アイのシナリオ 〜君はこの悪夢を終わらせることができるか。
@kairu1223
第1話
この私…尾形愛理は昔から普通だった。
テストの点数も、体育の成績も、友達の数も、ゲームの上手さも…
全てが平凡だった。
その現状に私はうんざりしていた。
私は子供の頃、特別だと思っていた。
私は、みんなを守れるヒーローや魔法少女のような存在になれると思っていた。
でも、現実はそんなに甘くない。
ー私は…何者でもない。
その現実を、今の私は受け入れているというザマだ。
今になって考えてみると…私は子供の頃、この世界の意味のある何者かになりたかったんだ。
この世界の誰にも与えられていない役割が欲しかった。
だから、私はヒーローや魔法少女のように生きたかったのだ。
でも…
私には無理だ。
だって、私は平凡だから。
そう決めつけていた。
ー私がその精霊と出会うまでは。
(…………)
これは私の幼馴染の遥香と一緒に下校していた時のこと。
私は、遥香と近くのコンビニに寄ってから、パックに入った棒付き唐揚げをほおばり、2人で最近私達の学校であったとある話に花を咲かせた。
その話とは…
この街のはずれにある神社の廃墟に行けば、精霊が夢の世界に連れていってくれて、連れて行かれた人間はその世界で英雄になれるそうだ。
私はその話を聞いたとき、本当に夢の世界に行けるのかということを試したくなった。
そして、もしこの話が本当で、私が夢の世界で英雄になれることができれば、私の幼い頃の夢を叶えられるかもしれないと思ったのだ。
『遥香。私……それでも、その廃墟に行く。私…このまま……平凡なまま、死にたくないの。これは私が特別になれる最初で最後のチャンスだから』
私は、遥香にそう言った。
それを聞いた途端、遥香は焦りだす。
『やめときなよ!愛理!!もしその話が本当なら!帰ってこれないかもしれなんだよ!!』
遥香も…私のこと、心配してくれてるんだなあ。
でも…無理だ。
だから、私はそんな遥香の目をしっかり見て、言った。
『私は廃墟に行く。遥香は危険だから、家に帰ってて』
すると…遥香は、私の瞳をじっくり見てから、言った。
『私は家には帰らないけど…その前に、愛理に聞きたいことがあるの』
『何?遥香』
『ねえ、愛理。普通ってそんなに怖いものなのかな?』
『………』
私は沈黙した。
何故なら、遥香のその予想外の言葉に少し驚いたからだ。
『確かに、私達は子供の頃は特別に憧れてる。でも…人間みんな特別じゃないし、何より普通でも幸せになれると私は思うの』
そっかぁ。それが遥香の考えか。
私は少し下を向いて、ため息をついた。
そして、今のため息は別に遥香に対してのため息ではなく、未だに廃墟に行くことを躊躇う私へのため息だ。
私は、結局無力なんだ。
ーそして、そんな私をみかねた遥香は私にこのような提案をしてくれた。
『それじゃあさ、愛理。私と一緒にその廃墟に行かない?』
『……え?』
またしても、予想外の提案に私は少し固まった。
『私は愛理の幸せを分かることはできない。もし、愛理の幸せがヒーローのような特別な存在になることだとしても…私は愛理のことを分かってやれない。私達は他人だから。…でもね。愛理。私は愛理が幸せになるためには何だってやるから。だって、私は愛理の幼馴染で、親友なんだもの』
私は頬を照らしながら、頷いた。
しかし……それと同時に不安もあった。
だって……
私達がこれから行く廃墟は明らかに危険な場所だったからだ。
(……………)
私達は廃墟に着いた。
この廃墟はまるで日本の神話に登場するような…そんな壮大な廃墟で、とても私達の街のはずれの光景とは思えなかった。
『でっかあ。この鳥居…土に埋もれてる』
私がその壮大な廃墟を前にそう言うと、遥香は私の顔色が青ざめてないかを確認しながら、言った。
『覚悟は…できてるんだよね?』
私は頷いた。
そして…私のその反応を見た遥香はこう返して、館に向けて歩き出した。
『それじゃあ、行こっか。絶対…私からはぐれないようにね。愛理』
(…………)
私達は神社の社の廃墟の中を探索し始めようと、社の中に足を入れる。
すると…
遥香が私の前から消えた。
ーそれは、一瞬の出来事だった。
『遥香!!遥香!!!』
私はそう叫びながら社の中を探し回った。
しかし…どこにも遥香はいなかった。
なんで…!!遥香!!
私からはぐれないって言ったじゃん!!
私から…!!
私からあ…!!
ー私の顔はいつの間にか、汗と涙でぐしゃぐしゃになっていた。
そして…その時のことだった。
私の前に…
精霊が現れたのは。
『君は私と契約しなくてはならない』
『…嘘。本当に…いたの』
私は疲れていたので、少しのリアクションしかできなかったが、内心その黄色くて赤い毛の精霊が本当にいたことにかなり驚いていた。
『私の名前はキューピット。私の役目は君と契約して、夢の世界に送り届けることになる』
私はこの時、この廃墟で起こっていることは全て夢だと思いたくもなるほどに、生きた心地がしなかった。
しかし…私はその後、すぐに確信することになる。
ーこれは夢じゃない…と。
そして…そんな私に精霊は言った。
『君。名前は?』
『尾形…愛理』
『…ふーん』
『遥香を返して…!!』
『愛理……遥香は』
『遥香を返せえ!!!精霊!!!』
私は自分でも、自分が言ったことに驚いていた。
こんなことを言ったら、私は夢の世界で英雄になることができないのに。
…………
ああ、そうか。
私にとっての幸せは……
遥香のような大切な人との平凡な日々だったんだ。
『さっきも言ったように、君は契約を結ばなくてはならない。そして…そのためには君は一回この世界で死なないとね』
すると…
信じられないことが起きた。
暴走したトラックが私のいる社に突っ込んできたのだ。
なんで…?
止まって。
止まれって…!!
避けられ…!
ない。
ー私は…激しい痛みとともに、その場で絶命した。
(……………)
ー私は…目が覚めたら、貴族の館のような豪邸の庭の噴水の前で寝転がっていた。
そして…とある優しい男の人の声が聞こえた。
『大丈夫かな…?お嬢さん。…おーい』
私はその声を聞いてから起き上がって、前を見た。
すると…そこには。
高身長で、貴族のような服を着ていて、銀髪で、青い瞳をしたイケメンがいた。
そして、戸惑う私にそのイケメンは微笑んで、言った。
『お嬢さん…俺の館に来るかい?』
『え…?やか…た?』
そのイケメンの顔はとても柔らかく、温かかった。
そして…そのイケメンは言った。
『館で俺の側近として働いてくれないか?』
館で…こんなイケメンの……
側近…に…?
………そっかあ。
これが…昔ラノベで読んだことがある"異世界ラブラブライフ"かあ。
遥香も…ここに来ていたらなあ。
そう思った私は少し空を見上げてから、すぐに頷いた。
すると、そのイケメンは彼の名前を教えてくれた。
『俺の名前はハンス・ルルーシュ。ご主人様とかかしこまらずに、ハンスさんとかで良いよ。館のみんなは俺のことをそう呼んでいるから』
私は頷いた。
そして…ハンスさんは話を続けた。
『それで…君の名前は?』
『私の名前は…あいr..』
その時…突如として、私の脳裏に誰かの存在しない記憶が流れた。
(…………)
『そっかあ。じゃあ、愛理。君は今日からアンリ・ハーヴェルシュタインね』
(…………)
だから、すぐに私はすぐに訂正した。
『私の名前はアンリ!アンリ・ハーヴェルシュタイン!!』
その名前を聞いたハンスさんは優しそうに微笑んでくれた。
『アンリ。良い名前だね』
すると…私も微笑んだ。
『ありがとうございます。ハンスさん!』
ー彼は私の名前を褒めてくれた。
誰も褒めてくれないどころか、小学生の時に"空気みてえな愛理"ってクラスの男子に言われた時のことと今を比べてみると嬉しくて…嬉しくて…とにかく嬉しかった。
だけど…遥香のことが私はとにかく心配で仕方なかった。
だから、目の前のに聞いてみることにした。
『遥香って人…知りませんか?めがねかけてて…少し小柄で……』
『知らないな…』
『そうですか』
私は、がくんと腰を落とした。
『それじゃあ、アンリ。まずは目の前にある俺の屋敷に入ろうか。そこで情報収集すれば見つかるかもしれないしな。何か情報が見つかるかもしれないからな。今日からよろしく!』
『はい!よろしくお願いします!!ハンネさん!!』
私はハンネさんに、満面の笑みで微笑み返した。
……にしても。
アンリ・ハーヴェルシュタイン………
あの記憶は何だったんだろう…?
