これから始まる物語

凛蓮月

プロローグ


「ああ、ようやく……会えた……」


 王太子は令嬢に会うなり感極まり涙を浮かべた。

 辺りには花びらが舞い二人を祝福しているかのようだ。

 令嬢の手を取り、王太子は跪く。


「私はずっと、貴女に会いたかった。こうして触れる事を許してほしい。もしも貴女も同じ気持ちならば、どうか私の気持ちを受け入れてはくれないだろうか」


 王太子が見上げると、令嬢は瞳を揺らしながらも顔を赤らめた。何か言いたいけれど唇が震えてしまう。

 会いたかった、会いたくなかった、愛しくて、苦しくて、嬉しいのに悲しくて。

 様々な思いが駆け巡る。


「私で、よろしいのですか……?」


 令嬢は小さな声で問う。王太子は断られなかった事に目を見開き、喜びに輝かせた。


「貴女がいい。貴女でないとダメなんだ」


 ようやく出会えたのだ。

 何の憂いも無く人として出会えた。

 もう二度と離れたくない。もう二度と悲しませたくない。愛しくて、愛しくて、ただ一人求めた運命の番。

 どうか断らずこの手を取ってほしい。

 王太子は願いながら令嬢の手を両手で取った。


「私で良ければ……。よろしくお願い致します」


 令嬢が是を唱えた瞬間、王太子は喜びのあまり立ち上がり抱き締めた。

 ポンポン、と耳と尻尾が生えてきてぶんぶん振り回している。


「ありがとう……ありがとう! ああ、嬉しい、幸せだ。幸せすぎて……こうしちゃいられない!」


 王太子は言うなりばっと池に飛び込んだ。その姿はまるでトビウオのようで令嬢は呆気に取られた。


 けれど、何故だろう、懐かしい気持ちになる。

 相変わらずだ、変わらない事が令嬢の気持ちを喜びに変えていく。


 ようやく、出会えた運命の番。


 二人の物語が、これから始まる。


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