響いてあった。俺の横には幸(こう)の〝歴史〟を物語にする故習へ拡げた池などたわり鯉の模様(いろ)から涼風(かぜ)の音まで水面(みなも)に揺らめく歪(まが)った気色が薄ら宥めて水車(を)廻し、人間(ひと)の体温(ぬくみ)を毛ほども識(し)らない不敵の微温を湛えて在った。山でも空でも谷川でもない、無痛の共鳴(ひびき)に全く失(き)え行く自然の密室(へや)から上がった空気は、俺の両眼(まなこ)を通過して行き、境内(うち)の人煙(けむり)を久しく眺めて放浪しながら、宙(そら)に仰げる無数の苦力(くりき)に感賛(かんさん)したあと自体(おのれ)を愛せる無宿の〝努力〟と相見(あいまみ)えて活き、活性されない人間(ひと)の景色に幻想(ゆめ)を患い沈黙してある。人間(ひと)の足元(ふもと)にのっそり寝そべる奇妙の貌(かお)した稀有の〝廻り〟は、これから始まる長距離走へと細身(ほそみ)を温めて仄(ぼ)んやりしている幾多の〝努力〟を囲って独歩(ある)ける数人(ひと)の脚(あし)まで勢い延ばし、四肢(てあし)を伸ばして、誰も還れぬ淡い〝密室(へや)〟には宙(そら)に写せる人間(ひと)より捌けた色魔が訪れ活歩(かつほ)を揃えて充満して行く人間(ひと)の覇気(やるき)を矢庭に擡げて嘲笑して居り、走る間際の〝手に足着かず〟の人間(ひと)へ懐ける臆病風には、これから集える人間(ひと)の疾走(はしり)が遜色され得ず、初秋(あき)の心地にこっそり凌げる華(あせ)の煌(ひかり)に感嘆して居た。文士を目指した田中慎弥が、俺の元へと視線を逸らしてふらりと現れ、明日(あす)の行方を捜す間も無く地中から嗣(つ)ぐ新たの試算を明るくするまま無言に固まり、自信の柔らを上々こぼして愚痴など咲かせず、長距離走へのスタートラインへ退屈(ひま)を凌げる脚力(ちから)を頬張り佇んで居た。佇む姿勢(すがた)は陽(よう)を着れずに栄養(かて)をも採れない雨の日に観る紫陽花(はな)の如くに淋しく映え活き、鼻下・両頬(ほほ)から顎へと連なる薄い髭には会社勤めのそこらの親父を密に咲かせた退屈(ひま)の極致(きわみ)を揚々匂わせ地味を見出し、彼から発する地味の小片(かけら)は俺から見え得る小宙(そら)の彼方へ悠々跳び生き自体(からだ)を仕上げて、スタートラインに畳み重ねる無言の主観(あるじ)の〝一目散〟には、俺の着れない神秘(なぞ)の雨戸(ベール)が拡散され得た。
*
小雨が降った。
*
雨の衝動(うごき)は惰性に映れる傘下に寄り添う集体(からだ)を仕留めて、俺へは成れる未熟の小雨は池の水面(みなも)にちょこんと貌(かお)出す蛙の表情(かお)にもほとほと似通(にかよ)い気丈を照らせ、俺の足元(もと)へは田中慎弥の体温(おんど)が上がらず遺体が先行き、初秋(あき)の流行(ながれ)は小雨(あめ)に流れる白い砂礫の蠢く螺旋(かたち)を揚々仕上がり段を設ける。俺と田中の〝スタートライン〟を薄ら立たせる小雨内での砂利の上には、俺に集まる数多の生き血が他(ひと)の残骸(むくろ)を大いに着飾り夢想(ゆめ)に行き着く花を灯して遊んで在ったが、そうした人間(ぬくみ)に田中の体温(おんど)も器用に奇妙に、自己(おのれ)の煌(ひかり)をぱっと灯せず寝返り打つほど非凡に隠れて、呼吸を弾ます自己(おのれ)の居場所を暖下(だんか)に仕上がる空気(もぬけ)の内へと引き込ませて。(俺と彼から遠くの
