GRACE−誰が機械人形を殺したのか

犀木 紺

【1】

 産業革命が人々の生活を大きく変えたというのは、市井の老人たちが口を揃えて言うお決まりの台詞であった。様々なものが人から機械へ置き換わり、霧煙るロンドンは、蒸気が立ち上る機械産業都市へ姿を変えた。街を駆ける蒸気機関車は、新時代の産声だったのである。それから幾年の時を経て、今、技術はより高度に進歩し、なるほど確かに人々の生活は革命的に変わったと言えるだろう。


 ロンドンを未来に導くにあたり、特に大きな影響を与えたのは、機械人形が発明されたことであっただろう。アダム博士なる謎の老人が作り上げたそれは、実に精巧な美しい等身大の女性の姿をしていたが、最も驚くべきはそれが自らの言葉で話し、自らの足で歩き、自らの手で仕事をしたことだった。彼の会見が世間に与えた衝撃は計り知れないが、

そのときの様子は瞬く間にニュースとなって、ロンドンはおろかイギリス中を震撼させたのである。

 機械人形はまだ試作段階との説明だったが、人々はみなその会見を見て夢想した。機械人形たちが、人々の中に混じって生活し、仕事をする未来を。一家に一台、ハウスメイドばりに仕事をする機械人形が当たり前になる時代を。

 それ故、人々は機械人形を受け入れ、そして研究開発を進めることを望んだ。そしてアダム博士はそれに応え、機械人形の研究機関である「アダム研究所」…通称"箱庭"を拓いたのである。


 …この物語は、機械人形と"箱庭"、そしてそれを取り巻く人々と、私こと探偵オリバーの数奇な運命にまつわるものである。


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