第10話 脅威との相対
「はぁ……はぁ……はぁ……」
魔剣を杖代わりにし、辛うじて立つ男――帝立魔法学園魔術担当教師ベルンハルト・イェーガーは天使を従える襲撃者と対峙しながらこれまでの
事の始まりは入学式の開始予定時間の十五分ほど前。突然、副学園長から教員全員に招集がかかったのだ。
学園長が不在と言う緊急事態も相まってベルンハルトは「入学式の進行の変更点について話すのだろう」とさして疑問に思わず、指定された研究棟の実験室へ赴いた。ベルンハルトが教室へ到着した時には既にほとんどの教員が揃っており、その後三分足らずで全員が集合したのだが問題はここからだ。
最後にやってきたのは副学園長だったのだが、何と彼は自分も呼ばれてここへ来たと言うのだ。
そうなると誰が何の目的で自分たちを集めたのか。後者の答えはすぐ最悪の形で提示された。
なんと部屋の内側から結界が展開され閉じ込められただけでなく、追い討ちをかけるように毒煙が放出されたのだ。
この部屋に居続ければ間違いなく死ぬ。そう判断したベルンハルトはすぐ壁を破壊しようと攻撃を仕掛けたがびくともしない。
しかし、その場にいた結界術教師セシル・ヒューゴ・ヴァンガードが携帯していた
転移先は同じ研究棟にあるセシルの研究室。
全員が無事であることを確認すると研究室に備え付けてある
そこでベルンハルトたちは防衛用の結界が作動しており、自分たちが学園に閉じ込められたことを悟った。
更に悪い事態は重なり、毒煙の散布された部屋に一定時間いた影響かセシルや副学園長をはじめとして何人かの教員が倒れてしまう。
錬金術教師クルト・ベルティ・クラウゼヴィッツの見立てではこのままでは命に関わり、治療のために魔薬を作る必要があるとのことだ。
そのための材料の魔草を取りに行くのに加え、外の様子を確認するためベルンハルト、クルトを含む四人の教員が薬品室へ向かったのだが、どうやってか彼らを皆殺しに出来ていないことを察知した襲撃者に道中を襲われてしまった。
このままでは材料を取りに行くのが遅れると判断した一同は四人の中で一番の実力者であったベルンハルトに
その後、ベルンハルトは研究棟にやってくる襲撃者ら全員を蹴散らし、追い出すに至ったのだが、現れた新たな敵に苦戦を強いられることになる。それが目の前にいる青いローブで顔を隠したこの男というわけだ。
「よくぞここまで持ち堪えました。流石は魔法学園で魔術の教鞭を執るだけのことはありますねぇ。惜しむらくは既に全盛期ではないこと、そしてワタクシが相手だったことでしょうか」
余裕を匂わせる態度で称賛の言葉を口にしてくる男に無反応を貫くベルンハルト。
その佇まいは一見隙だらけに見えるがそれがこちらを誘い出すための罠であることにベルンハルトは気づいていた。
実力も踏んできた場数も自分より上。何度頭の中でシミュレートしても勝てる想像が出来なかった。
「最期に何か言いたいことはありますか?」
それでも相手が油断していることには変わりない。これが相手の動揺のきっかけになれば。そう願いベルンハルトは問いかける。
「お前たちの……目的は何だ?」
「目的? そんなものアナタも分かっているでしょうに。今日学園に入学したばかりのレア皇女を誘拐し――」
「違うな」
惚ける青ローブの言葉をベルンハルトは両断するとその根拠を述べ始める。
「皇女殿下の身柄
教師陣を研究棟に足止めしている以上、大講堂には新入生しかおらず制圧は容易。経過時間を加味してもレアを捕らえていていいはずだ。なのに何故――、
(どうだ――?)
どんな反応を見せるのか。その心の隙を見逃さぬよう青ローブの一挙手一投足を注視していたベルンハルトだったが、その反応は予想とは異なったものだった。
「――いやはや素晴らしい」
パチパチパチと手を叩き感心したように笑みを浮かべた。まるで生徒が欲しい答えを返してきた教師のような上機嫌な態度で。
「仰る通りです。
「――何を言っている?」
「冥途の土産に教えて差し上げましょう。ワタクシはここに隠されたとある物を探しに来たのです」
「とある物だと?」
「ええ。どこに置いてあるのかは存じ上げませんが、この学園内にあるのは確かなようですので只今もう一人の同志が――」
青ローブの注意が緩んだ一瞬の隙をベルンハルトは見逃さなかった。石畳を爆発させ、一気に肉薄する。
状況は分からないが会話の内容から察するに男とその仲間は本来の目的を達成し、学園を後にしようとしている。ここで仕留める他ない。
ベルンハルトの魔剣は炎を纏わせることで
「〈
戻された目がこちらを嘲笑うように細められると同時に土砂の津波がどこからともなく出現し、押し寄せてきた。
(やられたッ! 奴は何をし――いやそれよりもッ! これは――!)
土砂の量は人一人をゆうに呑み込めるほどの規模がある。呑み込まれれば窒息や圧迫死することは間違いない。
魔剣で斬り裂くことも回避することも叶わない絶望的状況を前にベルンハルトの脳内に走馬灯が流れ出す。
だが、それと同時に青ローブから勝利を確信した表情が失われた。
青ローブはベルンハルトへの攻撃に回していた土砂を最小限の量に減らすとそのほとんどを自らの頭上へ屋根のようにして展開したのだ。
規模を大きく損ねた土砂の勢いに押し飛ばされながらもその光景に疑問を覚えるベルンハルト。その直後だった。
上空から一条の落雷が男に向かって落とされたのだ。
土砂の防壁が盾となり直撃は免れたもののその威力は凄まじく弾かれた雷が周囲の建物の一部や石畳を破損させ、突風を巻き起こした。
攻撃を防いだはずにも関わらず男は生きた心地がせず、その脅威を土砂越しでひしひしと感じ取っていた。
しかし、危機を退け、気が緩まったそこへ新たな脅威が襲いかかる。
ベルンハルトが倒れる正面でも、死角である背後からでもなく向かって右側から何かが電光石火の速度で距離を潰し、突進してきたのだ。
既に目と鼻の先に迫った脅威に青ローブは大きく目を剥く。
(二段構えの攻撃――⁉︎ それも速い――⁉︎ この
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