(…………)
それから、長い1日が終わり…
私は自分の部屋でぐったりとしていた。
つまるところ、今の私は初めての仕事に疲れ、ぼーっとしているのだ。
『疲れたよ〜』
…と、小言を隣の部屋に聞こえないように言ってみたりしてることからわかる通り、私は新しい環境で良い意味でも悪い意味でも打ちのめされたのだ。
ーそして、今日私はどんな仕事をしたのか。
まあ、簡単に言うと、ひたすら床を雑巾がけだ。
ああ〜…筋肉痛になりそ〜……
こうして、私は今日の日記をつけてから、ベッドで毛布にくるまり、眠りについた。
(…………)
それから朝が来て、私は目覚めた。
朝の日差しが眩しい。
…………にしても。
私は……さっきまで。
何か怖い夢を見ていた気がする。
だけど……
詳しいことが思い出せない。
夢に出てきたその少女の顔も……名前も。
思い出せなくなってしまった。
確かに、所詮は夢だから忘れるのは仕方ない。
どうでもいいことなはずだ。
…はずなのに。
なら……なんで私は。
泣いているんだろう。
涙がポロポロと…溢れて止まらないんだろう。
(………………)
私がわけもわからず泣いていると、エリカさんが部屋に入ってきた。
『おはよー。アンリ……?』
そして、私の方へ心配そうにかけよってきてくれた。
『大丈夫!!?アンリ!!』
『大丈夫だよ。エリカさん。少し思い出せないことがあっただけ』
すると、エリカさんは微笑んで言った。
『きっと悪い夢でも見たんだよ』
『きっと…?』
『うん。きっと』
その優しい微笑んだ顔を見ていたら、いつの間にか私の表情も柔らかくなっていた。
そして…涙はどこかへいっていた。
『あと…アンリ。私のことはエリカさんじゃなくて、エリカって呼んで』
『……え?良いの?』
『うん。だって、私達同じ使用人でしょ?だからアンリと仲良くなりたいの』
そう言って、彼女は私に手を差し伸べてくれた。
そして、私はその手を取って、言った。
『うん!よろしくね!エリカ!』
すると…エリカは嬉しそうに微笑んだ。
(…………)
そして、私がこの館に来てから2日目の今日は、ユリウス暦1020年11月12日らしい。
まあ、そろそろ冬になる季節だね。
というわけで、私は朝から全ての床を雑巾がけした。
すると、ハンスさんが黒服の客人と話しているのが見えた。
だけど、私はまだ入りたての使用人だから、深く関わらないようにして、いつも通り床を雑巾がけした。
そして…それから昼になり、私はキッチンの皿をいつもどおり洗っていた。
すると…
今度は執事のゾルゲさんが、その黒服の客人と話をしているのが聞こえた。
私はその黒服の客人の言葉の一部が聞こえていた。
ー『あとは頼みましたよ。ゾルゲさん』ー
ゾルゲさんは頷いていた。
私はこの言葉の意味がよく分からなかったけど、気にせず皿洗いを続けた。
(……………)
そして…このあと特に何もなく2日目も終わり、眠りにつく前に、今日あったことを日記にまとめた。
そして…眠りについた。
(……………)
朝起きた。
相変らず、光が強いな。
にしても…
私。
また涙をポロポロ流している。
この感覚……
昨日と全く同じ夢を見たんだ。
あの少女は誰なんだろう。
名前も顔も思い出せない。
すると…エリカが部屋に入ってきた。
『おはよー。アンリ……?』
そして、私の方へ心配そうにかけよってきてくれた。
『大丈夫!!?アンリ!!』
『大丈夫だよ。エリカ。少し思い出せないことがあっただけ』
すると、エリカは微笑んで言った。
『きっと悪い夢でも見たんだよ』
『きっと…?』
『うん。きっと』
その優しい微笑んだ顔を見ていたら、いつの間にか私の表情も柔らかくなっていた。
そして…涙はどこかへいっていた。
『あと…アンリ。私のことはエリカって呼んでくれて嬉しいよ』
『…え?エリカ…それはどうして?』
『だって…アンリ。私はアンリに昨日までエリカさんって呼ばれてたし』
『……え?なん…で…?』
あれ…?
おかしいな。
昨日。私はエリカのことをエリカって呼んでいたはずなのに。
……エリカ。忘れてるのかな?
まさか、そんなことは………
私は手元にあった日記を開いてみた。
しかし、なんと……
昨日書いたはずの日記の記録が消えていたのだ。
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