第2話

それから、長い1日が終わり…


私は自分の部屋でぐったりとしていた。


つまるところ、今の私は初めての仕事に疲れ、ぼーっとしているのだ。


『疲れたよ〜』


…と、小言を隣の部屋に聞こえないように言ってみたりしてることからわかる通り、私は新しい環境で良い意味でも悪い意味でも打ちのめされたのだ。




ーそして、今日私はどんな仕事をしたのか。

まあ、簡単に言うと、ひたすら床を雑巾がけだ。


ああ〜…筋肉痛になりそ〜……



こうして、私は今日の日記をつけてから、ベッドで毛布にくるまり、眠りについた。


(…………)

それから朝が来て、私は目覚めた。


朝の日差しが眩しい。


…………にしても。


私は……さっきまで。


何か怖い夢を見ていた気がする。


だけど……


詳しいことが思い出せない。


夢に出てきたその少女の顔も……名前も。


思い出せなくなってしまった。


確かに、所詮は夢だから忘れるのは仕方ない。


どうでもいいことなはずだ。



…はずなのに。


なら……なんで私は。


泣いているんだろう。


涙がポロポロと…溢れて止まらないんだろう。



(………………)

私がわけもわからず泣いていると、同じ使用人のエリカさんが部屋に入ってきた。


『おはよー。アンリ……?』


そして、私の方へ心配そうにかけよってきてくれた。


『大丈夫!!?アンリ!!』


『大丈夫だよ。エリカさん。少し思い出せないことがあっただけ』


すると、エリカさんは微笑んで言った。


『きっと悪い夢でも見たんだよ』


『きっと…?』


『うん。きっと』


その優しい微笑んだ顔を見ていたら、いつの間にか私の表情も柔らかくなっていた。


そして…涙はどこかへいっていた。


『あと…アンリ。私のことはエリカさんじゃなくて、エリカって呼んで』


『……え?良いの?』


『うん。だって、私達同じ使用人でしょ?だからアンリと仲良くなりたいの』


そう言って、彼女は私に手を差し伸べてくれた。


そして、私はその手を取って、言った。


『うん!よろしくね!エリカ!』


すると…エリカは嬉しそうに微笑んだ。


(…………)

そして、私がこの館に来てから2日目の今日は、ユリウス暦1020年11月12日らしい。


まあ、そろそろ冬になる季節だね。


というわけで、私は朝から全ての床を雑巾がけした。


すると、ハンスさんが黒服の客人と話しているのが見えた。


だけど、私はまだ入りたての使用人だから、深く関わらないようにして、いつも通り床を雑巾がけした。


そして…それから昼になり、私はキッチンの皿をいつもどおり洗っていた。


すると…


今度は執事のゾルゲさんが、その黒服の客人と話をしているのが聞こえた。


私はその黒服の客人の言葉の一部が聞こえていた。


ー『あとは頼みましたよ。ゾルゲさん』ー


ゾルゲさんは頷いていた。


私はこの言葉の意味がよく分からなかったけど、気にせず皿洗いを続けた。


(……………)

そして…このあと特に何もなく2日目も終わり、眠りにつく前に、今日あったことを日記にまとめた。



そして…眠りについた。

(……………)


朝起きた。


相変らず、光が強いな。


にしても…



私。


また涙をポロポロ流している。



この感覚……


昨日と全く同じ夢を見たんだ。


あの少女は誰なんだろう。


名前も顔も思い出せない。


すると…エリカが部屋に入ってきた。


『おはよー。アンリ……?』


そして、私の方へ心配そうにかけよってきてくれた。


『大丈夫!!?アンリ!!』


『大丈夫だよ。エリカ。少し思い出せないことがあっただけ』


すると、エリカは微笑んで言った。


『きっと悪い夢でも見たんだよ』


『きっと…?』


『うん。きっと』


その優しい微笑んだ顔を見ていたら、いつの間にか私の表情も柔らかくなっていた。


そして…涙はどこかへいっていた。


『あと…アンリ。私のことはエリカって呼んでくれて嬉しいよ』


『…え?エリカ…それはどうして?』



『だって…アンリ。私はアンリに昨日までエリカさんって呼ばれてたし』


『……え?なん…で…?』



あれ…?


おかしいな。



昨日。私はエリカのことをエリカって呼んでいたはずなのに。


……エリカ。忘れてるのかな?


まさか、そんなことは………



私は手元にあった日記を開いてみた。



しかし、なんと……


昨日書いたはずの日記の記録が消えていたのだ。










(…………)

私はそれから、2回以上似たような1日を過ごして……


似たような日記を書いては、寝て…朝起きると、その日記の記録が消えているのを確認するような生活をした。


そして…"その疑念"は既に完全なる確信になっていた。



ーおかしい。


やはり、おかしい。


この世界の11月12日はループしている。


なら……なんで…?



