スマホの中だけでデレる君のデレ顔が見たい 〜不正アクセスは法律で禁止されています〜
結城 刹那
第1話
体育館にいる大勢の生徒の声がピタリと止んだ。
静寂が流れる。俺にはそれが自分の集中によるものなのか、周囲の緊張によるものなのか分からなかった。
一つ言えるのは今の自分にはどうでもいいことだ。
高らかに上がるボールに狙いを定め、腕を大きく振るう。
何度も何度も繰り返してきた動作だからか、スピードを高めるためのボールの狙い所と腕の振り切り方を完全に掴んでいた。
静寂を切り裂くように高らかな音が鳴り響く。
ボールは針に糸を通すように寸分の狂いなく狙った位置に落ちていった。
先ほどよりも鈍い音が鳴り響く。
ボールは入射角と同じ角度で反射し、大衆へと流れ込んでいった。
「「「「うぉーー!!」」」」
大きな叫び声が体育館に響き渡る。普段ならあまりの騒音に耳を防いでいただろうが、歓声の当事者である今は心地よく聞こえた。
額から垂れた汗を拭い、俺はクラスメイトに視線を走らせる。
見えるのは好意の笑み。女子はおろか男子までもが羨望の眼差しを送ってきていた。
2セット先取の試合で、1セット取られ、2セット目に15点差をつけられてからの逆転だ。その主導者である俺を好きになるのは当然のことだ。
だが、これで満足するわけにはいかない。
さらに視線を走らせ、俺はお目当ての少女を探す。
一秒も経たずして少女は見つかった。
艶やかな黒髪ロングヘア、左右対称に並ぶ顔のパーツ、周りの女子より若干膨らんだ胸に引き締まったウエスト。街ですれ違ったら無意識に振り向いてしまいそうなほど魅力的な少女だ。
「これでも無理か……」
口についた汗を拭うように見せかけて表情を隠し、緩んだ口元をきつく締める。
俺の視界に映った少女は歪が混じったように周りとは違う反応を見せていた。
クラスメイトと同じように拍手を送ってくれている。だが、その表情は好意とは程遠い無気力なものだった。
感情があるのかないのか分からない。せっかくの美人が台無しだ。
彼女の表情が俺に苦い思いをさせた。それは俺が大勢の好意的な表情ではなく、彼女の好意的な表情が見たかったのだという証だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます