双子転生 ~そして、俺だけ捨てられた~
堅物スライム
☆1 プロローグ
その日は、朝から台風が接近していた。
俺の名前は天城颯太。
県立陽光高校の2年生。どこにでもいる普通の高校生だ。
まぁ少し普通じゃないことと言えば、勉強しなくても成績は学年1位で、運動神経も昔からそれなりなので適当にやっても大抵のスポーツはこなせる。スペックだけ見ればモテそうだけど、残念ながらイケメンではないし、人間関係が面倒だから友達は作らない。人間強度も下がるしな。
てか入学早々、ちょっとした中二病をこじらせた風の雰囲気を醸し出していたら周りが勝手に避け始めただけだけど……。
いいんだ、三次元の女子にも興味は無い。
恋とか友情とか面倒くさい。
当然、部活にも入らない。
誰にも邪魔されず一人でアニメを見ている時が至福の時間だ。
特に異世界もの。だからこの昼休みの時間も一人、スマホを片手に屋上に来た。ここは普段、静かで風が気持ちいいし、誰も来ない今だけは、俺の隠れ家みたいなものだ。
まぁ今日は台風が接近しているとかで風は強いけど雨は降ってないからOK。
さぁ、今日もお一人様タイムを始めますかと、よっこらせと地べたに座りフェンスに寄りかかろうとしたその時、同じクラスの鳴海隼人が眼鏡を光らせ、まるで俺のすぐ後を追ってきたかのように、何かのプリントを抱えてやってきた。
2年生ながらこいつは生徒会長を務めている。
他に誰も立候補者がいなかったので当選しただけだ。
そりゃそうだ、誰が好き好んでこんな面倒をわざわざ買って出る。
大学の推薦とかには有効なのか?知らんけど。
こいつは俺のことが気に入らないらしく、何かと絡んでくる。
多分、俺のせいで試験はいつも2位だからだろう。
いろはすみたいな生徒会長だったら少しはウザ絡みされてもいいんだけど、お前はダメだ。
「天城君、屋上は今フェンスの修理中だから立ち入り禁止だよ。入口の張り紙が目に入らなかったのかい?」
「壊れたフェンスに近づかなければ問題ないだろ?」
「そういう問題じゃないんだ。何故君はルールを守れないのだ。だからクラスからも浮いてしまうんだろう?」
「浮いてしまうんじゃない。あえて浮いてるんだ。面倒ごとには巻き込まれたくないからな。」
「それだよ。その中二病的な物言いが、」
と、鳴海がため息をつきながら何か言いかけたその時だった。
強風が吹き、鳴海の持っていたプリントが一枚、宙を舞った。
鳴海は慌てて追いかけるが、まるで嘲笑うかのようにひらひらとその手をすり抜け、俺の方へ向かってきた。
「あ、取ってくれ!」
めんどくせぇなと思いながらも、さっさとこいつを追い出してアニメタイムを始めるために、俺も一緒に追いかけた。しかし、なかなか捕まえられない。二人して子猫でも追いかけるかの如く苦闘していたが、壊れたフェンスの前でようやく鳴海がプリントを掴んで束に戻した。
するとその瞬間、さらに強い風が吹きつけた。
片手で大量のプリントを抱えていた鳴海はバランスを崩し、壊れたフェンスを突き破り転落しそうになった。そして驚きと恐怖を浮かべた表情で「うわ」と言いながら俺の腕を掴んだ。
「ちょ!!!??」
と思った瞬間にはもう俺たちは一緒に空中に投げ出されていた。
風が耳元で轟音を立て、まるで台風の中に飛び込んだかのようだった。
視界がぼやける中、屋上のフェンスはどんどん遠ざかっていき、夢の中の出来事のように現実感が薄れていった。心臓が激しく鼓動し、全身にアドレナリンが駆け巡るのを感じながら、ただただ無力に落下していった。
……。
………………。
…………………………。
暗闇の中、意識がぼんやりと戻ってくる。
体が重く、動かすことができない。周囲の音が徐々に聞こえ始める。
遠くから聞こえる声、何かを話しているようだが、言葉は理解できない。
すると突然、強い光が目に差し込み、眩しさに思わず目を閉じた。
次の瞬間、体が急に軽くなり、冷たい空気が肌に触れる。
目を開けると、見慣れない天井が広がっている。
周りにはヨーロッパ系とも中東系とも判別しがたい人たちがおり、何かを話しかけてくるが、その言葉は全く理解できない。その誰もが驚きの表情を浮かべている。
自分の体を見下ろすと、小さな手と足が見える。状況が理解できず、混乱と戸惑いが波のように押し寄せる。
暫くすると、周囲の人々の反応や自分の体の違和感から、自分が赤ん坊として生まれ変わったことを理解し始めた。ここは地球のどこかの国?それともまさかの異世界転生か??俺の脳は情報処理の限界に達したようで、まともな思考は出来なくなっていた。
周囲の人々が何かを話しかけてくるが、相変わらず何を言ってるか全くわからない。ただ音として耳に入ってくるだけだ。
そして、なんだろう、俺に向ける表情はあからさまに失望しているように見えた。がっかり感が滲み出ているのを本能で感じ取った。彼らの目には期待外れの色が浮かび、ため息混じりの声に聞こえた。
周囲を見渡すために顔を横に向けると、もう一人の赤ん坊が目に入った。
その赤ん坊は驚いた表情で俺を見つめていた。
どこか見覚えのある目つきだ。
まるで、あいつが俺を見ているかのような気がした。
!!!!!
『こいつ、鳴海じゃね??』
直感的にそう感じた。
あの特徴的な目の形と表情が、確かに鳴海を思い起こさせた。
そして俺はよく分からないおっさんに抱えられ、分娩室らしき場所から連れ出された。
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