第4話 タンク

 烏丸と山県は、道玄坂の危機を乗り越えた後、次の目的地に向かうべく東京メトロに足を踏み入れた。地下の駅構内は、日常の喧騒に包まれているが、二人の歩みは静かで、周囲の雑音がどこか遠く感じられた。烏丸が手に持っている地雷の駒を指で軽く弄りながら、山県が先に進んだ。


「次はタンクの駒を探さなければならない」と山県が低い声で言った。

「タンクの駒…それはまた別の仕掛けがあるのか?」烏丸は目を細めて言った。「道玄坂の地雷とは違う、もっと大きな罠が待っているかもしれないな」


 二人は駅の改札を抜け、東京メトロの深い地下道へと足を進めた。薄暗い通路の壁には、古びた広告が貼られ、照明は不規則に灯っていた。誰もいないはずの静かな空間に、二人の足音だけが響く。


 山県がふと立ち止まり、遠くを見つめる。「タンクの駒、確かこの地下に隠されているはずだ。だが、どこにあるのか、それが問題だ」


「考えてみろ、この地下鉄網は複雑すぎる」と烏丸がつぶやいた。「この場所にタンクの駒が埋められているとすれば、ただの隠し場所ではない。地下鉄の構造、乗客の流れ…すべてが何かの手掛かりになっているはずだ」


 二人はさらに進み、地下の通路を進んで行った。しばらくすると、空気が一変し、周囲の雰囲気が微妙に変わった。前方にある扉の前で、何人かの人影が立ち止まっている。彼らの目つきは鋭く、何かを警戒しているようだった。


「注意しろ、あれはただの人間ではない。ここに何かがある証拠だ」と烏丸は囁く。


 山県はその言葉を受けて、身をひそめ、視線を扉の向こうに向けた。すると、扉の向こうから、かすかに重い機械音が聞こえてきた。まるで地下で何かが動いているかのような音だ。

「タンクの駒…あれか?」山県が低く言った。

「間違いない。だが、あの音が何かの仕掛けだとすれば、タンクの駒がその中に隠されている可能性が高い」と烏丸が答えた。

 二人は慎重に扉の前に立ち、周囲の気配を探った。数秒後、扉が静かに開き、内部の機械的な音がさらに大きくなった。中には、無人の制御室のような場所が広がっており、中央には巨大な金属製の装置が鎮座していた。

「まさか、これがタンクの駒?」山県は息を呑んだ。

 烏丸はその装置をじっと見つめ、足元の床を踏みしめながら歩み寄った。「おそらく、だ。だが、単なる駒ではない。これは、地下鉄網全体を制御している装置の一部だろう。もしこれを手に入れたら、地上の動きにも影響を与えることができる」

 突然、装置の前に警戒していた人物たちが一斉に動き出した。その中には、明らかに武装した者たちも混じっており、二人に向かって銃口を向ける。

「君たちがタンクの駒を求めていることは知っている」と、リーダー格の男が冷静に言った。「だが、この装置を触れさせるわけにはいかない」

 烏丸と山県は互いに目を見合わせ、無言で次の行動を決めた。

「やはり、簡単には手に入らないか」と烏丸がつぶやきながら、鋭い目でリーダーを見据えた。「だが、君たちが守ろうとしているものが、真実を隠している限り、引き下がるわけにはいかない」

 その瞬間、山県が身構え、二人は間髪入れずに動き出した。

 山県が一歩前に出ると、鋭い眼差しで周囲を見渡しながら、素早くリーダー格の男とその仲間たちの動きを読み取った。烏丸もその動きに合わせ、肩を軽くすくめると、無言で彼の背後に立つ。

「君たちが守ろうとしているのは、単なる装置じゃない。地下鉄網全体を支配する力だ」烏丸の声が静かに響いた。「それを手に入れる者が、上に立つということを、君たちは理解しているのか?」

 リーダーの男は微動だにせず、冷たい視線を烏丸に向ける。「その力が何をもたらすか、君たちには分からないだろう。だが、これを渡すわけにはいかない」

 その言葉と同時に、男は指を鳴らし、周囲の兵士たちが一斉に動き出した。銃口が二人に向けられ、鋭い金属音が響く。山県は瞬時にその動きを察知し、身をひるがえして素早く障害物に身を隠した。

「待て!」山県が声を上げ、手を振った。「無駄なことはしないほうがいい。君たちが守っているもの、それが何かを知っている。だが、僕たちも引き下がるわけにはいかない」

 一瞬、リーダーの男が動きを止めた。その眼差しは疑念と警戒の入り混じったものだった。烏丸と山県は、そのわずかな隙間を逃さずに一歩前進した。

「タンクの駒、だがそれだけじゃない。これを制御する力を持つ者が、この街を支配できる」烏丸が続けて言った。「君たちがそれを隠している理由も、やがて分かる。だが、今は引き下がるわけにはいかない」


