Part2


 倉庫を出て、隣に見える部屋が父の部屋だった。


「……」


 あの人がいなくなってからは、一度も入っていない。いやそれ以前に、僕は入ったことがなかった。祖父が他界し、母が他界し。その後、父は僕から逃げるように王都を去った。

 僕に残されたのは、三人の異世界人と【従魔】たち。寂しくはなかったけど、可哀想だと思ったのは、双子の妹・・・・のことだ。

 父は妹……リエレーネ・レオマリスのことだけは、愛していると思っていたから尚更。


 妹は、【王都リドチュア】の【騎士学校ナイトハート】に通っている。 

 隣接する宿舎に住み、ここには滅多に帰ってこない。

 妹の近況は王都にいる【従魔】や、妹の先輩であるエミリアに聞いているから、平気なんだろうけど。やはり心配だ。


「あれ……誰かいる?」


 食事を取ろうと地下から戻ると、宿では従業員たち(使い魔)が何やら会話をしていた。


「――あ、エドガー様!今伺おうとしていたところですっ」


「エドガー様、来訪、手紙」


 口を開いたのは、羊の【従魔】ホリィ。

 そして猿の【従魔】ウェンディーナだった。


「どうしたんだい?手紙?」


 ウェンディーナが僕に差し出したのは、一枚の羊皮紙だった。

 それを受け取ると、ホリィが説明を始めてくれた。


「実は、先ほどテッドくんが来まして、それを。内容は、メイリンのことなのですが……」


「メイリンさん?そういえば、今日は遅いね」


 確かにいつもなら、一番に宿の準備をしている彼女。

 唯一、宿の外から働きに来てくれている女性だけど、今日は見ていない。

 僕は羊皮紙を捲り、その文字を確認する。


「……『今日は休みます』。これだけ?」


「はい、そうなんです」


 この手紙に真っ先に感じたのは、違和感だった。

 伝えてきた方法も、手紙の内容も、どこか変に思える。

 前提を言えば、メイリンさんが無断で休むことは今までなかった。休みを取るときは事前に報告を受けるし、病欠だったとしても、こんな手紙を残すだろうか。

 僕は羊皮紙の匂いを嗅ぐ……スンスンと。


「――高級品だ、インクも紙も」


「に、匂いで判別するんですねっ……流石です!」(感動してる)


 言っては何だが、サザーシャーク家で高級紙やインクを買うとは思えない。

 それに筆圧も弱い。病弱でも、これではまるで浮かせた紙に書いたようだ。

 って、近いなホリィ……。


「――エドガー様〜!ロヴァルト家のお二人がいらっしゃいました〜っ」


「ん……?」


 牛の【従魔】、メジュアが豊満な胸を揺らしながら駆けてきた。

 どこか焦ったようにも見え、その言葉通り、後ろからはロヴァルト家の姉妹……アルメリアとエミリアの姿があった。

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