湯ったり!!

もんすたー

温泉行こうよ!

第1話 ぬくぬく温泉同行会

 東京某所にあるお嬢様学校。

 部活や同好会が数ある中で、一際目に付くのが『ぬくぬく温泉同行会』

 その名の通り、温泉に関する同好会。


「さて、今度の温泉はどこに行こっか」


 部室中にて、二人の女子生徒の前でそう言うのは私、下園花呂(しもぞのかりょ)

 このぬくぬく温泉同行会の部長だ。


 私の温泉好きから始まったこの部活。まぁ、部活と言っても部員が多くはないから同行会なんだけど……細かいことは置いといて。


 主な活動内容は、温泉に行くこと。とはいっても温泉なんかは休日にしか行けないため、平日は行きたい温泉を調べたり、各々旅費を溜めるためにバイトしたり。

 ゆったりと気ままに、温泉に浸かるのを目的とする部活だ。


「花呂ちゃん~。今回はちょっと遠めの温泉に行かない?」


 手を上げて、おっとりとした目を私に向けてくるのが、部員の一人である草野律(くさのりつ)

 綺麗に染め上げられた淡い赤髪は肩まで伸び、裸を見るたびに見惚れてしまうほどのスタイルと美乳……いや、ここでは巨乳という表現の方が正しいか。

 スラリと高い身長で、おしとやかな律。


「そろそろ遠出も視野に入れてもいいのかもね。みんなでは近場の温泉しか行ったことないし」


「ちょっとづつ距離を遠くしてってさ、最終的には全国の温泉巡りたいよね~」


「分かんの! 私もみんなに入ってもらいたい温泉めっちゃあるもん!」


 目をキラキラとさせる私。


「気軽に行けるちょっと遠いところだと……箱根とかどないん?」


 小首を傾げて話に加わってきたのは、もう一人の部員である有馬奈々春(ありまななはる)

 童顔で小柄な見た目に反して、こちらもまた美……巨乳。黒髪のツインテールがいかがわしいものに見えてしまうほどのロリ巨乳。

 名前が有馬とあるだけに、奈々春は有馬温泉が有名の兵庫出身。

 見た目にそぐわず、関西弁でキレのあるツッコミをするギャップがある。


「箱根はいいよ! 四大美湯に選ばれるその泉質は、マグネシウムイオンが含まれた温泉は肌を滑らかにしてくれるの!」


「まぁそれよりも、うちは黒たまご食べたいなぁ」


「分かんの‼」


 私が温泉好きになったのは、全ておばあちゃんの入れ知恵。

 幼少期から、旅行好きのおばあちゃんに全国各地に連れて行かれては、温泉に浸かったり、現地の美味しいものを食べていた。


 それもあってか、私はすっかり温泉マニアになってしまった。

 ついでに、現地のグルメだったり、観光スポットだったり、喫茶店などにも詳しくなってしまった。


 一人で旅をしたい気持ちもあったのだが、流石に一人では寂しい。

 だから、この部活を立ち上げて一緒に行ってくれる同志を探したのだ。

 とはいっても、実際集まったのは私の友達である律と奈々春だけ。


 ま、本当の理由は旅費を部費で賄えるからなんだけど。

 毎週のように、温泉に行っていたら出費がとんでもない額になってしまう。いくらバイトをしていたとしても、到底賄えない。


 活動報告書を書かなければいけないし、ちゃんと部としての活動もしなければいけないのだが、それによってほぼ無料で毎週温泉に行けるのだ。


 顧問に話を聞いたところ、いくら遠出をしても、申告をすれば食費などの個人的なもの以外全て部費として見てくれるのだと。


 流石、お嬢様学校って感じだ。


 自分たちの家も、世間から見たら裕福な家庭だとは思うけど、裕福だからと言って趣味にお金を全て出してくれるわけではない。

 そりゃ多少はお金を出してくれるが、ちゃんと私たちはそれぞれバイトをしているわけで。


 お嬢様学校に通っているとはいえ、一般的な女子高生となんら変わりはないのだ。

 逆に、趣味が温泉の女子高生の方がレアくらいだ。


「そうだ! この際行きたい温泉をみんなで挙げて行って、年間予定立てちゃわない?」


 目を輝かせながら、私は机にタブレットを置く。

 カレンダーのアプリを開くと、今日から年末までの年間予定を表示させた。


「賛成賛成~」


「おーええなぁ~」


 律と奈々春も、タブレットへと前のめりになる。


「今年が終わるまで、あと三か月とちょっと。遠出は月に一回はしたいよね」


「どこか大きい休みでもあれば、遠くのところに行けるんだけど」


「でも、とりあえずは箱根にプチ旅行してみて、遠出の手取り足取りを覚えた方がええんちゃうかな?」


「……みんなで行くのは初めてだし、それもそうだね」


 一人旅行と、友人と数人で行く旅行は別物と思ってもいい。

 自分の考えだけでフラっとどこかへ立ち寄ったりできないし、歩くペース、食べるペースすら考慮しなければいけない。


 それに、部活で行くとなると掛かる費用を全て計算しなければいけない。

 最初から片道何時間も掛けて行く場所となると難易度が高いため、奈々春が言った通り都内からでも二時間以内で行ける箱根で経験を積んだ方が吉。


 他の温泉旅の計画を決めるのは、箱根に行ってからでも遅くないだろう。


「箱根だったら日帰りでも行けるけど、せっかくだし旅館でも泊まる?」


 自分のスマホで箱根の宿を探していた律は、私たちのその画面を見せてくる。


「泊まりって、申請通りにくくならないかな? 旅費払われないとか言ったらヤダよ?」


「ちゃんと申請書を作れば大丈夫なんじゃないかな? 元々そういう部活なんだし」


「ま、分かってなきゃそもそもこの部活自体許可しないか」


 高校生だけで泊まりに行くとなると、まずは両親に承諾書を書いてもらわなければいけない。

 書いてもらったものを、申請書と一緒に見えればほぼ大丈夫だろう。


「最初から泊まりかぁ。それ、律が花呂と一夜を過ごしたいだけじゃないん?」


 律をニヤニヤと見つめる奈々春。


「べ、別にそんなじゃないから」


「嘘やぁ~。どうせ私だけ部屋別にして二人でエッチなことシようとしてるやん~」


「泊まったとて部活中だし……シないから!」


「じゃぁ、普段はシてるってことやね~。お熱いカップルなことで」


「……」


 指摘されて、図星だった律は顔を赤くしたまま俯く。

 奈々春の攻撃は、もちろん私にも刺さったわけで、


「これ以上は私も恥ずいからやめてくれる?」


 と、赤面しながら奈々春の肩を揺する。

 イジるんだったらせめて私がいないところでして欲しかった。恥ずかしいのは律だけじゃないんだぞ?


 律と付き合っている私だが、別に泊まったとてエッチなことは……しない。同じ部屋で、雰囲気が良くて、湯上りで火照った律を見ても……。

 というか、温泉で律の裸は見慣れているんだ。


 その都度ちょっと発情してしまっているとは口が裂けても言えないけど。


「ま、まぁ……今回は日帰りで行けるし、泊まらなくてもいいんじゃない?」


 これ以上は奈々春に言われたくないので、日帰りにしようと提案する私。


「えぇ、せっかくの箱根がぁ」


「日帰りでも十分楽しめるから。私が保証する」


「旅館がぁ……」


「それはもっと遠出したときに取っておこ?」


「うん……」


 きゅるんと子犬のような目をして、律はしょんぼりと肩を竦める。

 そんな可愛い顔してもダメだぞ? 次回のお楽しみだ。

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