このクソみたいな世界3
鷹山トシキ
第1話 軍人将棋の謎
烏丸と山県は、円山町にある古びた洋館に到着した。辺りは静まり返り、薄暗い空気が漂っている。洋館の外観は、何年も手が加えられていない様子で、どこか不気味さを感じさせる。
「ここがその場所か…」烏丸が低くつぶやく。
山県は黙って頷き、洋館の重い扉を押し開けた。中に入ると、広い応接室が広がっていた。古い調度品が並べられ、埃をかぶった家具が無造作に置かれている。二人は、その中を慎重に歩きながら目を光らせていた。
「何かがおかしい。どこかに手がかりがあるはずだ」烏丸が言うと、山県は一つの棚に目を留めた。
「これか?」山県が指差した先には、一見すると普通の将棋盤が置かれていた。しかし、よく見ると、その駒は通常の将棋の駒とは異なり、軍人を模した形をしていた。駒の一つ一つに、何か暗示的な意味が込められているような気がした。
「軍人将棋か…」烏丸はそれを見つめ、興味深そうに呟いた。「これはただの遊びではない。何か重要なメッセージが隠されているに違いない」
二人はその軍人将棋の盤を注意深く見つめる。駒の配置や動きに隠された意味を解き明かすことで、今回の事件の鍵を握る情報を見つけ出さなければならない。
烏丸が駒を指でなぞりながら、言った。「ここから、事件の真相が浮かび上がるはずだ」
その時、部屋の奥からひときわ重い足音が響き渡った。誰かが近づいてくる気配がする…。
軍人将棋では、両プレイヤーが駒を裏返した状態で自分の陣地に自由に並べ、先攻から交互に駒を動かしていく。駒にはそれぞれ相性関係があり、同じ升目で駒が重なったときは、相性に従って片方または両方の駒が盤上から排除される。プレイヤーは相手の駒を見ることができないため、双方の駒を確認する審判役をおく。ゲームは相手の陣地最奥の総司令部を占領するか、相手の動ける駒を全滅させた方が勝ちとなる。最後に同種の駒同士が残った場合は相打ちとなるため、両方とも全滅する場合もあり得る。
駒には、少尉から大将までの各階級の軍人、およびタンク、飛行機、騎兵、工兵、地雷などの種類があり、種類によって勝てる相手が決まっている。基本的には位が高い軍人の方が強いが、最下位のスパイは最上位の大将を撃破できる、地雷には飛行機と工兵しか勝てないなど細かい規則がある。軍人将棋のセットには、このルールを一覧表にしたものが付属している。審判役はそれを見ながら勝ち負けを判定することが多い。
ルールはそのままに、駒の形状をアレンジしたものもある。駒を箱状にすることで手前側のみに駒の種類がわかるようになっており、底の空洞に仕込まれた数本のピンの凸凹を付属の勝敗判定機により判定するという、審判役を必要としない工夫がされている。現在は市販されていない。
☗ゲームの目的
一般的には敵の総司令部マスを大将、中将、少将、大佐、中佐、少佐のいずれかの駒で占拠する(これら以外の駒で、相手の総司令部に侵入できたとしても、占拠したことにはならない)か、動かせる駒を全滅させることが目的である。なお、前記の駒が相手の総司令部に入った時点で占拠したとみなされるので、後からその駒を取ることはできず、ゲーム終了となる。総司令部が占拠されれば、残った駒の種類や数に関係なくゲームの負けとなる。
ルールによっては相手の大将を倒すことを目的とするものもある。また、25枚型では相手の防御を破り、総司令部マスにいる元帥を倒すことを目的とする。
駒の勝敗
31枚型・23枚型
基本駒
大将>中将>少将>大佐>中佐>少佐>大尉>中尉>少尉
の順に強い。例えば、少将と中佐が戦うと、少将が勝つ。また、将官、佐官は司令部を占領できるので、尉官に比べ駒の価値が高い。
特殊駒
飛行機は将官以外には全て勝つ。将官のみに負ける。
タンクは将官、飛行機、工兵、地雷に負け、その他には全て勝つ。
💣️地雷は飛行機と工兵に負け、その他の駒に勝つ(相打ち)。
工兵は地雷とスパイ、タンクに勝ち、その他には全て負ける。
