第2話 巨大ウシブタを追え!

 まだ夜も開けきっていない早い時間。


 私、メイと、金髪ツインテールをなびかせたアイナは、二人で獲物を追いかけていた。


「待てーっ、ウシブターっ!」

「お肉っ、待て待てーっ!」


 ウシブタっていうのは、猪に牛の角が生えたような姿をしたモンスター。


 その名の通り、牛肉と豚肉の混ざったような味がして美味しいんだ。


 私たちがなぜこのモンスターを追いかけているかというと、事の始まりは昨日の夜。


 アイナがとつぜん「お肉……お肉が食べたいぃ!」なんて叫ぶ出すからもう大変。


 確かに川の近くに拠点を構えているせいか、最近はお魚ばっかり。


 それで私もお肉が食べたくなっちゃって、ウシブタがよく現れる早朝に、近くの山まで二人で狩りに来たってわけ。


「はあ……はあ」

「どこ行った、お肉うう‼」


 ウシブタって強くはないんだけどすごく足が早くてすぐに居なくなっちゃう。


 私たちはすぐに獲物を見失って、その場に座りこんでしまった。


「相変わらず足が速いわー」


 私がぼやくと、アイナがすくっと立ち上がった。


「そうだ、アイナが飛翔スキルで上から見てみるっ!」


「あっ、それいいね」


 アイナが呪文を唱えると、アイナの背中に黄色く光る翼が生えた。


 ふわりと木よりも高く舞い上がるアイナ。


「どう? ウシブタはいた?」


「んー、ちょっと待ってぇ」


 アイナが目を細めて辺りを見回していると、どこからか叫び声が聞こえた。


「うわあああーっ、助けてぇ!」


 私とアイナは顔を見合せた。


「今のは……悲鳴!?」


「行ってみよっか」


 二人で悲鳴がした方角へと向かった。


 ほどなくして、巨大な緑色のドラゴンが見えてきた。


 ドラゴンの目の前には、甲冑を身につけた騎士と黒づくめの魔法使い風の男の二人が尻もちをついている。

 

 しかも二人のライフを見てみると今にも尽き果てそう。


 うーん、あんまり戦闘はしたくないんだけど、仕方ないか。


「アイナ!」


 私が叫ぶと、アイナは真面目な顔をしてうなずいた。


「あいよ。ヒール!」


 アイナが回復魔法を唱えると、二人のライフは八割ほどまで回復した。


「どいて!」


 私は手元に愛用の斧を召喚すると、そのままドラゴンの真正面でジャンプした。


「でやああああああ!」


 斧をドラゴンの眉間に叩きつけると、ドラゴンの額から緑色の血が吹き出した。


 倒したかな?


 私がじっと見つめていると、ドラゴンは光る緑色の立方体の塊になりバラバラと崩れ落ちて消え去った。


「――ふう」


 私が額の汗を拭っていると、先ほど助けた二人組が駆け寄ってきた。


「ありがとうございます。あなたたちは命の恩人です!」


「いやあ、それほどでも」


 私はポリポリと頭をかいた。


「私たちは一晩中あのドラゴンと戦っていたのですがドラゴンのHPは全然減らないしポーションも尽きてもう駄目かと思っていました」


「ここのボスを一撃で倒すなんてすごいです! ひょっとしてあなたはランカーですか?」


 男二人が私につめ寄る。


 あいつ、あの辺のボスなんだ。知らなかった。ボスってあんな弱いんだぁ。


「た、たまたま弱ってたんじゃないですか? あははは……」


 私はポリポリと頭をかいた。


 実は私、可愛い家やおしゃれな家具を作るためにひたすら丸太を切ったり、美味しい料理のために森の魔物を獲っているうちに、斧スキルがMAXにまで上がっちゃってたんだ。


 でもこの事はカフェのメンバーも含め、他の人には内緒にしている。


 だって私の目標とする大好きな日常系アニメみたいなゆるふわ生活には全然似つかわしくないもん。


 可愛くないのは絶対にイヤ!


 私の理想は可愛い女の子たちと可愛い家に住んで、おしゃれなスローライフを送ることなんだから。


「たまたまですよ、本当にたまたま……」


 私がたじたじになりながら言い訳していると、アイナの叫び声がした。


「あーーーーっ! あそこにウシブタがいる!」


「えっ、本当?」


 私は慌ててアイナの指さすほうを見た。


 すると丸々太ったお肉ちゃん……じゃなくてウシブタが草むらに身を潜めてる。


 本当だ。探していたお肉!


 口の中がヨダレでいっぱいになる。


 そう。今はドラゴンなんかより、お肉のほうが大事!


「そ、それでは私はこれでっ」


 私は二人に別れを告げると、急いでウシブタのいる方向へと走った。


「えっ、あっ……ちょっと」

「せめてお名前を!」


 二人の声を無視し、私とアイナは獲物に向かって全速力で走った。



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