第6話
「本当に恥知らずだな、天才サマって奴はよ」
「姉さんも大変だな」
傭兵達からはそんな呟きが漏れる。
「またやるのか」
「勝てるわけねぇのに」
「さすがな流石に昨日の今日じゃな」
サセックス家の正規兵達でさえ傭兵たちの呟きに同意しているようだった。
いくらサセックス家の神童として名高いレクスであっても、世界最強の傭兵団の団長には太刀打ちできな事は昨日の結果から火を見るより明らかである。
正に、大人と子供の戦いであった。
「……昨日あそこまでボロボロにしてやったばかりなのに、また挑んでくるなんて、その度胸だけは認めてやるよ」
「度胸だけでなく、俺の実力もお前に教えてやろうではないか」
「……ッたく、めんどくさいガキだ。言っても無駄だろうが、勇気と無謀は違うんだ。勝てない戦いに意地になって命を落としてきた奴を私は何人も見てきたんだ」
少し表情を暗くして諭すように言うレベッカ。
「無謀ではない。今の俺に不可能は無い」
「やっぱり、お前には身の程ってもんを教えてやった方がいいな」
「お前にできるものならな……俺を侮るな」
「まぁいい。もう一度体に教え込んでやるよ、覚悟しな」
「……いいや、学ぶのはお前だレベッカ……。お前こそ、俺の……かっ」
格好良さを続けようとしたレクスだが、
「あ、あのぅ…や、止めた方がいいんじゃないでしょうか?」
二人の会話にミリアムが割り込んだ。
彼女は二人をなんとしても止めたかった。
レクスは酷く負けず嫌いなのだ。
さっさと負けを認めればいいものを、いつまでも必死になって見苦しく足掻き続ける。
昨日はいつまでも敗北を認めないレクスの悪あがきをレベッカが完封したのだ。
それはもう、目もあてられない光景だった。
「け、結果はめ、目に見えてると思いますっ!」
「そうは言ってもねぇ」
困ったように返すレベッカ。だが、今更自分からは引っ込みがつかない。
「なんだ、ミリアム。心配しているのか? この俺がこの女に負けるとでも思っているのか? 心配するなミリアムよ。」
「で、ですが……」
「なんなのだミリアム? この俺が負けるとでも思ってるのか?」
歯切れの悪いミリアムに対し、レグスはミリアムの肩を掴みその相貌を見つめるが、彼女は答える事が出来ない。
その時、
「そりゃそうだろうさ。そのメイドのお嬢ちゃんは昨日のお前さんのみっともない姿見てるんだからさ」
とレベッカが呆れた声で助け舟を出す。
「す、すいません。私はレクス様がレベッカさんに勝てるとは思いません」
絞り出すような声でミリアムは呟く。
「ここにいる誰一人だって、お前さんが私に勝てるなんて信じゃちゃいないのさ、そうだろお前ら?」
レベッカは、傭兵やサセックス家の兵達に問いかける。
「まぁ、そうだろ」
「……ああ」
「む、無理です。れ、レクス様」
皆が頷く。
「……そうか。お前達はそう思っているのだな……」
「なぁほら? そうだろ天才サマよ? 少しは大人になれって。別に私に勝てなくたってなぁ……」
レベッカが諭すように言う。
「いいや、それは違うな……」
レクスの声がレベッカの声を遮る、
「何が違うっていうんだ……」
「……俺が信じてる……」
「はぁ?」
困惑したようなレベッカ。
「この俺がお前に勝てると信じている。他の誰が信じていようがいまいが、俺は信じている……」
「「「……」」」
皆が黙り、沈黙が訓練場を支配した。
だが、
「ははははッ! 笑わせんなよ、天才サマよぉ」
笑い声がその沈黙を裂く。
「……そりゃ、そうだろうさ! お前は勝てると思ってなきゃ、姐さんと戦おうなんて言わないだろうさッ!」
モヒカン頭の傭兵が煽る。
「ふふふふッ!」
「ははははははッ!」
「笑わせんなよクソガキッ! ははははははッ!」
その笑い声に続く様に、半裸の傭兵達が笑う。
だが、何故かその中心にいるレベッカと、一部の人間だけは、何故か笑わずに呆気に取られた表情をしていた。
「……黙りな。私がコイツと話してるんだ、お前達は、余計な口を挟むんじゃないよッ!」
「「「……」」」
レベッカは、傭兵達を鎮めるようにそう言った。その言葉に皆が静まり返る。
「おかしな事を言うじゃないか……ふん」
面白そうに鼻を慣らすレベッカだが、その笑いは先程の傭兵達の嘲笑う様な笑い声とは少し違った。
「ミリアムよ、顔を上げて、俺を見るのだ」
「……はい」
そう答え、ミリアムが顔を上げる。
「さっき俺はお前に俺の格好良いところを見せてやるといったな……?」
「……あ、はい。(そんな事言ってた気もする? あんまりちゃんとレクス様の話聞いてなかったです……なんてこの空気の中じゃ言えないよ……)」
周りの兵たちにの視線を一身に集めるこの状況でミリアムは本音を言うことができない。
「いいか、ではミリアム見ていろ。俺を見ているのだ。俺が見せてやる。お前の信じる不可能を可能にする、男のその格好良さというものを……ッ!」
「え?! その、あッ! は、はい……ッ」
「……ふふ、まかせろ……」
その決意のこもった言葉を聞いた瞬間、ミリアムの胸は不思議とドクンと跳ねた。
――くぅー……。よし、決まった。
――完璧に決まった……ッ!
――俺も自分で自分に痺れてしまったぞ。
レクスは自分に酔いながら微笑む。
「では行ってくる。約束だ。必ず俺が勝つ。――そして、今度はお前にも壁ドンをやってやろう……ッ!」
「は、はい……ッ!」
爽やかなキメ顔スマイルを浮かべミリアムから離れていくレクスの背中見ているミリアムは、胸の鼓動の高鳴りが強くなっていくのと、頬に熱を感じてしまう。
一体、何故かミリアムが今そんな状態になってしまったのか?
自信に満ちた発言が、ミリアムの女心に響いたとか、色々な理由があるのかもしれない、だが、一番大きな理由というのは、レクスの顔が良かったからだ。
ミリアムもレクスの容姿だけ見た第一印象は、その心をときめかせるのには十分な美少年でもあったのだ。
人間性はともかく、作中屈指の美形キャラ設定は伊達ではないのだ。
「やるぞ、レベッカッ!」
レベッカをみるレクス。
「……確かになんか今日は昨日とは違う気がするね、なんなのか分からないけど、なんか今日のアンタは昨日とは違う気がする……」
「男子、三日会わざれば刮目し見よというではないか」
「なんだって……?」
「男の成長は早いのだ。3日もあれば男は変れる。ということわざだ」
「聞いたこと無い言葉だが、お前とは昨日あったばかりだろう……?」
耳馴染み無い言葉に戸惑うレベッカ。
「……最早、俺ぐらいになると、一晩で劇的に成長しているのだ……」
「そうかい……。まぁいいついてこい」
レベッカは困惑した。だが。彼女は、レクスに手招きする。
「ああ……」
そんなレベッカについてレクスは歩いていった。
「……壁ドン?」
背後に聞こえる、そんな疑問の言葉を聞きながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます