第2話 工兵
★小倉マック事件
★性暴力検事
★恫喝検事
★恫喝刑事
烏丸と山県は、男の言葉をじっと聞きながら、その真意を理解しようとしていた。部屋の空気がますます重く、二人の間に緊張感が漂う。
「覚悟はできている」と烏丸が言った瞬間、男はゆっくりと頷き、その表情を一瞬和らげた。「ならば、君たちの推理力を試させてもらおう」
男はさらに一歩近づき、軍人将棋の盤に手を伸ばす。その動きが不気味に感じられる中、烏丸と山県は静かに見守った。男の手が駒に触れると、急に何かが起こったかのように感じられた。駒が動くたびに、部屋の中の温度が少しずつ変わり、何か大きな力が働いているような気配が漂う。
「君たちはこれを解けるか?」男は冷徹な声で言った。烏丸と山県は、盤の配置に目を凝らす。その駒の並び方が、ただの遊びの道具であるはずがないことを、二人は直感的に感じ取った。
「これは…事件の再現だと言ったが、実際に何かが起こった場所を模しているんだな」と烏丸は言った。
山県はその言葉を受けて、盤に並べられた駒をじっと見つめる。確かに、将棋の駒の配置が、ただのランダムな並びではないことは明白だ。ある駒が他の駒の近くに配置され、また別の駒があまりにも離れた位置に置かれている。その不自然な配置が、まるで何かを示唆しているようだ。
「もしかして、この駒の配置が…事件の発生場所を示しているのか?」山県がつぶやいた。
「その通りだ」男はにやりと笑いながら言った。「君たちが言った通り、この盤の配置は、実際に起こった事件の場所を示している。だが、そこに隠されている真実を読み取るには、君たち自身の直感と推理力が試されることになるだろう」
烏丸は深く考え込みながら、駒を少しずつ動かしていく。その動きが、どこか不自然で、何かを探るようなものに見える。
「ここに何かが隠されているはずだ…」烏丸はつぶやいた。
その時、二人の目の前で何かが変化した。軍人将棋の盤の中で、一部の駒が微妙に動き出したのだ。まるで何かに反応するかのように。
「見ろ、駒が動いている!」山県が驚いた声を上げる。
その変化に、男も一瞬目を見開き、静かにその様子を見守っていた。
「これが…君たちが見つけるべき手がかりだ」と男が低く言った。その言葉が、二人の背筋を冷やすような感覚を呼び起こす。
烏丸は慎重に駒を動かし、今度は盤の全体に目を配った。すると、次第にその配置が一つの意味を持つようになった。それは、戦争の歴史を模したような配置であり、事件の背景と深く結びついていることが分かり始めた。
「この配置…まるで戦争の決定的瞬間を再現しているようだ」と烏丸は言った。「そして、この駒の動きが示しているのは、事件が起きたその瞬間の行動だ」
「なるほど…」山県もその意味を理解し始めた。「つまり、この盤上での駒の動きが、事件の重要なシーンを示唆しているということか?」
男は一度静かに息を吐き、そして言った。「君たちがこの盤を完全に解き明かしたとき、事件の真相が明らかになるだろう」
その言葉とともに、烏丸と山県は盤の前に立ち、慎重に駒を動かし続けた。しかし、そのとき、突然部屋の空気が変わった。烏丸はふと感じた。
「これ以上進むと…何かが起こる」
烏丸はそう感じ、思わず手を止めた。
「何が?」山県が尋ねると、烏丸は静かに答えた。「この盤には、何か危険な力が宿っている。解けない謎を解こうとすると、何か恐ろしいものが解き放たれるのではないか?」
その時、部屋の隅でかすかな光が瞬き、次の瞬間、二人の目の前に暗い影が現れた。
突然、部屋の中に漂っていた緊張感が一層高まった。烏丸と山県は振り返ると、そこに立っていたのは影のような存在だった。その姿はぼんやりとした影の中から浮かび上がり、目に見えるようで見えないような、まるで現実世界と異なる次元から現れたかのような印象を与えた。
その影が一歩踏み出すと、空気が変わり、部屋の中の温度が急激に下がった。烏丸は冷静に、山県もまた警戒しながら、その影を見つめた。
「お前は一体何者だ?」烏丸が冷徹に言った。
影は静かに立ち、しかしその目には冷徹な光が宿っているのが見て取れた。言葉を発することなく、その存在はまるで何かを知っているかのように二人を見つめていた。
その時、急に烏丸の携帯が震え、通知音が鳴り響いた。震える手で携帯を取り出すと、画面には「渋谷 マック 銃乱射事件」と書かれている。
「渋谷のマックで銃乱射事件…?」山県が息を呑んだ。
「今すぐ行かないと」と烏丸が言い、携帯を素早く仕舞った。「事件が起きている。あの男の言っていた『事件の真相』が、この現場に関わっているのかもしれない」
二人は素早く洋館を後にし、外へ駆け出した。渋谷の街並みは普段と変わらない様子に見えたが、携帯を握りしめた手のひらが少し冷たく感じられる。
渋谷駅近くに到着した瞬間、街の様子が一変していた。パトカーが急速に集まり、警官たちが周囲を警戒している。その先には、すでに警戒線が張られ、多くの人々が足を止め、恐怖におびえた表情を浮かべていた。
「ここだ…」山県がつぶやき、二人は現場に近づく。
マクドナルドの店舗の前には、警官が立ち入りを拒んでいる。ガラスが割れた音が響き、店内からは激しい怒声が聞こえる。周囲の人々は店内で何が起こったのかを知りたがり、警察の指示に従おうとしているが、恐怖に震えた表情が浮かんでいる。
「何があったんだ?」烏丸が警官の一人に声をかける。
「中で銃撃戦があったんです」と警官が息を呑みながら答える。「不明な男が突入して、数人を撃った。現在も交戦中だ」
「撃った…?」山県が驚き、すぐに現場に駆け寄る。しかし、警官が再び立ちふさがった。
「中には入れません。危険です」と警官が厳しく言う。
その時、店内から一発の銃声が響き渡り、店のガラスが再び割れる音がした。周囲の人々は一斉に後ろに下がり、さらに緊張が高まった。
「早く解決しないと、さらなる被害が出る」
烏丸が急かすように言い、山県と共に周囲を見渡すと、ふと異様な気配を感じた。近くに立っている若者たちが何やら手に持っているものが気になった。よく見ると、それは軍人将棋に似た奇妙な形の駒だった。
「まさか…」山県がその駒を見つめる。「あの事件とこれが関係しているのか?」
「可能性はある」と烏丸が答える。「あの男の言葉通り、この盤が事件を解く鍵なら、渋谷のこの事件とも繋がりがあるはずだ」
その時、携帯の画面が再度光り、別の通知が届く。「事件の犯人、目撃情報。身元不明の男。軍人将棋に似た駒を持っている」
二人は顔を見合わせ、同時に言った。「この事件と軍人将棋が関係している…」
渋谷のマクドナルドで起こった銃乱射事件と、洋館に隠された軍人将棋の盤が示す謎。この二つの事件は、まさに一つの大きな真実を示唆していることを、烏丸と山県はすでに感じ取っていた。
渋谷の現場に向かう途中、烏丸と山県は急いで周囲の状況を把握しようとしていた。渋谷の交差点を越え、警官たちと人々の群れをかき分けて進むと、事件現場であるマクドナルドの店内からは依然として激しい銃声と騒動が続いていた。二人はそれでも、何か重要な手がかりが隠されていると直感していた。
警戒線を越えようとする烏丸を山県が制止した。「ここから先は無理だろう。警察がまだ警戒している。だが、俺たちには別の手段が必要だ」
「確かに、暴力を振るっている犯人をただ追うだけでは解決できない」と烏丸は静かに答える。「だが、我々にはあの駒を手に入れなければならない」
「駒?あの軍人将棋の?」山県は少し驚きながらも、すぐに理解した。事件が進行する中で、どうしても重要なのは「駒」と「配置」の意味だった。
二人は一度、警戒区域から離れ、近くの小道に入った。街の喧騒から一歩外れると、烏丸が山県に向かって話し始めた。「もし、あの事件が軍人将棋の盤の配置と関係しているなら、駒の一つ一つが重要だ。その駒が示す意味を知ることが、事件解決の鍵になるはずだ」
「確かに」と山県も頷く。「駒が何を意味しているかを知れば、事件の真相が浮かび上がるかもしれない」
二人は再び調査を進め、渋谷の小道を歩きながら情報を集めることにした。途中、道端の古びた商店街の一角で、異様な気配を感じた。薄暗い店先のショーウィンドウの中には、何かが隠されているような気配が漂っていた。店内には、古い本や地図、さらには奇妙なアイテムが並んでいる。
「何かがある」と烏丸が声をひそめ、山県とともにその店に入った。店内は薄暗く、埃にまみれた家具が並んでいる。奥にある棚に目を向けると、そこには一つの古びた箱が置かれていた。
「これだ」山県がその箱を指さすと、烏丸も慎重にその箱を取り上げた。箱を開けると、中には古風な駒のセットが入っていた。その駒は、まさに軍人将棋の駒であり、いくつかの駒が箱の中に整理されていた。目を凝らして見てみると、その中に一つの「工兵」の駒が紛れているのが見えた。
「工兵…これはまさに必要な駒だ」烏丸はそれを取り出し、慎重に手に取った。「この駒が、事件の鍵となる」
「どうして工兵が?」山県が疑問を口にした。
「工兵は、地雷を破壊し、道を切り開く役割を持っている。今回の事件も、ただの銃撃戦ではなく、何か隠された『障害物』を破壊する必要がある。工兵の駒がそれを象徴しているのだろう」と烏丸は考え込むように答える。
「なるほど…」山県が納得する。「つまり、事件の背後には何かの『障害』がある。工兵の駒がその障害を解決する手がかりを持っているということか」
「だろうな」烏丸が工兵の駒を操ることになった。「だが、この駒を手に入れたことで、さらに重要な情報を探さなくてはならない」
その時、再び烏丸の携帯が震え、通知が届いた。「渋谷 マック 銃乱射事件 最新情報 - 銃撃戦が激化し、犯人は『工兵』を示唆するメッセージを残していた」
「工兵…」山県は驚きの声を上げた。「やはり、あの駒が示す意味は事件そのものに関わっている」
二人は再び現場に向かうべく急いだ。警察の封鎖をくぐり抜け、マクドナルドの近くに辿り着くと、今度はさらに異様な事態が待ち受けていた。店内からは、銃声に加えて、まるで何かを引き裂くような音が聞こえてきた。
「犯人はまだ中にいるのか?」山県が冷静に言った。
「間違いない。だが、今は慎重に動くべきだ」烏丸は静かに答える。「あの工兵の駒が示す通り、今後の進行方向を決定するのは、我々の判断次第だ」
二人は一歩ずつ、事件の核心に迫るべく、マクドナルドの中へと向かうのであった。
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