転生貴族は王女様と結ばれたい!
@free123456789
第1話 prologue
「お先に失礼します」
そう言って男―――春は会社を後にした。
大学を卒業してはや2年。春も立派な社畜となり、今までの趣味であったゲームや読書などする余裕はない。
春の交友関係は浅く大学時代では友達ができなかった。唯一の幼馴染とは、高校を卒業後に連絡が途絶えた後それっきりだ。
トボトボと駅へ向かう春の目の前に夫婦と子供が通り過ぎる。
「お父さん! 今日も遊んで!」
「仕方ないなぁ~」
「お母さんも!」
「もう。ご飯食べ終わったらね?」
「やったー!」
(はぁ……)
春はありふれた日常を見て溜息を吐いた。春が目指していた物であり、これから先手に入ることも無い幸せ。
最近の悩みである結婚のことについて考えていたからか、いつの間にか自宅に帰りついた。
散らかっている部屋を進みそのままベッドにダイブする。ジャケットを適当に放り投げSNSをチェック。
ルーティーンをこなし風呂に入った後、眠りに付こうとしたその時、SNSにDMが届いた通知が聞こえた。
「え、美咲!?」
DMの相手は大学から疎遠になった幼馴染の美咲であった。どうやら最近仕事が落ち着いたから久しぶりに春に会いたいとのこと。場所は、高校の頃いつも一緒に遊んでいたショッピングモール。
日程は明日。丁度休みであった春は有頂天となった。口ずさみながらクローゼットを開き明日のための服を用意し、眠りについた。
★★★
「もしかして春? 久しぶりじゃん!」
「お、おう久しぶり。元気してた?」
「そりゃ勿論!」
翌日、2人はショッピングモールで感動の再開を果たしていた。
((相変わらず可愛いなぁ/かっこいいなぁ))
2人の心情は両者を思う気持ちであった。だが、どちらも奥手であるためそれが表に出ることは無い。
最初の会話以降、話が止まったことに気まずさを感じたのか、美咲が「よし! 楽しんでいこう!」と言い春の手を握ってショッピングモールへと入っていく。
モール内にあるレストランで食事を取りながら近況報告をし合った。仕事の調子やなぜ連絡が付かなかったのかなど。
「本当にごめん!」
「美咲は昔からドジだったからなぁ」
「うぅ……」
連絡が付かなかった理由が些細な事であり、またそれも美咲のドジ属性が前面に出たものであったため春は呆れて苦笑いした。
食事を終えた2人は、思い出の場所を巡るため外へ向かう。ゲームコーナーを横切ろうとしたとき1つのゲームパッケージが目に入った。
『貴方に愛されたい~成り上がり少女の恋愛譚~』
春が見ていたゲームを美咲も見やる。
「あぁ~これね」
「知ってるのか?」
「うん、1通りやったことあるよ。でもあんまりだったなぁ。子供の頃なら楽しめただろうけど今考えるとねぇ~」
そう言って美咲は外に向かいながらこのゲームについて春に説明する。『貴方に愛されたい~成り上がり少女の恋愛譚~』は大人気乙女ゲームであり何度もリメイクされている。攻略対象は学院に通っている生徒全員。上は王太子から下は平民まで様々だ。
好感度を稼ぎながら王子様と結ばれたり、逆ハーレムを目指したりできるらしい。
「現実的に考えるとありえないよね。ただの平民と王子様が結婚するなんて。婚約者は面子潰れだし、ハーレムエンドに至っては国の中枢が終わっちゃうよ」
「いや、ゲームだろ? エンディング後とか考えるか? 普通」
「そうだけどさぁ……」
ショッピングモール前にある大きな交差点を渡りながらゲームについて語る2人。楽しいひと時。社会に疲れた春にとって最高の時間―――だった。
2人は話に夢中で気付くことができなかった。2人目掛けて突っ込んでくる大型のトレーラーが迫っていたことに。
★★★
激しい痛みが春を襲う―――と思っていたが、いつまで経ってもその衝撃はこない。
(死んで、ない?)
春の視界は真っ暗であり耳も籠っていてよく聞こえない。周囲では複数の人が喋る声が聞こえる。
その時、春は自分の体を持ちあげられる感覚がした。
(おいおい! 俺を軽々持ち上げるとかすげぇな!)
救急隊員が来てくれたのだろうと思った春であったが、抱き上げられた状態から救急車に運ばれる気配が無い。
微かに聞こえる耳から美咲は無事かどうか探ろうとしたが、思いがけない言葉に衝撃を受け思考が飛んでしまった。
「おめでとうございます! 男子ですよ!」
「おお! よくやったぞ!」
「はい……あなた……」
目が少しずつ見えるようになった春は周りを見渡す。そこには老婆と若い男女が居た。
「ほら、抱いてあげてください。奥方様」
「えぇ。こうやって抱くのかしら?」
そして老婆から若い女へとバトンされる春。
(は?)
状況が明らかになるにつれ春の頭は、混乱に支配されていく。
そんな春を不思議そうに見つめる3人。
「不思議だわ。赤ちゃんって普通泣くものじゃないのかしら?」
「あぁ。確かにそうだな」
「えぇ……私もこのような経験は初めてです……」
「あぁ~~~~」
春は説明を求めようと3人に話かけたが、自分の声ではないことに気付く。そして自分の手を目の前に持って行く。
春の視界には、きちんと2つの手が見える。赤子のような可愛いらしい手を広げながら。
(どぉおおおなってんのぉぉおぉおお!!!!)
★★★
『あの子と結ばれたい! 結婚したい!』
『助けて……』
『大丈夫か? 俺はエドリック。この国の王太子さ』
『ここは王立学院。身分差など関係無い!』
『貴方と結ばれる日をずっと。あの時初めてお会いした時からずっと待っていました』
『ラウル! 分かっているのか! 貴様がやっていることは許されざる行為だぞ!』
『この国、いやこの世界の英雄。其方の功績を称え侯爵位に任命する』
春がこれから歩んでいくのは茨の道。前世と比べ刺激的な日々となる。
だが、春はこれらについて知るゆえもない。
「おぎゃぁあああ!!!!(あいぇぇえええ!!! 赤ちゃんなんでぇえええ!!!)」
なぜなら春の
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