3、付与と元素

「おはようアレス」


南西の門に馬車を引き連れ向かうと朝日に照らされるヒスイがいた。

黒のとんがり帽子に後ろに結ばれた赤毛、白シャツにブーツと軽装備が心配になるがヒスイは「最上層レートクラス」皮膚を守る魔法外殻で鉄鎧以上の強度を持っているんだろうな、羨ましい。


「じゃあ行こうか、魔獣ウェートを倒しに」


南西の森林地帯に向け馬車を走らせる。

王都は円形の壁に囲まれた大都市で端から端まで行くのに馬車で半日くらいかかる。

ここアイラード王国は王都を中心とし24つの街を取り囲む領土を保有する。

今から向かう森林も王国保有の指定地帯、冒険者か王国兵士の証がなければ立ち入れない場所。


「アレスは魔獣とか倒したことあるの?」


「そりゃあるよ、魔獣ウェートみたいな下級魔獣も倒したし上級魔獣だって倒したことある」


「ふ〜ん、じゃあ「元素魔獣げんそまじゅう」は?」


「あるわけないだろ」

「上級魔獣までの魔法とは性質が違う「元素魔法」を扱うんだぞ、勝てっこない」


この世界の魔法区分は3段階ある。

『下級魔法<上級魔法<元素魔法』

俺は下級魔法も碌に扱えないから最下層、ヒスイが属する最上層の魔道士でも元素魔法を使えるのはほんの一握り。

それを考慮すると元素魔獣に区分される化け物は勝ち目などあるはずがない。


「そういうヒスイはあるのか?」


「あるわけないよ、もし元素魔獣に出会したら失神する自信があるね」


なんの自信だよそれ。

まぁでもそれくらい凶暴な魔獣に変わりはない。

宮廷魔道士の人達も口を揃えて元素魔法相手じゃ命は無いと言っていたくらい。

そもそも元素魔法を俺は見た事がない、使える人は知っているがどんな魔法かは知らない。


「森林に着いたら何から始めるんだ?」


「初めは風で行こうと思うよ、驚くから覚悟しておいてね」


驚くっていきなり骨が爆散するとかじゃないよな。

そう言う覚悟ならやる前に言っておいて欲しいんだけど。


「いつ見ても大きいなこの木」


王都を出て草原を走ること1時間、目の前にそびえる大森林。

魔獣は暗い所を好む習性がある、だから昼間は草原に顔を出さずに洞窟やこういった森に身をひそめる。

だが夜は暴れ放題、結界魔法がある場所でも効能が足らなかったら容易に魔獣が出入りする。

それを避けるため各町は依頼を発行し魔獣の数を減らしている。


「ウェートってあれだよな、体長5mの4本足で目玉が大きい魔獣」


「私、あれをみるだけで背筋がゾワゾワするのよね」


俺もあの手の化け物は見ていて震える。

動物は平気に触れるのに一定の大きさを超えると気味悪さが勝る。


「とりあえずウェートを倒す前に付与魔法を知っておきたい」

「少し行った所で付与してくれるか?」


「任せて!」


不安が募るがここに来た以上覚悟はできている。

俺は自分が戦力にならない事を知った、弱い事を知った、なら強くなるためには痛みをともなっても活路を見出すだけ。

それに俺は筋力値が他の人の数十倍ある、体組織の密度も数倍という検査が出ている。

多分骨密度もすごいはず、測ってないけど。


「アレス、準備はいい?」


「おう、全力で来い!」


俺の掛け声でヒスイは身長より少し小さい杖を持ち集中する。

赤髪がなびくと共に何か力がこもっている雰囲気が漂う。

いよいよ、腕粉砕の付与魔法がくる。


「行くよアレス!」

風属性ウィンド・エレメント!!」


「……ぐっ!!」


……これは、やばい。

思わず声が出てしまう程に強烈な鈍痛が全身を襲う。

少し気を抜けば全身の筋肉が千切れてしまうような綱渡りの状態。

一点を見つめ力を巡らせないと骨が折れる所か腕が千切れる……これで良く骨折れただけで済んだな前被験者君。


「大丈夫!?」


「あ……あぁ、心配……するな」

「こんなの何でもない、ただの……かゆみだ!!!」


時間経過と共に五感が戻ってくる……いや、戻る所か冴わたる。

森林の向こうの向こうまで情報が読み取れる、視野だけじゃない、聴覚や肌感覚で相手の位置がわかる。

右に3体、左に4体、前に2体のウェートがいる。


「ヒスイ、今…風魔法が使えるんだよな」


「多分力を込めて剣を振れば風魔法が打てるはず」


剣……ダメだ、剣を持つ余裕がない。

俺は10年間自身の肉体を極めることに注力してきた、元の素材も良かったのか王都……いや、王国で一番力が強い自負さえある。

その俺が剣を掴むことすらままならないとは……面白い。


「ヒスイ……少し見ててくれ」

「これが俺たちの力だ」


「うん、頑張って!!」


右手に力を蓄積させる。

開き強張った右の五指を一本一本中央に寄せ握りしめる。

全身の痛みのおかげか力の流れが手に取るようにわかる。

拳から肘にかけて魔法という痛みを溜めて全てのウェートに当たるように右腕を横一線に……振り抜く!!


「きゃぁあ!!」


吹き荒れる暴風。

そんな力を込めていない一振りが前の景色を一面土埃に変えてしまった。

景色が晴れない、おそらくウェートは全部やっつけたはずだが威力がどれほどか。


「……嘘でしょ」


ヒスイの唖然とした言葉と共に景色が晴れその前ようが明らかになる。


「……嘘だろ」


目の前にあったはずの大森林が跡形もなく吹き飛んでいた。

それも木の根元も吹き飛ばすほど地面を抉りながら。

俺を中心に前方扇形に吹き飛ぶ森林、威力だけで言ったら元素魔法に匹敵する。


「アレス!」

「すごいよ、私達……すごいんだよ!!」


「あぁ……そりゃ……よか……」


あまりにも体を酷使したせいかそこで意識が無くなった。

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剣聖は追放された付与魔道士と再起を図る 道楽坂 @akaaokiiron

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