マリオネット

萌にゃん娘

第1幕 クララの夢

 背を伝う汗、肌を焦がすスポットライト。産声を上げた日から鳴り止まない心臓の音が止まるその時まで、この舞台の緞帳を下ろすことはないだろうと思っていたいつかの夢。


――いつからだろう、私が舞台に上がるための階段に過ぎなかったのは。


~♪

 アレグロのリズミカルな音楽に合わせて、今日も私はレッスンに勤しんでいた。

「ジュテ、ソッテの軸足を強く蹴って!しっかりつま先を見せる!」

先生の張り上げた声と共に皆、鏡越しに確認しながら自主練習を行ういつも通りの火曜日。

私もその中の生徒のひとりだった。


 小学6年生の春。私は5歳からお世話になっていた飯田美代子バレエ教室を辞め、より本格的な指導を求めた母の意向で四ノ宮バレエ学院という教室に新たに通い始めた。

以前通っていた飯田先生の教室で私はバレエの愉しさを知ることができ、舞台に立ったときの感動を覚えた。そしてなにより、役になりきり表現することが大好きだった。

ただそれと同時に母が抱く私への期待感は募った。もっと高度な技術を、もっと良い配役を、という思いから教室を後とすることになった。

確かに飯田先生の教室は生徒数も多いため主役級の配役は年功序列になっており、教室の意向もあって趣味で習う程度の生徒が大半を占めている。

下は幼児から上は社会人までの中で、私の年齢で主役級の配役が回ってくることはまずなかった。

だが、私の中で先生の元で習うバレエの思い出はどれもキラキラした記憶でいっぱいだったので、寂しい気持ちとこんなにも素敵な教えをしていただいた先生に対してすこしばかり申し訳ない気持ちが残っていた。

 

 それから私は四ノ宮バレエ学院――四ノ宮リサ先生を新たな師とし、再びバレエ人生を歩むこととなった。

いつかのパ・ド・ドゥや白鳥の背中に想いを馳せながら。


そう、これがクララの悪夢の幕開けとなることも知らずに。

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