 リーダーの男は深いため息をつき、指示を出すと、銃を持った兵士たちが一歩後退した。その動きに、烏丸と山県は一瞬警戒を強めたが、すぐに冷静さを取り戻した。

「言いたいことはそれだけだ」リーダーは最後に言葉を残し、次第に冷ややかな笑みを浮かべた。「だが、君たちも分かっているだろう。タンクの駒を手に入れるには、もっと多くの犠牲が必要だと」

 その言葉に、烏丸と山県は無言で頷き、しばらく沈黙が支配した。だが、彼らの目の中には、決して引き下がらない覚悟が宿っていた。

「それでも、真実を求める限り、戦いは避けられない」烏丸が静かに呟くと、山県が軽く頷いた。


 その瞬間、制御室の内部で何かが動いた。突然、巨大な金属音が響き、装置が稼働を始めた。烏丸と山県は一斉にその音に反応し、警戒の目を光らせる。

「何かが始まったか?」山県が囁いた。

「おそらく、あの装置が作動し、何かが動き出した」烏丸は顔を引き締めた。「だが、今はそれを止めるために動くべきだ」

 二人は再び動き出し、機械の周囲を慎重に探索しながら、装置の真実に迫ろうとした。その先には、新たな謎と危機が待ち受けていることを二人は感じていた。

 リーダーの男が静かに動き、銃を構えた兵士たちに軽く目配せをすると、彼の表情が鋭さを増した。彼はもう一度深いため息をつき、ゆっくりと烏丸と山県の前に一歩踏み出した。

「君たちには、名乗る義理もないかもしれないが、今一度、私の名前を教えておこう」男の声は冷徹で、どこか挑戦的だった。「私は神谷修司。地下鉄網を守る者だ」

 烏丸と山県は一瞬、その名に驚いたような表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻した。

「神谷修司…地下鉄網を守る?」烏丸が低くつぶやいた。「それはつまり、君がこの都市の地下を掌握しているということか?」

 神谷は静かに頷いた。「そうだ。この地下鉄網は単なる交通手段ではない。これこそが、都市全体を支配する力の源だ。私たちはその力を守るためにここにいる」

 山県は一歩前に出て、じっと神谷の目を見つめた。「守る? それはただの権力の維持に過ぎない。君たちが持っているのは、他の誰も手に入れられない力だ。その力を使って、何を守るつもりだ?」

 神谷は短く笑った。「守るべきものは、まず人々だ。だが、それだけではない。真実は隠されている。君たちが手に入れようとしているタンクの駒も、単なる駒ではない。それが示すもの、触れた者が知るべきことは、君たちの想像を超えている」

 烏丸と山県は黙ってその言葉を聞いた。神谷の言葉の奥にある何かを感じ取ろうとするが、確かなことは分からない。ただ、彼が言う「真実」には何か大きな秘密が隠されているような気配が漂っていた。

「君たちの目的は理解した。だが、これはただの駒の争奪戦ではない」神谷はその冷徹な眼差しを二人に向け、続けた。「君たちが望むなら、いくらでも戦うが、覚悟しておけ。君たちのような者には、この地下の真実は重すぎる」

「重すぎる真実…」烏丸は少し考え込み、そして低く呟いた。「だが、それこそが僕たちが求めるものだ」


 神谷は一瞬だけ目を細め、ゆっくりと後ろを振り返った。「ならば、君たちは覚悟を決めろ。だが、これだけは言っておく。タンクの駒を手に入れたとしても、その力を使いこなす者がいなければ、結局はただの廃物だ」

 山県が静かに言った。「ならば、その力を使いこなすのは誰だ? 君か、それとも我々か?」

 神谷は一度だけ深くうなずき、その後、冷徹な表情で答えた。「その答えを見つけるのは、お前たちだ」


神谷修司が所持している駒は、「タンクの駒」であると明言されています。この「タンクの駒」は、ただの駒ではなく、地下鉄網全体を制御する力を持つ巨大な装置の一部であることが示唆されています。神谷はこの装置を守るために、地下鉄網の支配力を保持し、他者に触れさせないようにしているようです。


タンクの駒の特徴:


1. 地下鉄網の制御装置: 神谷が守っている「タンクの駒」は、地下鉄網を制御する重要な機械の一部であり、この駒を手に入れる者が都市全体に影響を与える力を持つことになります。これにより、地上の動きもコントロールできる可能性が示されています。



2. 力の象徴: 神谷はこの駒が「単なる駒ではない」と強調しており、その力を得ることで、地下鉄網のみならず都市全体を支配する力を持つことができることが暗示されています。



3. 「真実」を隠す存在: 神谷は「タンクの駒」に隠された「真実」が、烏丸や山県の想像を超えるものであり、その力には重大な秘密があることを明かしています。この駒は、単なる物理的な装置にとどまらず、都市やその未来に関わる何か重要な事実を秘めていると考えられます。




神谷はこの駒を守ることで、地下鉄網の支配を手に入れ、都市を支配しようとしています。彼の目的はこの「力」を維持し、誰にも渡さないことにあります。




 

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