がやがやがやがや、境内(うち)に敷かれた垣(かき)の幾多に深い新緑(みどり)の木立が杜を生やして真向きに揃い、涼風(かぜ)が初秋(あき)から初夏(なつ)を従え仄かに吹くのを浅手に構えた闇の内より深々見詰めて、スタートする頃、田中の姿勢(すがた)と俺の姿勢(すがた)を暗(あん)に伏せ得た空気(もぬけ)を羨みひっそり誘い、俺と田中に〝新緑(みどり)の純朴(すなお)を背後(うしろ)に落した滑稽から成る清閑(しずか)の杜〟へと、順繰り順繰り、鼻息静めてつとつと従い、人間(ひと)の従順(すなお)に懐かないうち畦道(みち)から外れて暗(やみ)へと入(い)った。〝暗(やみ)へ入(い)るのは何年振りか〟と俺の水面(こころ)に清(すが)しく並んだ初夏(なつ)の景観(あたり)は宙(そら)の麓へひっそり跳び生く蛙の背中を見送るようだ。田中の表情(つら)からほっそり流行(なが)れる旧い歌など、田中の口から流出(なが)れないのに宙(そら)へと響いて景観(あたり)を見回し、夜に経過(なが)れる夜想(やそう)を織り成す人間(ひと)への輪舞曲(ロンド)は初秋(あき)に飼われる個人(ひと)の憐(あわ)れを定めに捉えて揚々語らい、俺の感覚(いしき)が地中を流れる以前(むかし)の記憶へ逆行(もど)った頃には、俺と田中の周辺(あたり)はひっそり、人気(ひとけ)の懐かぬ田舎の風土が軽々しく成る。
俺と田中は人から離れて宙(そら)へと寝そべり、人間(ひと)の気色に難無く疲れて無宿(むじゅく)と相(あい)し、価値の掴める人の言動(うごき)へ小雨の降る中独歩(ある)いて行った。探索である。価値の分らぬ俺と慎也の両者の肩には夢想(ゆめ)から仕上げた〝青い鳥〟などちちゅんと鳴き付き古郷(ふるす)を見出し、日本に根付ける旧い歌から現行(いま)の詩(うた)まで、人気(ひとけ)を離れた密室(かこい)の境内(うち)にて吟味(あじ)わい始めた。額(ひたい)の広い主婦の姿勢(すがた)が小雨を切り抜け、片手に揺らせる弁当箱など雨情(うじょう)に冴え活き、ちらりと覗ける若い夢想(ゆめ)から陽光(あかり)が昇って青空(そら)へと辿れば、青味(あおみ)が昇った不断(いつも)の区切りが、仕分を灯せる自然の内へと再生していた。俺と田中の火照った表情(かお)には、輪郭(かたち)を示さず〝青味〟を昇らず十二の朝陽が照らされていた。朝か昼かの判らぬ経過(とき)には、個人(ひと)の発想(おもい)に暫く泥濘(ぬかる)む心許ない地道の発言(ことば)に〝昼〟と言われて昼夜が成った。経過(瞬間)は昼。―――。
暫く泥濘む砂利の道から境内(うち)を外れて表へ佇み、車道が在れども車の走らぬ静かな脚色(いろ)へは硝子器に観る脆さの気色が薄ら訪れ、俺と田中は境内(うち)と表(そと)とを気軽に独歩(ある)いて徘徊して行き、田中の容姿(すがた)は漫画に見知った不良の体裁(かたち)を仕分けて在った。漫画の名前は「ろくでなしブルース」という、場末の妙味が聊か失(き)えない、旧質から成る脚色(いろ)を想わせ、田中の体は〝俺の過去〟からするする抜け出た詰らぬ漫画の登場人へとするする化(か)えられにこりともせず、自己(おのれ)の人影(かげ)から陰を延ばして仲間を増やせる軟派の肢体(からだ)と独気(オーラ)とを保(も)ち、在り処を問えない田中の体は俺から離れて冷風(かぜ)へと流行(なが)れた。
*
~三度の空間(すきま)~『夢時代』より冒頭抜粋 天川裕司 @tenkawayuji
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