騎兵はスパイと工兵だけに勝ち、その他には全て負ける。
スパイは大将だけに勝ち、その他には全てに負ける。動ける駒の中では最も弱い。
軍旗はすぐ後ろにある味方の駒と同じ威力となる。たとえば軍旗とタンクが戦うとき、軍旗のすぐ後ろが少将ならば軍旗が勝つ。軍旗のすぐ後ろが大佐のときはタンクが勝つ。このとき、大佐は同時に撤去されない。軍旗の後ろが地雷のときは、タンクと軍旗が相打ちになり、両者とも盤から除去される。このとき、地雷は撤去されずその場に残る。また、軍旗のすぐ後ろが敵の駒か何もない場合、あるいは軍旗が自陣の最後列(総司令部も含む)にある場合は、どの駒と戦っても負ける。
同じ駒同士の戦い(大将対大将、飛行機対飛行機、スパイ対スパイなど)は相打ちとみなしてどちらも盤上から撤去する。撤去した駒は再び使うことが出来ず、撤去した駒は自分の駒しか見ることが出来ない。また。本将棋とは異なり持ち駒がなく、相手から取った駒を自分の駒にはできない。地雷が勝った場合は爆発したとみなし撤去されるのが一般的である。
二人は軍人将棋の盤をじっと見つめていた。烏丸が駒を少しずつ動かしながら言う。「これはただの遊びの道具じゃない。きっと何か、深い意味があるはずだ」
山県は静かにその動きに注目しながら、指摘した。「駒の配置…おかしいな。普通なら、もっと効率的に並べるものだが、ここではわざと不自然に並べられている。まるで、何かを示唆するような」
烏丸は指を動かし、最前列の駒を慎重に並べ替える。「ここに何かが隠されている。それを解明するためには、この盤を読み解く必要がある」
その時、再び部屋の奥から重い足音が響く。二人は動きを止め、息を潜める。足音が近づくにつれ、緊張が高まる。
「誰か来たのか…」山県が静かに耳を澄ます。
足音がついに応接室の扉の前で止まる。そして、扉が静かに開かれる。中に入ってきたのは、身長が高く、厳つい顔をした男性だった。彼は一度、二人をじっと見つめ、そして口を開いた。「君たちもこの場所に来たか」
烏丸と山県は、無言のままその男を見つめ返す。男の目には鋭い光が宿り、どこか危険な雰囲気を漂わせていた。
「君たちも、この事件に関わっているのだろう?」男は言った。その声には冷たさが感じられた。
烏丸がゆっくりと立ち上がり、「関わっていると言うか、解決に向けて動いているだけだ」と返す。
「ふむ…」男は頷きながら、ゆっくりと二人に近づいてくる。「それならば、君たちもこの将棋盤に隠された意味を理解しているのだろう」
山県が少し眉をひそめた。「あなたは一体…?」
「私は、ただの見届け人だ」男は冷たく笑った。「だが、君たちにはこれを解く力があると見込んでいる」
そして男は一歩踏み出し、軍人将棋の盤に目を落とす。彼の指が駒に触れると、その動きが一瞬で変わった。駒が何かを暗示するようにひとつずつ移動し、まるで盤そのものが反応しているかのように感じられた。
「これはただの遊びではない。君たちは、どうやら選ばれた者のようだ」男の声が響く。「この将棋盤の中には、事件を解くための鍵が隠されている」
烏丸は男の言葉をじっと聞いていた。「それが…?」
男は一度視線を外し、再び駒を見つめながら言った。「この軍人将棋の盤は、ただの戦争の模倣ではない。この配置が示すのは、実際に起こった事件の再現だ。君たちがこれを解くことができれば、事件の真相が明らかになるだろう」
山県は思案するように駒を見つめ、言った。「だが、この盤の駒の配置が不自然だ。何かを隠すような…」
「それは君たちが気づくべきポイントだ」男は短く答えると、しばらく沈黙した後に、再び言った。「君たちは、この盤が意味することを理解することで、この場所で起こったことを知ることができる。それを知る覚悟はできているか?」
烏丸と山県はお互いに一瞬視線を交わす。そして、烏丸が静かに言った。「覚悟はできている」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます