Part9


 妹エミリアのしたり顔を、姉アルメリアはジト目で見て言う。


「それは本当ですか?信用なりませんね。この前も、エドは綺麗にしたと言いましたが……結果は汚れていましたよね?」


「あーそれは、もうどうしようもないんじゃない?あ、メイリンさん……これとこれ、飲み物はこれで」


 エミリアは席に座って、流れるようにメニュー表を手にとってメイリンに告げる。

 メイリンは笑顔で「かしこまりました」と答えて、いそいそと厨房へ向かった。


「それでエミリア、彼の様子はいかがでしたか?」


「至って普通だよ。いつも通り溝浚どぶさらいをしてるし、変わった様子もない、なんならあたしに気付くのが早かったくらいで、姉さんのことも気にしてるし」


「そ、そうですか……」


 アルメリアは顎に指を這わせて考える。

 監視対象であるエドガーの様子を、どう報告するか考えているのだろう。


「ねえ姉さん、もうエドは大丈夫なんじゃないの?あたし、これ以上は心苦しいんだけど」


「それはわたくしも兄さんも同じですよ。ですが我々は貴族……それも王族に最も近い公爵家もの一員です。聖王家の勅命を、わたくしたちが拒否できるわけがないでしょう?」


 わかって言ってるのだろうと、アルメリアも思っている。

 アルメリア本人も、本当はそんな命令は聞きたくなどない。しかしそれは出来ないのだ。貴族としても、【聖騎士】としても。


「そうだけどさ。姉さんも兄さんも【聖騎士】で、あたしはその下の【従騎士】。上に行けば王族の方にも進言ができるから……そこで」


「――エミリア、それ以上は止めておきなさい」


「おっと、危ない危ない」


 慌てて口元を押さえるエミリア。

 ロヴァルト三兄妹の目的は、エドガーの不遇を解除してもらうことだった。

 だから必死に出世しようと心構えて、必死に国に仕えているのだから。


「まったく、口の軽い」


「エドは知ってるんだし、いいじゃない」


「他のお客様がいるでしょうに……ここには王都の民たちもいるのですよ?」


「あ。そ、そっか……ごめんなさい」


 アルメリアは、周囲を見ながら妹に釘を刺す。しかしその他の客は、運の良いことに酒や食事に夢中だった。

 こんな森の奥にある宿屋に他国のスパイがいるとは考えにくいが、それでも国に仕える騎士としては、軽はずみな会話だったと反省するエミリア。


「お待たせしました、はいどうぞ……エミリアちゃん」


 ――コトリ――


 メイリンがエミリアの食事を持って来た。

 注文からやけに早い配膳だったが、しっかりと注文の品だった。


「わぁお!美味しそーっ!」


 青い瞳を輝かせて、エミリアはフォークを手に食事を始める。

 隣の姉は、ジト目で妹の呑気に小さくため息を吐き。


「はぁ……まったくこの子は」


 そんな姉の思いを尻目に、妹エミリアはようやくの昼食を迎えたのだった。

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