そう思った私は、日付けが変わる深夜0時まで起きることにした。


そして…気の遠くなるような長い時が経ち、深夜0時を迎えた。


私は何も起こっていないことを確認し、立ち上がり、窓の外を眺めた。


そして私はあくびとともにまばたきをした。


だけど、その次の刹那……



私は窓から現れた黒い翼の生えた謎の黄色の髪の少女に腕を掴まれた。


そして、私は一瞬にして、窓の外に連れて行かれた。



必死に抵抗する私をよそに、彼女は冷静だった。




そして…私は抵抗しながら、下の屋敷に目線を向けてから……思い知ることとなった。


ーこの世界の本当の姿を。


そう。


なんと…


私達の屋敷は地面を覆い尽くすほどの禍々しい闇に呑まれてしまったのだ。



『う……そ』


私はその光景を見て、完全にフリーズする。


そして…その黒い翼を背中に生やした謎の少女は言った。


『アンリ・ハーヴェルシュタイン。この世界は異世界なんかじゃない』



『……え?』


彼女は私の瞳をしっかり見て、言った。


『この世界は…君達地球に住む人類の見ている悪夢のゴミ捨て場ーまたの名を"悪夢世界(ロスト・エデン)"だ。決して、異世界なんていう綺麗なものじゃない。そして…この世界も、またそんな一人の人間の悪夢に、他の人間が複数人迷い込んでいるっていうわけさ』


『……え』



そして…それから、その少女は少しだけ表情を柔らかくして、私に彼女自身についてのとある真実を打ち明かしてくれた。


『そして…私の名前はキューピット。今は人間の姿しているけど…君と契約をして、君をその人間の悪夢世界(ロスト・エデン)に送り込んだ張本人さ』


『キューピット……?なん…で……?なんで…そんなこと』


私はキューピットに問い返す。


すると……キューピットは少し淋しそうに闇に呑まれて消えてしまった館を見てから…言った。


『それはね。アンリ。君にこの世界を救ってもらうためだよ』



(……………)

それから、私は息を荒げながら、ベッドから飛び起きた。



ー今日の曜日は相変らず、昨日と同じだ。


つまり、まだ同じ1日がループしているっていうわけだ。




そして…


さっきまで一緒にいたキューピットとの記憶……


あの記憶はきっと、夢なんかじゃない。


あの夢は現実だ。


何故なら…彼女に腕を強引に掴まれたときの跡が、私の腕にはしっかり残っているからだ。


つまり…この世界が悪夢世界(ロスト・エデン)であったり、今日の1日の終わりにこの館が闇に呑み込まれることは全て真実だろう。



そして……今、思い出したけど……私が毎日見ていた謎の少女との"悪い夢"でも同じような景色を見た気がするなあ。




でも……まあ。


やっぱり、分からないことだらけだなあ。この世界は。


(…………)

そして……いつもと同じ今日が始まる。

   

…そう。いつも通り、エリカが私の部屋に入ってくることで今日が始まるんだ。


その1日のルーティーンは絶対だ。


何故なら…この世界は同じ1日を繰り返しているから。


このルーティーンが崩れることはない。


そして……案の定、エリカが入ってきて……


言った。



『アンリ。気づいたんだけどさ……この世界って、ループしてない?』



『……え?』



私は想定外のエリカの言葉に驚いた。


そして……エリカに言った。


『エリカ。貴女も気づいたの?』


エリカは頷いた。



そして…言った。


『アンリ。貴女にはお願いがあるの』


『おね…がい?』


『うん。アンリ………私と協力して、一緒に屋敷の謎を解いてほしいの』



『協…力…?』


私は少し考えてから、首を縦に振った。


すると、エリカは微笑んで、言った。


『それじゃあ、この屋敷の謎を解決するために協力してくれるね』


私が頷くと、エリカは続けた。


『私は昨日、見てしまったの……私達の屋敷が闇に呑まれてしまうのを』


『そっかあ。…エリカもそれを見てしまったんだね』


それを聞いて…私は少し驚くとともに、この状況に対して納得もした。


何故なら…もしエリカがあの闇に呑まれる景色を見てから記憶を消されず、また同じ日々が続いていることに気づくことができたのなら、おそらく……


みんながこの屋敷が闇に呑まれるのを見れば、みんな同じ1日が繰り返していることに気づくはず……


てことは…!


みんなを深夜0時までに屋敷の外に出せれば良いんだ!!


良案を思いついた私は、エリカを見てから嬉しそうな顔なんかをしてみたりして、言う。


『エリカ!!私!気づいちゃった!!みんなを深夜0時までに屋敷の外に出せれば良いんだ!!そうすれば!みんな!!記憶を消されなくて済むよ!!』


すると、エリカは少し考えてから、微笑んだ。


『それ!良いね!!じゃあ!さっそく実行だ!!』




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