私が読んだのは活字じゃない!

専業プウタ

           第1話

 物書きは、どうして物語を書くのだろう。はっきり言って、誰かが書いた文章を読むのを面白いと感じた事は一度もない。


 夏休みの課題で読書感想文を書かなければならなくて、私は図書館で本を物色していた。本を読むのが好きではない。世の中には刺激的なものが溢れているのに、どうして紙に書いた文字を黙々と読むのか私には理解できなかった。


「あとがきだけ読んで、適当に書くか」


 本当に面倒だ。映像化した作品を手に取って、動画を検索してその感想を書く方が楽かもしれない。字をわざわざ追う退屈な作業は教科書だけで十分だ。


 私はできるだけ刺激的なタイトルの本を選ぼうと思っていたが、惹かれる本さえ見つからない。若者の読書離れが嘆かれるが、調べ物をしたら検索したら出てくるネット社会で書物を探すのさえ億劫だ。


 活字離れした私がやっと取れたのはガイドブックだった。写真が多くなければ、疲れてしまう。

「流石にこれはまずいかな⋯⋯」

 手に取った広島のガイドブックを捲りながら溜息をついた。もみじ饅頭に、美味しそうなお好み焼き、汁なし坦々麺も広島発祥らしい。


「原爆⋯⋯」


 私は広島の平和資料館のページで手を止めた。壊滅した街が映る光景に息が詰まる。今まで生きてきた時間が一瞬で終わる瞬間。本当にそんな時が存在するのか信じられなかった。


「ありえないよね」

 私はガイドブックに一言書かれた「止まった時間」が信じられなくて、親に夏休みはテーマパークではなく広島に行きたいと伝えた。


 広島の平和資料館には私の想像を超える展示物があった。インバウンドで多くの外国人がいたが、彼らはこれらを見て何を感じるのだろう。皮膚が焼け爛れて目が飛び出ている子供。一瞬で失った同級生。展示物の恐ろしさに子供が泣いて駆け出しているのを母親が追いかけているのが見えた。


「恐怖を感じずに実際にあったことを知ってもらえるように、展示物は前よりも穏やかなものに変えられたのですよ」


 資料館のボランティアの方の言葉に私は胸が詰まった。一瞬で未来を閉ざされた人が数字で伝えられる。その人たちにも一人一人、やりたい事や叶えたい夢があった。


「私ってなんて恵まれてるんだろう。本当に馬鹿ですね」

 涙が溢れてくる。読書感想文が面倒だとか、親が勉強しろと言ってくるのがウザいとか言える幸せを初めて感じた。私は夢なんて持てないようないい加減な日々を生きているが、今から自分のやりたい事を探す時間がある。


「今、この時もかけがえのない時間ですよね」


 ボランティアの人の言葉に私は両親がここに連れてきてくれた事を感謝した。

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